岩手県盛岡市生まれ。公私ともに17年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
コロナ禍だからこそ生まれた日本酒の話
昨年あたりからコロナ禍の影響で、日本酒が思うように売れていない、という話をよく耳にします。理由はいろいろあるのですが、世間の人が飲みたいと思う銘柄ほど販路が限定されていて、そういう酒を飲めるほとんど唯一の場所だった酒場が、休業したり時短営業を強いられたことが、たぶん大きな原因です。
宅飲み需要はものすごくあるのに、飲みたい日本酒を気軽に手に取れないのでは、他のお酒に消費を持っていかれても仕方ないかもしれませんが、日本酒を愛する私としては、なんとも歯がゆい状況です。
でも、このような問題が表面化した一方で、コロナ禍がなければ生まれなかった、新たな可能性を感じる日本酒があります。
それが、ブレンド酒。日本酒の世界では、昔から主に大手が酒質を均一化するために、同じスペックの酒をブレンドしていましたが、昨今に登場したのは、新しい味を目指した多品種のブレンド酒です。単一のお酒にはない、複雑な風味と奥ゆきがある味わいを表現できるのが特徴です。同じ酒蔵で酒米や酵母違いの酒をブレンドしたものや、県単位で異なる銘柄を一挙にブレンドした酒も誕生しました。
写真にある「馬鹿三里セット」も、福島県の14蔵の酒がブレンドされた日本酒です。(ブレンドした中には「泉川(飛露喜)」や「夢心(奈良萬)」など人気銘柄の地元酒も!)酒質は3タイプあり、「爽やか 香」「スッキリ 辛」「どっしり 熟」が楽しめるんです。
というわけで、今回は、「爽やか 香」に合わせたつまみを考えてみることにしました。
菜の花の出汁を生かしたつまみをつくる
「爽やか香」は、青々としたハーブのような風味とほのかな苦味が特徴なので、最近出回るようになった、菜の花に合いそうな気がしました。なので、旬の鱈も入れた湯豆腐をつくりたいと思います。
菜の花1/3束、生鱈の切り身1枚、豆腐を半丁、塩ふたつまみくらい、具材が浸るくらいのおいしい水(ぜひ市販のミネラルウォーターを使ってください)。
まずは、ざっくりと切った菜の花と豆腐を鍋に入れ、これらが浸るくらい水を注いでやや中火で煮ます。
少し菜の花がしんなりしてきたら、切った鱈を入れて全体に塩をふり、蓋をしてさらに軽く煮ていきます。
鱈に火が通ったら完成です。まず、汁を白い器に入れて味見してみてください。菜の花を煮ると、汁が緑茶みたいなきれいな色になるのですが、爽やかな青みが効いていておいしいんです。
実は、菜の花っていい出汁が出るんですよ(私は菜の花の汁だけで日本酒が飲めます笑)。ぜひ菜の花の旨味が染みた汁も、鱈や豆腐と一緒に味わってくださいね。
湯豆腐は、ポン酢につけるのが定番なのですが、添える調味料はいろいろあったほうが、日本酒が進みますよ。今回は、ポン酢のほかに、具入りラー油、「馬鹿三里セット」に付いているピリッと辛いしそ味噌などを酒器に盛りました。
さあ、熱いうちにいただきましょう。予想通り、酒と菜の花の苦味がぴったり合いすぎますね。特に、しそ味噌をつけるとドンピシャリ。酒は、異なる銘柄がブレンドされているからなのか、いろんな味わいが口の中でふくらむのも楽しいです。並べた調味料を混ぜて、それだけをちびちび舐めながら飲むのもおすすめですよ。汁だけで飲むのもいいですね。まいったな、「スッキリ 辛」にも「どっしり 熟」にも手が伸びる私。今夜は酒が締められそうにありません。
写真・文=山内聖子