本から始まる街の文化拠点『BOOK CAFÉ 麓と畔(ふもととほとり)』【逗子】
店主の田沼素哉さんが、逗子のなぎさ通りに店を開いたのは2025年12月。前職が建築と内装のデザイナーだったこともあり、細部まで心を砕いた空間で、本を読むことに集中できる。本棚は自ら設計し、圧迫感がなく見やすい陳列で、椅子は座り心地満点な上にテーブルとの高さもちょうど良い。コーヒー豆は3種類のスペシャルブレンドを『大澤珈琲店』から、ケーキは『黒門カフェ渚小屋』からと、逗子の名店の味も楽しめる。置いてある本は田沼さんの蔵書で、デザイン、建築、美術、鉄道など乗りもの全般、動物、日本の現代小説など幅広い。「年齢とともに、読む本のバリエーションが広がってきた」とのことで、その重層的な本の並びを見るのも楽しみの一つ。営業が終わった夕方から、読書会や音楽を聴く会を開催している。2階の利用法も検討中。
店主・田沼さんの一冊
『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』(穂村弘、山田航 著/新潮社)
穂村弘の短歌を歌人の山田航が解説、それに穂村弘が応えるという構成で、取り上げる歌は120首。「タイトルに惹かれて書店で買ったんですが、読みものとしてとても面白かった。1首目から、詠まれた歌の映像が浮かぶんです。本のレイアウトも凝ってます」。
『BOOK CAFÉ 麓と畔』店舗詳細
本と親しんで育った地元で開いた絵本の店『Little Summer Books』【葉山】
扉を開くと、色彩豊かな絵本が目に入る。小体な店ならではの親しみのある空間に国内外の絵本や児童書が並び、一冊一冊が愛おしい。店主の希有(きなり)さんは、生まれも育ちも葉山で、2025年12月13日、自らの誕生日に店を開いた。かつてハワイ島に住んでいたとき、現地の古本屋さんで見た絵本に、日本とは違ったかわいさがあって惹かれたことが開店のきっかけの一つ。日本でも知られている物語の英語版や、偉人の伝記絵本など、手に取りやすいものを選んでいる。希有さん自身が幼い頃、よく読み聞かせをしてもらった思い出から、日本の絵本や児童書はロングセラーの作品を多く置いている。「大人の方が、幼少期の思い出を話してくださることがあって、胸がいっぱいになります」。これまでの経験で積み重ねてきた“好き”が詰まった店である。
店主・希有さんの一冊
『おふろだいすき』(松岡享子 作・林明子 絵/福音館書店)
お風呂の底から、次々に動物が浮いてくる。かめ、かば、そして最後に出てくるのは……。「いちばん好きだった絵本です。なんで好きだったのかは覚えていないんですけど、絵も内容もしっかり覚えてる。ほんとうに大好きで、店にも常備してます。おすすめです」。
『Little Summer Books』店舗詳細
サーフカルチャーの発信基地を目指して『Books&Gallery 海と本』【長谷】
「海は僕、本は弟なんです」と店主の鎌田啓佑さんは話す。寺社の庭を造る仕事をしていた弟さんが遺した本棚を見て、「弟の興味があったものが詰まっていて、人格が形成されているように感じた」という。鎌田さんは長くサーフィンに親しみ、海では体感的な学びがあった。一方で、本は人間の社会的な学びだと感じる。「海と本」という店名には、その2つの学びという意図がある。店に並ぶ本は、海やサーフカルチャーにまつわるものが多い。写真集、アートブック、ZINE、雑誌と媒体はさまざまだ。「これらは“種”なんです。僕の興味が広がっていくのに合わせて枝葉を広げていき、訪れるお客さんも共に楽しんでもらえれば」。店内からは長谷寺が見える。差し込む光が季節や時間によってうつろう心地良い空間だ。
店主・鎌田さんの一冊
『BADFISH Kaoru Ohno』(林芳史、⽊頃裕介、鎌⽥啓佑 編/サイドシックス)
プロサーファーであり文筆家でもあった大野薫さんのトリビュート集。書名は、常識にとらわれない反逆者の意味のスラング。鎌田さん自身が編集に携わっている。「僕にとってはすごく重要な人なので、そのレガシーを残したいという思いでつくりました」。
『Books&Gallery 海と本』店舗詳細
読んでは飲み、飲んでは読む幸せスパイラル『ホントバ』【逗子】
店主の大谷由子さんは、2024年11月、自宅の一角に本と酒肴(しゅこう)を楽しむ店を開いた。「店をやろうと思って探していたわけではなく、軽い気持ちでこの物件を見に来たら、ここで何かできるんじゃないかと思ったんです。勢いです」。本棚に並ぶのは自身の蔵書で、大作の小説、ノンフィクション、哲学など、重厚なラインアップ。1冊の本を何回も読むスタイルで、どれもびっしりと付箋が貼ってある。「この棚にあるのは、わたしにとっては手放せない、生き残った本たちです」と話す。店で供されるのは、純米酒や本格焼酎、発酵食品や地場の野菜を使った料理。なかでも、その良さを知ってほしいと燗酒(かんざけ)が充実している。店名の「トバ」は「とば口」とかけていて、未知の本や酒、人や地域への入り口という意味も込めている。心穏やかな読書の時間を存分に楽しみたい。
店主・大谷さんの一冊
『私のように黒い夜』(J.H.グリフィン 著・平井イサク 訳/ブルース・インターアクションズ)
著者である白人男性が、自身の肌を黒く染め黒人としてアメリカ国内を旅したノンフィクション。原書は1961年刊行。当時は公民権運動がさかんな時代で、白人だけでなく黒人からも差別を受けることになる。「とても衝撃を受けた、忘れられない1冊です」。
『ホントバ』店舗詳細
取材・文=屋敷直子 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年6月号より





