商店街を駅に向かう途中のコンビニの前で大きなバッテン印を見つけました。
張り紙が浮いてしわにならないよう、まず四辺に沿って両面テープで囲み、2本の対角線で角と角を最短距離で結んだのでしょう。純粋抽象絵画のような緊張と調和が感じられます。
さらに注目したいのはこのテープの貼り方、テーピングの作法です。
よく見ると二本目に引く対角線を途中で切って、一本目の対角線を避けて貼っているのです。厚手の両面テープが重なると接着面がフラットでなくなるからですね。
一切の無駄を排除しようとする合理主義がそのままバランスのとれた図形を描いてしまったというわけです。
これも黒の両面テープの絵画です。
四辺を囲んだ後に中央の空白を埋めるためにトタン板のリブ(突起)に沿って平行線に貼ったものですが、何やら鉄格子の入った窓のようなことになっています。
現代絵画が好きな人ならアメリカの抽象画家ピーター・ハリーが描くプリズン・ペインティング(監獄の絵)にそっくりだと笑ってください(線の太さやバランスが本当によく似ています)。
よく見るとトタン板の平坦な部分に古い白の両面テープの跡がところどころ残っているので、これを貼った人はきっと試行錯誤の結果、凸部に貼ったに違いありません。
ただ、テープはしっかりと粘着したのですが肝心の看板が落ちてしまっては結果的に失敗です。次はいったいどうするのでしょう?
はっきり言ってこれは貼りすぎ。まるで無駄です。
もしかしたら両面テープ1巻分を丸ごと使い切ってしまったのではないかというくらいの勢いですが、フリーハンドで引かれたストライプが偶然にもリズミカルな縞模様を画面いっぱいに構成しています。
とにかく剥がれてしまってはいけないという思いが、むしろ思いがけない傑作を生み出したと言ってもいいでしょう。
白地に黒テープで「川」の字が書かれた《ストリート書道》です。
最初に貼られていた掲示物のインクが消えて無言板化した上に新たな張り紙が両面テープで留められていたのでしょう。
それが脱落したところで、白い地色が半紙のような役割を果たしたことと3本の線の長さが絶妙に異なっていることが重なって、実直な字面の「川」が出現しました。払いも抜きもありませんが、滑らかで淀みのない流れが感じられます。
こちらは斜めに3本ラインです。
対角線を引いた後でふたつの二等辺三角形の余白を短い線で埋めたセンスはなかなかユニークというか、猫の爪痕のような効果を生み出しました。
同じサイズのポスターか何かが2枚連チャンで貼られたおかげで、窓ガラスの反射を描いたマンガのタッチのようにも見えます。
柵に結束バンドでくくり付けられたベニヤ板に黒の両面テープが残っていて、一瞬同じ向きの黒い柵にそろえたのかとも思いましたが、間隔が明らかに異なることからこれは偶然のしわざでしょう。
花や木肌を擬態する昆虫のように風景の中にじっとしていながら全然溶け込みきれていない様子が、二匹そろってドジっ子みたいで微笑ましくもあります。
文・写真=楠見 清