話の枕を生み、故郷の味を呼び起こす……スナックの夜を彩る「突き出し」のはなし
酔うと歌いたがる人、いますね。でも泣いたり怒ったりするよりよほどマシですよね? 日頃カラオケボックスで気心知れた仲間と歌うのを好みながら、他方、見も知らぬおじさんたちに緊張混じりに交じって「ワインレッドの心」を眉間にシワ寄せて歌ったり、ママさんと「銀座の恋の物語」をうっとりデュエットするのもまた好むワガママ中年男もいるようですが。知らない人たちと歌で心が繋がり、突如結成される赤の他人カラオケユニット。永久に再結成叶わぬ偶然の歌謡団がもたらす奇妙に調和した一夜が忘れられず、博打打ちが放られたサイコロの転ぶ先から目線を切れないように、中年男も夜のとばりに我が身を投げることをやめられない。夜な夜なギャンブルのごとき気持ちで身を投じる先こそが、「スナック」です。このとき、予想不能の夜を盛り上げる重要な演出装置が、「突き出し」なのです。ポンと出された瞬間おおっ、となるスナックはもう、間違いない。一見のお店でも一瞬で身体のこわばりが解かれ、必ずいい歌が歌えます。