古き良き時代を留めた空間
神保町駅から歩くこと約2分。靖国通りから神田すずらん通り方面へ一本入ると、「ぶらじる」という暖簾(のれん)の文字が目に留まる。そう、ここが今回ご紹介する『神田伯剌西爾』である。お店がある地下へと階段を降りれば、温かみのある灯りの中に、どこか懐かしさを感じる空間が現れる。右手には禁煙席エリア、左手に進むと喫煙可能なエリアが広がる。2020年に施行された東京都受動喫煙防止条例によって、店内喫煙が可能な喫茶店が一気に減ってしまった中で、この店は現在も喫煙可能な店として営業を続けている。
喫煙可能エリアには、カウンター席やテーブル席をはじめ30席以上があり、一角には囲炉裏席もある。全体的に“和”の印象が強い内装で、喫茶店というよりも和食料理店のような雰囲気が漂う。店長の竹内啓さんによると、内装は古民家をイメージしており、創業当時からそのままの状態を保っているという。随所に飾られている民芸品や絵画も、その雰囲気をより一層引き立てているように感じられた。
幅広い焙煎度合いの豆をそろえる
そんな古き良き日本らしさを感じる空間の中でいただくコーヒーは、ブレンドやストレート、アラカルトコーヒーなどから選べる。昔ながらの直火式焙煎機を用いて、焙煎から手掛けるコーヒー豆は、浅煎りから深煎りまで幅広い煎り具合をそろえている。直火式焙煎は、コーヒー豆の特徴を良く引き出せる方法といわれており、風味や香りが出やすいのが特徴。
さらに、この店ではそれぞれの煎り具合に応じて、最適な温度のお湯でドリップを行い提供してくれる。コーヒー豆の煎り具合とお湯の温度には相関関係があり、例えば深煎りの豆のときは80~85℃くらいの低めの温度のお湯でドリップすると、苦みが和らぎ、まろやかな味に仕上がるという。コーヒー豆は販売も行っており、店頭はもちろん、オンラインでも購入が可能だ。
今回は、5種類の深煎り豆がブレンドされた神田ぶれんどをいただいた。しっかりと苦みがききつつも、味わい深さが感じられる。竹内さんいわく、「苦いコーヒーが好きな方におすすめ」の一杯だ。ブレンドはほかにも、亜米利加ぶれんど、仏蘭西ぶれんど、冷しぶれんど(アイスコーヒー)の3種類がある。それぞれ焙煎度合いが異なるため、お気に入りの一杯を見つけていただきたい。また、アラカルトコーヒーにはカルーアオレやアイリッシュコーヒーといった、アルコールを使用した大人のドリンクも名を連ねている。
冷しぶれんどを使った特製珈琲ゼリー
デザートメニューも魅力的だ。生菓子と焼き菓子がそろうが、中でも珈琲ゼリーは1日10食限定のスイーツとして提供している。冷しぶれんどとゼラチンだけで作られたゼリーには砂糖を一切加えておらず、甘みは別添えのシロップで自分好みに調整していただくというスタイル。実は、このシロップも冷しぶれんど用に出しているものと同じだというから、さながら“食べる冷しぶれんど”ともいえるスイーツだ。夏の時期以外は、比較的遅い時間でも食べることができるようだが、気になる方は早めの時間に訪れることをおすすめする。
またケーキ類は、毎日手作りされる自家製のチーズケーキ2種(レア・ベイクド)のほか、茨城で洋菓子の製造を行っている『菓譜え』から仕入れるケーキ3種も人気が高いという。ぶれんど、ストレートコーヒー、紅茶から選べるケーキセットをオーダーすれば、お得にいただくこともできる。
タバコを吸う・吸わないに関わらず、こだわりのコーヒーと甘いものとともに、一日のひと時を過ごせる貴重な喫茶店『神田伯剌西爾』。貴重なオアシスとして、これからも重宝され続けることだろう。
『神田伯剌西爾』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英