一、途中下車もしつつ、食材は現地調達すべし
一、荷物は最小限にして、行動しやすくすべし
一、現地ならではの体験を、とことん楽しむべし
バスを降り、少し歩くと筆記体で「gandhara」と書かれた看板が現れた。階段を下ると、小さな平地と浜辺、キラキラ輝く海が見える。ここが、求めたユートピアか。急な階段だったので背中にはじんわりと汗。その汗がある日のキャンプを思い出させた。
あれは10数年前の夏。青春18きっぷで猪苗代湖へキャンプに行った日だ。翁島というマイナー駅から湖畔まで歩くこと40分強。背中に汗がにじむ頃、猪苗代湖と磐梯山の絶景が目に飛び込んできた――。
今、『ガンダーラ真鶴』から見えるのは相模湾と丹沢山系。崖下のキャンプ場で絶景をひとりじめできる喜びが湧いてくる。この僻地 (へきち)を切り開き、キャンプ場にしたのは岩間浩造さん。
「最初は仲間とトム・ソーヤごっこで、海遊びの基地を造ってたの。キャンプ場にしたのは2015年だね」
目の前の海で泳いでいた魚を炭で焼いて喰(く)らう
車を使わない“青春18きゃんぷ”の良さは、途中下車や道中で、地元商店の食材を気軽に買いやすいところ。 早速、炭を熾(おこ)し干物やさつま揚げを焼く。かまぼこは、サクラのスモークウッドで燻製だ。焼き網の隅に置いたステンレスカップに地酒・丹沢山を注ぎ、炭の熱で “ゆる燗”。じんわり温めたせいか口当たりがやわらかく、旨味はなおふくらむ。ほろ苦いウルメイワシの干物や焦げ目のついたさつま揚げとの相性の良さに、頬はゆるみっぱなしだ。
1. 二藤(にとう)商店
旨そうな魚介系総菜に散財必至!
鮮魚や干物、総菜が彩りよく並ぶ創業約70年の老舗。アジなどを骨ごとつぶして作るさつま揚げ130円や甘辛くふっくらと煮たキンメ煮付け400円など、女将・秀子さん手製の総菜を買えば、ソロキャンプの食がより豊かに! 小腹を満たすならアジ押し寿司400円もおすすめだ。
●7:30~18:00、水休。☎0465-68-2151
2. 草柳商店
笑いが飛び交う真鶴の夜の集会所
店主兼バンドマンである草柳(くさやなぎ)重成さんの人柄に惹(ひ)かれ、漁師から若手移住組までが集う酒屋であり角打ち。山北町・川西屋酒造店が醸す「丹沢山」や、開成町・瀬戸酒造店の「セトイチ かくかくしかじか」など、丹沢山麓の地酒が充実。「オリジナルラベルの『真鶴岬の歌』もぜひ!」と草柳さん。
●10:00~21:00、木休。☎0465-68-1255
3. 髙橋水産
求道者が目指す究極の干物とは
「各年や日によって魚の状態が変わるので、その素材の良さを最大限に活かす塩加減、干し時間を考えています」とは、“干物仙人”こと髙橋敏之さん。塩度を抑えつつ、魚本来の旨味を引き出すのが仙人流。例えばキンメやカナガシラなど、真鶴港に揚がる季節の地魚の干物が多いのも魅力だ。
●10:00~17:00、無休。☎0465-68-1859
4. ガンダーラ真鶴
相模湾が広がるワイルドサイト
真鶴半島のほぼ先端、崖下にあるキャンプ場。代表の岩間さんたちが崖を削り、小屋を建て、徐々に今の形に。目前が海のため魚突きや釣り人の利用も多い。車道から急階段を下ってのアクセスとなるが、荷物はトロッコで上げ下げ可能(1回500円、9:00~17:00以外は1000円)。
●デイキャンプは9:00~17:00、無休。1人1500円。☎090-3535-2346
青い空と青い海。ガンダーラでしばし解脱
腹が満ちたら、すぐ横の磯でゆるく穴釣り。岩の間を狙い、仕掛けをチャポン。ほかに聞こえるのはザバ〜という波音のみ。この日釣果はゼロだったが、心はしっかり洗われた。
列車の乗り降り自由な日帰り旅と、誰にも束縛されないひとりでの野営と。“青春18きゃんぷ”は、若き日の放浪気分を束の間だけど蘇(よみがえ)らせてくれた。次は一泊して、日常生活からもっともっと解脱したい!
ACCESS
JR・地下鉄東京駅からJR東海道線で約1時間40分の真鶴駅下車。『ガンダーラ真鶴』へは、西の浜より伊豆箱根バス「ケープ真鶴」行き約20分の終点下車2分。
ADVICE
持参を迷った道具や食材は家に置いていき、荷物はなるべく少ない方がラク。デイキャンプ程度なら大体のモノは現地で買える。帰りにゴミを列車に持ち込むのは大変なので、現地で捨てられるキャンプ場を選ぼう。
ズボラ感がデイキャンプにぴったり! 簡単・お手軽キャンプめし
お金も荷物運搬の手間もかからない段ボールと目の前の海水を使って、ワイルドレシピに挑戦。待てばほぼ完成というズボラめしながら、酒のつまみになることうけあい!
かまぼこの燻製
鶏胸肉の海水漬け焼き
荷物を軽くするアイデア
“18きゃんぷ”は軽さが正義
車を使わない分、荷物を極力軽くする工夫も“18きゃんぷ”の醍醐味。二刀流のモノや超軽量の道具を選べば足取りも軽やかに!
“東京近郊18きゃんぷ”おすすめスポット
公共交通でアクセスでき、かつ自然豊か。そんな18きゃんぱー向けの希少なキャンプ場をご紹介。渓谷と林間、どっちも非日常感満点!
境渓谷キャンプつり堀場(東京都奥多摩町)
釣果を即焼いて味わえる幸せ
すぐ下に多摩川が流れており、川遊びを満喫したい。場内には釣り堀もあり、ニジマスを釣って自分で塩焼きにすればキャンプめしが一層楽しくなる(貸し竿150円、ニジマス1尾350円)。BBQ広場は屋根があるので、万が一、雨が降っても安心。
●JR・私鉄・地下鉄新宿駅からJR中央線・青梅線で約1時間40分の奥多摩駅下車。西東京バス「奥多摩湖」方面行き約5分の「橋詰」下車5分。デイキャンプは9:00ごろ~16:00、不定休。1人600円。☎0428-83-3410
・奥多摩駅構内の『Gotta Coffee』(左)で自家焙煎コーヒーを買い、自然の中でじっくり淹れる。
フォレストパークおいらの森(栃木県那須烏山市)
山林を開拓し昨年末にオープン
サイトは二カ所に分かれ、ライトフォレストは風通しの良い里山の林で丘陵から田園風景を眺望。一方、ディープフォレストは樹齢80年以上のスギ林が木陰を落とす中、静かにキャンプを満喫できる。里山ハイキングや薪割り体験など滞在中の楽しみ方もいろいろ!
●JR・私鉄・地下鉄新宿駅からJR湘南新宿ライン・宇都宮線・烏山線で約2時間40分の鴻野山駅下車。送迎車あり(要予約)。デイキャンプは9:00~18:00、無休。1人3500円。☎050-3647-1047
取材・文=鈴木健太 撮影=山出高士
『散歩の達人』2021年4月号より