秩父地方の信仰行事を再興

秩父地方で一年間に行われるさまざまなお祭りの中で先陣を切るのが、3月第1日曜に行われる「長瀞火祭り」。宝登山ロープウェイ宝登山麓駅のそばにある長瀞山不動寺の伝統行事で、元々は秩父地方で育まれた信仰行事「火祭祈願」を1978年に再興したもの。護摩(ごま)の霊火によって己の欲やけがれを焼き払い、不動明王に慈悲と加護をいただく秘法の火渡り祈願「柴燈大護摩(さいとうおおごま)・火渡荒行」が執り行われる。

当日は10時15分から長瀞駅前広場で秩父の各地に伝わる郷土獅子舞の奉納が行われ、その後12時30分から火祭り会場に向けて「練行(れんぎょう)」が始まる。ほら貝を吹き鳴らす修験者の後を獅子舞一行、信者たちが続き、約40分かけてゆっくりと練り歩く。行列は例年1000名を越すともいわれ、ほら貝の豪快な音や獅子舞が打ち鳴らすお囃子(はやし)の音色が響きわたるなか、列を成して歩く姿は圧巻だ。

クライマックスは迫力満点の「火渡荒行」

練行の一行が火祭り会場に到着すると、13時ごろから「柴燈大護摩」が始まる。火祭り会場は宝登山麓駅すぐ下の広い駐車場の半分を使って行われる。「関東では火祭り自体がめずらしいですし、さらに長瀞の火祭りは規模が大きくて迫力満点なところが見どころです」と教えてくれたのは長瀞火祭り奉賛会の杉山さん。

会場の中央には巨大な護摩壇が組まれ、刀や斧、矢で邪気を払う儀式の後に火が放たれる。「60束の薪の上に木の枝やヒノキの葉を積んで緑の山のようなものを設置するのですが、乗用車1台分ぐらいの大きさがあります。轟々(ごうごう)と音を立て、巨大な火柱を上げて燃える様子は勇壮そのものです」(杉山さん)。

そうやって火渡り修行の道場が完成すると、いよいよ祭りのクライマックスである「火渡荒行」が奉修される。修験者たちが開運厄除や宝福招来を祈願しながら燃え盛る炎の中に飛び込み、裸足で走り抜けていくのだ。なかには1m80㎝近い大きなお札を担いで渡る修験者も。彼らの真剣な表情から強い精神力と信仰心を感じることができ、参拝者は固唾(かたず)を飲んで見守るばかりだ。

裸足の修験者たちが炎の中を駆け抜ける様子は迫力たっぷり!
裸足の修験者たちが炎の中を駆け抜ける様子は迫力たっぷり!

修験者や関係者の火渡りが終わり、火の勢いが落ち着いてくると、最後に一般参拝者も火渡りに参加できる。「毎年長蛇の列を作って1000人前後の方々が参加されます」と杉山さん。行列に並んで裸足になれば準備OK。一年間の願いを込めながら火渡りにチャレンジしてみよう。

開催概要

「長瀞火祭り」

開催期間:2025年3月2日(日)

開催時間:10:00~15:00ごろ

会場:宝登山麓火祭り会場(埼玉県長瀞町長瀞1753-1)ほか

アクセス:秩父鉄道長瀞駅から徒歩20分

【問い合わせ先】長瀞火祭り奉賛会☎0494-66-3424

 

取材・文=香取麻衣子 ※画像は主催者提供