村上悠太
Profile:村上悠太(むらかみゆうた)
写真家。1987年に鉄道発祥の地新橋で生まれ、JR発足と小田急ロマンスカー「HiSE」と同い年。列車に乗って旅をしながら撮影するのが大好き。交通新聞社刊「鉄道ダイヤ情報」では「ユータアニキ」として日々、鉄道を支える「鉄道HERO」たちの取材を続ける。下町住まいの1児の父。谷根千は親子の定番散歩コース。

まず、館長からしてロマンスカーの「レジェンド」!

先ずお話を伺ったのは『ロマンスカーミュージアム』の館長を務める高橋孝夫さん。なんと展示しているロマンスカー全てを運転してきた、もはやレジェンドのようなお方です。

一般的に鉄道ミュージアムというと「小田急博物館」のように社名を掲げることが多い中、なぜ『ロマンスカーミュージアム』にしたのか、高橋館長に尋ねてみると、ずばり「ロマンスカーこそ小田急の象徴だからです!」とアツい回答。

 

僕もそう思います!

『ロマンスカーミュージアム』館長の高橋孝夫さん。
『ロマンスカーミュージアム』館長の高橋孝夫さん。

「往年の通勤形車両も保存してあり、他のイベント等では今後その姿をご覧いただけるかと思います。このミュージアムはあえて小田急の伝統であるロマンスカーに特化することで、ご来場いただいた皆さまそれぞれの思い出を展示している車両に投影していただければ」と高橋館長。

さらに「ロマンスカーを運転するということは」と聞くと、「箱根へお出かけになられるお客さまにとっては、ロマンスカーは楽しい旅の始まり。安全はもちろん、乗り心地を特に意識して運転していました。箱根湯本駅について、笑顔でロマンスカーを降りられるお客さまをあの高い運転席からお見送りしていましたが、そうした思い出作りの一端を担わせていただいたのは光栄です」という。

そんなに優しく見守られていたなんて……やっぱりロマンスカーは“ロマン”にあふれてる。

 

圧巻! ロマンスカー5車種が展示されている!

さて、早速館内へ。

ミュージアム外では「木のロマンスカー」がお出迎え。
ミュージアム外では「木のロマンスカー」がお出迎え。

鉄道写真家になるくらい鉄道を愛してやまない僕ですが、そんな「鉄ちゃん」への道へ誘ったのは、何を隠そう、この小田急ロマンスカーたちでした。生まれたてのベイビー悠太は、度々母と小田急沿線に住む祖母の家に行っていたのですが、どんなにぐずっていても小田急線の踏切に連れていき、ロマンスカーを見せるとご機嫌になったそうです。

物心ついた時には、すでに将来の夢は「ロマンスカーの運転士さん」。学生時代には小田急線で毎日通学し、「ロマンスカー」の勇姿を道中で眺め続ける日々。もうまさに「ロマンスカー」は僕の青春そのものなんです。

鉄道好きにとって「通学定期券」は控えめに言って「夢のフリーパス」ですが、定期テスト終わりにはきっぷを追加して箱根湯本や片瀬江ノ島までぶらり旅。お昼には小田急線の立ち食いそば屋「箱根そば」をすすり、帰り道には「ロマンスカー」に乗って、ひとりでよくテストの打ち上げをしてました。

そんな愛する「ロマンスカー」の歴史を体感できるミュージアムということで、もう僕のワクワクは最高潮。まず来場者を出迎えるのは「モハ1」が展示されている「ヒストリーシアター」。

小田急のはじまりを知ることができる「ヒストリーシアター」。
小田急のはじまりを知ることができる「ヒストリーシアター」。

「モハ1」は小田急電鉄の前身である小田原急行電鉄が開業した時に運行していた“元祖小田急”の車両。車両横のスペースでは小田急の歴史をつづったムービーを見ることができます。そしてこの部屋を抜けると……。

圧巻の「ロマンスカーギャラリー」!
圧巻の「ロマンスカーギャラリー」!

「たまらなーい!!」と思わず声が出てしまったこの光景!

歴代のロマンスカーたちがずらりと並んでいます。
ああ、もうこれだけで僕の瞳には思わず涙が。「ロマンスカーギャラリー」に並ぶのは左から「SE(3000形)」、「NSE(3100形)」、「LSE(7000形)」とロマンスカー往年のヒーローたち。「LSE」は2018年まで走行しており、その引退も記憶に新しいのですが、僕がこの3つの中で惹かれるのは「NSE」。

「NSE」はロマンスカーの象徴的サービスのひとつ、「展望席」を初めて採用した車両で、祖母にせがんでよく乗せてもらった思い出の車両。祖母の家に行っては「ロマンスカーに乗りたい!」と度々リクエスト。ゆるーくカーブを描く新宿駅のホーム先を凝視し、「今日のロマンスカーの車種はなんだろう!?」とくじ引きのようにワクワクしていました。当時は3車種のロマンスカーが走っていたのですが、なぜか「NSE」に当たることが多かったんですよね。

乗降ドアは自動ではなく、なんと手動!引き戸構造になっており、駅に着くと係員さんが手で開閉していました。運転席が2階にあるという構造も、秘密基地感満載で少年悠太の心をガンガンにくすぐりました。始発駅とかでは運転士さんが運転台に上がるところを見たくて、はしごのすぐそばで待機。

運転士さんもゆっくりと乗り込んでくれて、可能な限り僕が見やすいようにしてくれたりと……もう、ロマンスカーの運転士さんは僕にとってどんな芸能人よりも憧れでした。(ちなみに今も)。

今ではロマンスカーの車内販売そのものがなくなってしまいましたが、当時は「走る喫茶室」サービスもまだまだ元気。シートまで紅茶やカツサンドを届けてくれるサービスは子ども心にも気品を感じるサービスでした。そんな思い出ドストライクの車両が全て収蔵されているということで、僕の胸は高鳴りっぱなしですよ、ホント。

「NSE」は車内の見学も可能。
「NSE」は車内の見学も可能。
「NSE」の運転台は外からの見学ですが、その姿をしっかり見ることができます。
「NSE」の運転台は外からの見学ですが、その姿をしっかり見ることができます。
「SE」「NSE」は箱根湯本方と新宿方で先頭車のデザインが異なります。こちら側はデビュー後改造され、引退時の状態の先頭車になっています。僕の両車両のイメージはどちらかというとこっち。
「SE」「NSE」は箱根湯本方と新宿方で先頭車のデザインが異なります。こちら側はデビュー後改造され、引退時の状態の先頭車になっています。僕の両車両のイメージはどちらかというとこっち。

「NSE」は、「ロマンスカー」の特色もあった「ピーポー」と電子音が流れる「補助警報音」を引退時まで搭載していた車種。「LSE」「HiSE」にもこの装置はあったんですが、途中で撤去されちゃったんですよね……。

普段の走行時は「NSE」も基本的には補助警報音を使っていませんでしたが、引退が近づくと度々使用しているシーンを見かけるようになり、「NSE」の引退に花を添えるような光景に、悠太少年は感動しておりました。

白いロマンスカー「VSE」でこの補助警報音は復活し、今では「MSE」「GSE」にも搭載されてよく耳にするようになったこのメロディー。不思議なことに1歳になる我が息子もこの音色が好きなようで、どんなにぐずっていてもこの音を聴かせると笑顔になるんですよね。小さなお子さまのぐずりにお悩みの皆さま、ぜひ一度お試しくださいませ。

補助警報音は小田急の公式サイトで聞くことができますよ!
(効果のほどは保証いたしかねます……)

やっと会えたね、同い年の「ロマンスカー」とちょっと特殊な「ロマンスカー」

さて、「ロマンスカーギャラリー」をさらに奥に進むと深紅のラインが際立つ、「HiSE(10000形)」と、歴代ロマンスカーで唯一2階建て車両を連結していた「RSE(20000形)」が展示されています。

ああぁ、ここで34歳の僕の涙腺は崩壊寸前。この「HiSE」こそ、当時ロマンスカーの運転士になって、最も運転したかった憧れのロマンスカーだったんです。

今では「GSE」や「VSE」がロマンスカーのフラッグシップとして広告などでよく登場していますが、かつてはこの「HiSE」がロマンスカーの広告塔だったんだよー! さらに、こちらの車両が誕生したのは1987年で僕と同い年。ピカピカに整備され、ミュージアムという安住の地でいつでも会える形で保存されているその姿にもう……。

同じく館内にいたお知り合いのカメラマンさん、記者さんが「引く」ほどムラカミは興奮していました。でもしかたないよねー。好きなんだもん。

僕と同じ年のロマンスカー「HiSE」。この列車の運転士になるのが憧れでした。
僕と同じ年のロマンスカー「HiSE」。この列車の運転士になるのが憧れでした。
「NSE」の展望席に写り込む「HiSE」。こんな写真がじっくり撮影できるのもミュージアムだからこそ!
「NSE」の展望席に写り込む「HiSE」。こんな写真がじっくり撮影できるのもミュージアムだからこそ!

通常、鉄道の走行音って「ガタンゴトン」って言うと思うんですが、実は当時のロマンスカーって違うんですよ。

「ガタンゴトン」という音は車輪が線路のつなぎ目を通過するときに発生する音なのですが、「SE」から「HiSE」まで「ロマンスカー」は国内でも珍しい「連接台車」という方式を採用していました。これは通常1両に前後2ずつ取り付けられている台車が、「ロマンスカー」は車両と車両の間に取り付けられており、イメージ的に1つの台車で2両を支える方式なんです。連接台車の方が乗り心地面で有利な点が多くて代々「ロマンスカー」ではこの方式が採用されてきました。

台車の位置が違うので「ロマンスカー」は「ガタンゴトン!」ではなく、「ガタン! ガタン!」というリズムなんです。幼稚園の頃、電車ごっこするときも自分の役が「ロマンスカー」なら、ここの違いにこだわっていました。

現在活躍するロマンスカーでも白い「VSE」が連接台車方式を採用していますのでぜひ音の違いに耳を傾けてみてください。「VSE」が奏でる連接台車特有のリズムに「あーロマンスカーだなぁ」としみじみとしちゃうのは、きっと僕だけではないはず!

ロマンスカーの大きな特徴のひとつ「連接台車」の機構もじっくり観察できます。
ロマンスカーの大きな特徴のひとつ「連接台車」の機構もじっくり観察できます。

「HiSE」の横には共に2012年まで活躍していた「RSE」が展示されています。この車両はロマンスカーファミリーの中でもちょっと特殊で、特急「あさぎり」として小田急線内だけでなく、JR東海御殿場線に乗り入れていました。

ロマンスカーで唯一の二階建て車両と上位クラスの「スーパーシート」を連結し、展望席こそないものの、その大きな窓からは富士山などの眺めを存分に楽しむことができました。個人的には展望席も楽しいのですが、運転士さんの仕事の様子が見られるこの車両も大好きでした。

こちらも先頭車両だけでなくきちんと「RSE」を象徴する二階建て車両と共に展示されているのも、小田急電鉄さん、さすがです!

ロマンスカーファミリーでも特色の強い「RSE」。
ロマンスカーファミリーでも特色の強い「RSE」。
2階建て車両は2階部分にだけ通路がある特殊な構造になっていた。
2階建て車両は2階部分にだけ通路がある特殊な構造になっていた。
2階が特別席「スーパーシート」。
2階が特別席「スーパーシート」。
1階はセミコンパートメント席。
1階はセミコンパートメント席。

両形式とも小田急電鉄では引退していますが、実は「HiSE」は長野電鉄、「RSE」は富士急行でも活躍中!

特に「HiSE」は編成こそ短くなっていますが、カラーリングも含め、小田急時代に限りなく近い形で走っています。まだ実際に乗れちゃうというのも嬉しいポイントですね。

長野電鉄で活躍する「HiSE」。 箱根を走っていた名車は、今も長野の名湯、湯田中温泉へ観光客を届けています。
長野電鉄で活躍する「HiSE」。 箱根を走っていた名車は、今も長野の名湯、湯田中温泉へ観光客を届けています。

演出がすごい! 「ジオラマパーク」

2階に上がると小田急線の沿線をモチーフにした日本最大級のジオラマが広がっていました。10種のロマンスカーと5種の通勤車両が勢揃いし、ジオラマ内で夢の共演を果たします。

こちらでは特定の時間に行われるオリジナルソングとプロジェクションマッピングを駆使した「ジオラマショー」のほか、1回100円でジオラマ運転体験もできます。

こだわりの演出が自慢の「ジオラマパーク」。
こだわりの演出が自慢の「ジオラマパーク」。
小高くなっている箇所から見下ろして見学できます。
小高くなっている箇所から見下ろして見学できます。

ついに夢が叶った! 本物の「LSE」運転台を使用したシミュレーター

鉄道系のミュージアムで「コレ」が一番楽しみという人も多いのではないでしょうか。そう、運転士になるという夢が少しだけ叶ってしまう運転シミュレーター!

ロマンスカーミュージアムには、1階で展示されている「LSE」の反対側先頭車の運転台(実物!)を使用した「ロマンスカーシミュレーター」があるんです!

展望席があるロマンスカーの運転台は客室の上部にあり、普段はなかなかその様子が見られないのはもちろん、実際に「座る」なんてことは夢のまたその先の物語。それが、ここでは叶ってしまいます!

本物の運転台なので、運転スタイルも実車同様。展望タイプのロマンスカーの運転台は非常にコンパクトなため、“座椅子”のようなスタイルで運転しているってご存知でしたか?

本物の「LSE」の運転台を使ったロマンスカーシミュレーター。
本物の「LSE」の運転台を使ったロマンスカーシミュレーター。
ロマンスカーの運転士さんはこんな姿勢で運転しているのだ!
ロマンスカーの運転士さんはこんな姿勢で運転しているのだ!
この日は本物のロマンスカーの運転士さんが運転を教えてくれました。 しかもこちらの運転士さん、実は「LSE」の最終列車を運転された方です!
この日は本物のロマンスカーの運転士さんが運転を教えてくれました。 しかもこちらの運転士さん、実は「LSE」の最終列車を運転された方です!

シミュレーターの映像は、LSEの運転台から収録された貴重な実写映像。高い視点からの映像はロマンスカーならでは。運転区間は3箇所から選べるのですが、僕のおすすめは「成城学園前〜新宿」。大都市新宿に向けて運転していくのは迫力があるだけでなく、注目して欲しいのが「沿線」。

実はこの映像を収録した時期はLSEの終焉が迫っていた時期で、沿線にはその姿をカメラに残そうとするファンの姿がたくさん映っています。圧巻なのは新宿駅で、まるでラストランの時のように大勢のファンの中を運転していきます。

今まで私、通勤電車から新幹線まであらゆる運転シミュレーターをやってきましたが、こんな体験ができるのはまさにここだけ!

「ロマンスカーの運転士になりたい」という少年時代の夢がついに叶いましたよ……。

ついにロマンスカーの運転士に! 実はこの時、僕はガチで泣いてます。ああ、生きててよかった。鉄道カメラマンになってよかった……。
ついにロマンスカーの運転士に! 実はこの時、僕はガチで泣いてます。ああ、生きててよかった。鉄道カメラマンになってよかった……。
こ、こんなファンの中を入線できるなんて……。「ラストランの時はこの10倍くらいでした」とのこと。ひゃぁー!
こ、こんなファンの中を入線できるなんて……。「ラストランの時はこの10倍くらいでした」とのこと。ひゃぁー!

ほかにも見どころ満載!

その他館内には至る所にロマンスカーを感じられる施設がたくさん! 小さなこどもが楽しめる「キッズロマンスカーパーク」、ここでしか買えないグッズも並ぶミュージアムショップ「TRAINS」、海老名駅を行き交う小田急線を眺めることのできる「ステーションビューテラス」、そしてロマンスカー車内で味わうことができた、クールケーキと日東紅茶のセットなど、ロマンスカーミュージアムならではのメニューが揃う『ロマンスカーミュージアムクラブハウス』と見どころが満載!(『ロマンスカーミュージアムクラブハウス』は2023年5月で閉店)

室内アスレチックのような「キッズロマンスカーパーク」。
室内アスレチックのような「キッズロマンスカーパーク」。
工作が楽しめるスペースがある。
工作が楽しめるスペースがある。
ミュージアム屋上の「ステーションビューテラス」。列車の通過時間がわかる時刻表も完備。
ミュージアム屋上の「ステーションビューテラス」。列車の通過時間がわかる時刻表も完備。
オリジナルグッズが揃う「TRAINS」。
オリジナルグッズが揃う「TRAINS」。
『ロマンスカーミュージアムクラブハウス』は入館者でなくても利用できる(2023年5月で閉店)。
『ロマンスカーミュージアムクラブハウス』は入館者でなくても利用できる(2023年5月で閉店)。

ロマンスカーミュージアムは2021年4月19日オープンで、オープンから当面の間は事前予約制で営業予定とのこと。

小田急の伝統を感じられるミュージアムにぜひ出かけてみてくださいね!

住所:神奈川県海老名市めぐみ町1-3/営業時間:10:00~18:00(当面の間事前予約制)/定休日:第2・4火曜/アクセス:小田急小田原線海老名駅から徒歩すぐ

取材・撮影・文=村上悠太