自分のなかで、いちばん古い本屋さんの記憶を覚えているだろうか。近所の小さな店に、さまざまな色と大きさの本があることが刺激的で楽しかった幼少期。何度も通ううちに書かれている内容も理解し、本の価値を知るようになる。なにより本屋さんに行けば、自分が知らない本に出合うことができるうえに、実物を手にとって中身を見ることができるのだ。

今回取材した3店舗には、都心の書店とは似て非なる地域密着ならではの個性がある。硬派な人文書を揃える『長谷川書店』、棚を回ってつい長居してしまう『川上書店』、地元ゆかりの本が見つかる『サクラ書店』。一方で、みな口を揃えて「すべての本を手にとれることが、自分たちの店の強み」と話してくれた。

実際に足を運んでもらおうと試行錯誤するのはそのためだ。紙の本の手触りを実感し、書かれている内容はもちろん、文字組みやデザインを確認し、その重さを感じながら店を後にする体験は、読書という一連の行為の大事な要素だと私は思っている。
それはたぶん、自分の本屋さんの原体験によるものなのだろう。この3店舗もきっと誰かの原体験であるはずだ。地元の書店と共にある生活を大切にしたい。

長谷川書店 ネスパ茅ケ崎店

本に親しむきっかけをつくるために

「絵本とおはなし会」は、21年6月で261回。雨をテーマに6冊のおはなしを聞く。

毎月1回開いている「絵本とおはなし会」は今年、23年目になる。読むのは季節に合わせて選んだ数冊の絵本。確かな技術をもった方たちによる読み聞かせに、子供も大人も夢中になる。店長の長谷川静子さんは、自店の仕事は「本を売ることと読書推進活動の二本柱」と話す。読書会などを開催できるのも、書棚の充実があってこそ。お客さんの顔を思い浮かべながら、一冊一冊を選んでいる。

店長の長谷川さん。「おはなし会で読んだ本は売り場にも置いています」。
1階の人文社会の一角は力を入れて揃えている。
平台では「四六判宣言」として、複数の版元が集まって長く読み継いでいきたい本のフェアを開催中。

『長谷川書店 ネスパ茅ケ崎店』店舗詳細

住所:神奈川県茅ケ崎市元町1-1/営業時間:9:30~20:00(日・祝は10:00~19:00)/定休日:無/アクセス:JR東海道線・相模線茅ケ崎駅から徒歩1分

川上書店 ラスカ店

スタンダードな本屋さんを目指して

大山さんは自らレジに立つ。「本屋さんは同じものを扱っているからこそ、接客が大事だと思っています」。

駅ビルの5階、通路が広く圧迫感がない店内は、曜日や時間帯によってさまざまな層のお客さんでにぎわう。「何か特色がある店というよりは、どんな年齢層の方でも、ここに来れば探している本や楽しそうな本が見つかるような店を目指しています」と社長の大山裕祐さん。棚を低くして視界を広く、柱にはジャンル名を大きく書くなど、細かな気づかいが積み重なってこその、スタンダードなのだ。

児童書コーナーは広く、人気のシリーズを揃えている。
全国的に売れているベストセラーが茅ケ崎でも売れるとは限らない。地域をよく知ることも、書店の重要な仕事のひとつ。
入り口の平台には、新刊だけではなく、電車の中吊りやテレビで話題になった本を揃える。

『川上書店 ラスカ店』店舗詳細

住所:神奈川県茅ケ崎市元町1-1/営業時間:10:00~20:00/定休日:無/アクセス:JR東海道線・相模線茅ケ崎駅から徒歩1分

サクラ書店 ラスカ平塚店

地元を愛し、寄り添い続ける

店長の西山さんはキャリア15年。よく読むのは、小説やミステリ。好きな作家は伊坂幸太郎。

店内には、そこかしこに地元ゆかりの本が並ぶ。「平塚は地元愛が強いです」と話しながら店長の西山直樹さんが案内してくれたのは、湘南ベルマーレ関連の本。入り口の棚には、平塚在住の作家、遠坂カナレさんの新刊。一方で、『徳川家康』(山岡荘八著)、『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)などの大ロングセラーも揺るぎない売れ筋だ。地域の人がこの書店で育ち、年を重ねていることが伝わってくる。

遠坂カナレさんの新刊『江ノ島お忘れ処OHANA~最期の夏を島カフェで~』。平塚の七夕まつりがテーマになっている短編が収録されている。
文具コーナーも併設。味のある手書きの表示板がいい。
湘南ベルマーレ関連の一角。なかなか手に入らないものもある。

『サクラ書店 ラスカ平塚店』店舗詳細

住所:神奈川県平塚市宝町1-1 ラスカ平塚5F/営業時間:10:00~20:00/アクセス:JR東海道線平塚駅から徒歩1分

有隣堂 藤沢店

老舗ならではの安心安定感を受け継ぐ

地域の人気者、江ノ電のコーナー。

藤沢駅前、名店ビルの2階から5階に店を構えて2021年で55年。雑誌、コミックから専門書まで幅広い品揃えを誇り、どの売り場も本が乱れなく並んでいて美しい。店長は「お客さまのほしいもの、ほしいサービスを拾っていくようなお店です。一度になんでも揃う、百貨店のようなところ」と話す。重厚な人文書のコーナーで、長い時間をかけて本を選ぶお客様が多いのも信頼の証しだ。

5階にある人文書の棚。ジャンルや著者名で見やすく分類されている。
人文書と同じフロアには古本とアウトレット本の区画も。新刊で網羅できない分野を補完できる。
文具、印鑑、高級筆記具、書道用品などの売り場も健在。専門スタッフがいて相談に乗ってくれる。

『有隣堂 藤沢店』店舗詳細

住所:神奈川県藤沢市南藤沢2-1-1 フジサワ名店ビル2~5F/営業時間:10:00~20:00/定休日:無/アクセス:JR東海道線・小田急江ノ島線・江ノ島電鉄藤沢駅から徒歩2分

有隣堂 藤沢本町トレアージュ白旗店

気軽に寄れる、地域密着型店舗

アクセサリーやマスクなど、地域の人たちの手作り雑貨を売る「おはこさん」。

ショッピングセンターの一角にあり、近隣で暮らす人たちの日常に沿った品揃えを目指している。コミックやパズル誌が人気だが、時代小説の棚はとくに充実していて、出版社順ではなく著者別に並べているので探しやすい。新聞広告の切り抜きを持ってきたり、テレビで紹介されたものを探しにくるお客さんも多く、本と生活と書店が無理なく密接につながっていることがうかがえる。

時代小説の文庫は、著者別に分類されている。まだ読んでいない作品が見つけやすく、親切な工夫だ。
パズル誌のラインナップは膨大。一見、違いがわかりにくいが頻繁に買っていく人も多い。

『有隣堂 藤沢本町トレアージュ白旗店』店舗詳細

住所:神奈川県藤沢市藤沢2-3-15 トレアージュ白旗2F/営業時間:10:00~20:00/定休日:無/アクセス:小田急江ノ島線藤沢本町駅から徒歩5分

有隣堂 テラスモール湘南店

心地よさと刺激が同居する

「Do!Kids」コーナーには水槽があり、子供たちに人気。湘南だけに海水魚にこだわっている。

絵本や児童書を集めた「Do!kids」のコーナーから店に入ると、最新刊の本、雑誌、文芸。中央には季節の雑貨を揃えた「Do Life」、その横に文具、奥に行くと人文、コミックと棚が続く。表紙を見せて並べる面陳が多く、本を見つけやすく、親しみやすいようにしていて、身構えることなく選ぶことができる。本が主役ではありながら、日々の生活をさまざまな側面から支える知恵が詰まっている。

画集や写真集の棚が広い。同じフロアに映画館があり、上映作品と連動した書籍を販売することもある。
広々として充実のコミックコーナー。ジャンプ系はもちろん女性向けコミックも人気。

『有隣堂 テラスモール湘南店』店舗詳細

住所:神奈川県藤沢市辻堂神台1-3-1 テラスモール湘南4F/営業時間:10:00~21:00/アクセス:JR東海道線辻堂駅から徒歩1分

有隣堂 ららぽーと湘南平塚店

ブックカフェ併設のくつろぎ空間

「STORY CAFE」のベジチキンサンド1100円は、アメリカの作家、マーガレット・ミッチェルにインスパイアされたメニュー。

駅からすこし離れたモール内にあり、「家族で遊びに来てください」と店長の佐藤宏さんが話すように週末はファミリー層でにぎわう。とくに児童書は充実していて、入り口にはおすすめの図鑑シリーズが積まれ、対象年齢は幼児から小学生まで、ロングセラーから最近の売れ筋までと幅広い。併設のカフェでは、文豪や作品をイメージしたメニューを出していて、書店ならではの楽しみ方ができる。

児童書と玩具や雑貨を一緒に置く「Do!Kids」のコーナー。通路も広く、親子で楽しめる空間だ。
店内入り口の平台には、おすすめの図鑑シリーズが並ぶ。

『有隣堂 ららぽーと湘南平塚店』店舗詳細

住所:神奈川県平塚市天沼10-1ららぽーと湘南平塚3F/営業時間:10:00~20:00(カフェは19:00LO)/定休日:無/アクセス:JR東海道線平塚駅から徒歩12分

取材・文=屋敷直子 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2021年8月号より