橋梁は他のものとは異なり、木の手すりが追加されています。最近追加された様子で、遊歩道のような雰囲気がします。これは、安比奈線のこの場所が、2009年に放送した連続テレビ小説「つばさ」の舞台となったため、限定的に遊歩道として線路を解放した跡なのです。現在は立入禁止となって通行できません。橋梁の向こうにも線路は続いていますが、そこも立入禁止と思え、先へ進むことを断念しました。
線路は安比奈線の休止中にドラマのロケ地となって活躍し、限定的に解放したもののまた閉鎖となり、この橋梁を挟んだ線路はまるで2度も廃線を経験しているみたいです。
県道114号線に出ました。バイパス道路だけあって道路は立派で、この道路が出来たために、安比奈線の線路は休止線の最中にブツっと途切れてしまいました。仮に安比奈線が車両基地線となっていたら、バイパス道路との交差はどちらかが高架橋になっていたでしょうね。
県道を渡ると、安比奈新田という地域に出ました。入間川の南側に位置する広大な敷地です。雑木林や畑、前方は西武建材という砂利加工工場が見えてきます。西武という名称、砂利加工。むむ……、砂利運搬に勤しんだ安比奈線を連想させますね。この工場の付近に車両基地を造る計画だったそうです。
畦道を進むとJR貨物コンテナが現れ、なぜ?と思ったら、ここはモトクロスコースでした。そのためにコンテナがあるのかなどと納得していたのも束の間。
「!!」
見つけました。線路を。しかも、ケヤキだろうか、その木々の脇に、半分めくれかけた線路が、半分土に埋まりながらもあるのです!
冬場の寒々しい情景と相まって、荒涼とした乾いた土の地面に線路がヘロヘロっと伸びています。なんということでしょう。ここは日本だろうか?まるで中央アジアのどこかの国の廃線跡を見ているかのように、荒涼とした姿が目の前にある。
これは私が理想的な廃線跡と妄想していた情景だ。この姿を見たとき、目を見開くほど興奮してしまいました。どうやって撮ろうか、廃線跡を目の前にして気持ちを落ち着かせながら、シャッターを切ります。こんなに興奮したのはどれくらいぶりだろう。
様々な角度で、木々の脇に埋もれる線路を狙います。
凄い。ああ、絵になる。いや凄い。最高だ。
もう語彙力が破綻して、壊れかけたみたいに同じ感嘆詞をリピートして独り言を言っています。街で見たらヤバいやつです。
そして、砂利道を挟んだ反対側。
「!!!!」
レールの下に木の根が生えている! おお!! すげー。うはぁ。いや凄い。きたよこれ。レールの下に根っこだなんて、枕木だよ。ほんとの枕木だよ。いや凄い。再び語彙力が……。
レールは根っこで持ち上がり、根っこはレールと同化しようとしている。自然の力と人間の力が融合した世界が目の前にあるのです。いやぁ、これは凄いです。安比奈線が現役の頃は、この線路をEDクラスの電気機関車が貨車を牽引していたのですが、それが信じられないほど自然と同化しかけています。
以前訪れたときは、ここまで見ませんでした。なので、感動もより一層増したのです。木の大きさから察するに、少なくとも40数年前から根っこがレールに絡まっているのではないかと思われます。
この先の線路は草に埋れ、ポイントで分岐しているようですがイマイチ判別できません。前方の水道橋下へ伸びていき、雑木林へ消えていっているのですが、低木が酷いのと、敷地がはっきりしないため、雑木林の向こう側へと迂回することにしました。
迂回した先にあったのは、「管理地」と記されて柵に囲まれた広い敷地でした。2018年まではここに架線柱が立っていたとのことです。撤去されてすっきりした姿からは、架線柱が放置されていた時代が想像しにくいです。
この一帯はかつて安比奈駅と呼ばれる砂利運搬施設がありました。付近にはコンクリート橋台のような物体があり、砂利の積み込み施設が併設されていたのかと推測できます。
架線柱は撤去され、線路も見当たらなくなりました。延長線上にいけば、四輪のオフロードコースへ向かっているはずだが……と進むと、荒地をショベルカーで掘り起こした場所があり、そこにレールが埋まっていました。どうやら造成して線路を埋めたみたいです。これは見つかりにくい。
レールは直線なのに一部曲がっているところを見ると、土に埋めた際に曲がったのでしょうか。瓦礫みたいに土に埋れている姿は、さっきまで巡ってきた緑多い線路端の情景と異なり、少々痛々しく感じます。
とはいえ、用済みとなったレールは埋められるか撤去される運命。この先、再び土の中から顔を出している姿は、発掘の途中で放棄された遺跡みたいでした。
安比奈線の線路はまた土の中へ潜っていました。その先を辿るのは困難で、ここで探索を止めました。帰り道は、来た道と同じように歩きます。帰ろうとすると、ちょうど夕日がレールを光らせました。なんとドラマチックなのだろう。夕日に映える安比奈線の線路。心が洗われていきます。
安比奈線は、架線柱の撤去と立入禁止看板の明確化がされていますが、それ以外はほぼ変更がなさそうです。草木に埋もれたレールは、廃線跡の聖地として変わらずに私たちの目を楽しませてくれるでしょう。
取材・文・撮影=吉永陽一