「ラーメン屋っぽいお店にしたくなかった」
「オーナーの意向もありますが、『ラーメン屋さんっぽいお店にはしたくない』という思いが創業当時からありました」――『ねいろ屋』の店長を務める海後(かいご)育恵さんはお店のコンセプトについてこう語ってくれた。
荻窪駅北口から歩くことおよそ5分。教会通りと言う通り沿いにある『ねいろ屋』の外観を見た時、誰もがラーメン屋だとは思わないだろう。そしてその印象は店内に入っても変わらない。瓶に入ったドライフラワーやアクリル板に記された手書きのメニューなど、オーナーと海後さんが選んだというインテリアの数々で彩られた店内はラーメン屋というよりもまるでイマドキ女子に人気のカフェそのもの。
「どんなラーメンが提供されるんだろう」と、おもむろにメニューを見てみると……醤油や塩など、3種類のラーメンとトッピングのみが記されているという、まさにラーメン専門店のそれ。どれも興味深いメニューだったが、「初めてのお客さんはこれがオススメです」という海後さんのアドバイスに従い、瀬戸内しょうゆらーめんをオーダーした。
瀬戸内エリアの素材が生み出す優しいハーモニー
荻窪の名店『ラーメン二葉』で修業を積んだオーナーが、店舗の移転によって、『ねいろ屋』をオープンしたのが2012年。今年で創業9年目というラーメン激戦区・荻窪では比較的新しいお店だが、その味は創業当時から話題に。この瀬戸内しょうゆラーメンも4種類の醤油をブレンドして作られたというこだわりの一杯である。
「昔ながらの中華そば」と言う雰囲気のラーメンが多い荻窪にあって、同じ醤油ラーメンでも似て非なるこのラーメン、スープをひと口飲んでみると、醤油の奥深さと魚介系出汁の風味が喉を通り過ぎる……サッパリとしていながらコクがある味わいで、次のひと口が止まらない。ストレートタイプの麺とも相性抜群で、気が付くと麺がなくなっていたというくらい、あっという間に一気に食べれてしまう美味しさだった。
「このスープはオーナーの地元、瀬戸内海で採れる伊吹いりこと愛媛のブランド鶏の媛っこ地鶏をベースにしたもので、そこに4種類の醤油を掛け合わせました。化学調味料を使っていない無添加な食材で作っているのがこのお店の自慢です」と、海後さんも胸を張って答えてくれた。
トッピングされた具材を見てみると、醤油ラーメンには欠かせないメンマとねぎに海苔、そしてナルトなどオーソドックスな印象だが、メインのチャーシューは脂身の甘さが感じられる柔らかい豚ロースと、しっとりとした食感がうれしい鶏むね肉の2種類。
鶏チャーシューについて海後さんに伺うと「お客さんにも大好評で、おつまみとしてもピリ辛とりちゃーしゅーとして提供しているのですが、これを食べながらお酒を楽しむ方もいらっしゃいますね」とのこと。確かにこの鶏チャーシューならきっと、お酒も進むはずだ。
味わい深いスープをすすりながら、鶏チャーシューを味わう……一度で二度おいしいとはまさにこのことだろう。
味の秘訣は毎日の味見に
瀬戸内エリアの食材をふんだんに使用し、素材のそのものの味わいが楽しめる『ねいろ屋』。化学調味料無添加のナチュラルな味わいは女性にも子供にも人気で、駅から少し離れた通りにありながらも、ランチタイムには常連さんが後を絶たないという。
そんな『ねいろ屋』の味の秘訣を海後さんに聞いてみると……こんな答えが返ってきた。
「当たり前かもしれないですが(笑)、スープの味見を毎日必ずすることですかね。化学調味料を使わないでイチから出汁を取るため、いりこのサイズや季節によってどうしても味がブレてしまうんです。なので一日一日ちゃんと味見をすることで調整しています。スタッフそれぞれ味覚は異なりますが、みんなで味見をして共有することでいつもの味わいにするように心がけています」
地味ながらも、決して欠かさない毎日のルーティーンこそが『ねいろ屋』の味の秘訣。ラーメン激戦区・荻窪でこの優しい味わいが親しまれているのも納得だ。
取材・文・撮影=福嶌 弘