街ブラの舞台に選んだのは憧れの下町

今回、街ブラの舞台は私の希望で谷中に。小川糸さんの小説『喋々喃々』を読んで以来、行ってみたいと思ってたんですよね(行けよ)。『喋々喃々』は、谷中でアンティーク着物のお店を営む女性が主人公の恋愛小説。恋愛の描写よりも、下町情緒あふれる街の描写にグッときたのを覚えています。

今回は、あえて谷中の下調べをせずにきました。『喋々喃々』も実家にあるので読み返せず、どんなお店が出てきたかまるで思い出せません。

JR日暮里駅で担当編集の中村嬢と待ち合わせ。はじめて来たけど、日暮里駅ってこんなに大きいんだな。

改札の前で待ちます。すると、中村嬢から「改札前にいます」とメールが。え、私もいるけど……。きょろきょろ見回すと、改札の向こうで手をブンブン振っている女性を見つけました。中村嬢です。なんで改札の中に???

……と不思議に思いましたが、改札の中にいたのは私でした。なんと、まだ改札を通ってなかったんです。すっかり改札を出た気でいたよ。

駅の案内図をざっと見てから、谷中方面と書いてある西口を出ます。この時点ではまだ下町っぽくないな。

まだ序盤も序盤ですが、「さざんか可愛いな~」くらいしか思うことがなく、本当に散歩を楽しめるのか少し不安です。というのも、私はたぶん散歩の才能がないタイプなんですよね。いつも目的地に向かってまっしぐらに歩いてしまうから、気ままに歩けと言われても戸惑います。

とりあえず人の流れに沿って歩いていると、かの有名な谷中ぎんざが見えてきました。中村嬢いわく、普段はもっと観光客でにぎわっているそう。平日だし、このご時世ですからね。

中村「谷中は猫の街って言われてるんですよ。けっこうそれを前面に出してるみたいです」

吉玉「野良猫が多いんですか?」

中村「たぶん……」

動物好きなのでうれしいです。猫ちゃんに囲まれたい。

さっそく着物や和雑貨のお店が。路上に台を出して商品を広げていました。

ペットの着物が1000円! 相場がわからないけど、破格っぽくないですか?

古着の着物が安い! 着る予定ないのについ見ちゃいます。着物をリメイクしたワンピースもありました。

珍味を売っているお店では、勧められるがままに試食。お店の人の話を聞くの、街ブラ番組っぽくていいですね。

中村嬢はさっそく「殻つきアーモンド」を購入していました。荷物増やすの早くない?

1950年代から続く老舗の商店街

階段を降りると、谷中ぎんざの本格的なにぎわいが見えてきました。

食べもの屋さんや雑貨屋さんなど、庶民的なお店がひしめき合っていて、歩くだけでワクワクします。

この雰囲気には覚えがあるな、どこだっけ……と記憶をたどり、「そうだ、南米だ」と思い至りました。私は夫と半年ほど海外を旅してた時期があるのですが、ペルーやボリビアの商店街と雰囲気が似ています(感覚的なことなので、具体的にどこが似てるってわけでもないのですが)。

そういえば、旅の間は毎日知らない街をブラブラしてました。ひとりじゃなかったけど、街ブラしてたわ。忘れてた。

『やなか しっぽや』の棒ドーナツ。猫のしっぽについた、小さな肉球の痕が可愛いです。味は、昔ミスドにあったホームカットみたい。

八百屋さんで、株単位のセロリを発見! 両腕で抱えるほどの大きさです。東京のスーパーだと普通は1、2本ずつ売られていて、一株で売られているのは珍しいんですよね。前職(山小屋スタッフ)のとき、セロリを発注するとこれが届いたので懐かしいです。

吉玉「セロリが一株150円! これはお買い得ですよ!!」

私はとても興奮したのですが、中村嬢はそこまででもないリアクションでした。セロリへの熱量は個人差があります。買いたかったけれど、今買ってしまうとこのあと撮影する写真すべてにセロリが写りこむので断念しました。

お総菜屋さんからいい匂いが。ショーケースの向こうで、おばあさんが揚げ物をしていました。見ただけで「あ、こりゃ美味しいわ」とわかります。

谷中ぎんざ、最初は「観光地っぽいな」と感じましたが、かなりの頻度でチワワを散歩させてる人とすれ違いました。犬の散歩をしているということは地元の方でしょう。また、意外とおみやげ物屋さんが少ない印象。観光地ではおなじみの、数珠ブレスレットちりめんのティッシュケースがあまり見当たりません。

吉玉「観光地って、穴をのぞくと大仏とかが見えるキーホルダーありますよね」

中村「あぁ、ありますね」

吉玉「子供の頃、駅ビルにアイドルのグッズ売ってる雑貨屋さんがあって。そこに、のぞくとキムタクが見える数珠ブレスレットが売られてました」

中村「……すごいですね」

もう20年以上忘れてた(余計な)記憶が急によみがえりました。街ブラによって、記憶中枢が刺激されたのかもしれません。

「延命地蔵尊」を探すことに

谷中ぎんざのつきあたりはT字路。とりあえず右に曲がってみます。ここも商店街で、新しいお店と古いお店が混在していました。

吉玉「けっこう昭和から続いてそうなお店ありますね。顔がリアルで身体がモールのサンタのオーナメント飾ってそう」

中村「それ、なんですか……?」

身体がモールのサンタ、昭和のクリスマスツリーの定番だったんですけどね。平成生まれを困惑させてしまった。

通りが終わるところにこんな看板がありました。ここは「よみせ通り商店街」だったんですね。

吉玉「進行方向が西日暮里ってことは、北に向かって歩いてきたんですね」

中村「正解です!」

さっき駅で見た案内図、西日暮里駅が北側だったのを覚えていたんです。こういうことにだいぶ気がつくようになりました。前はもっと漫然と歩いていたので……。

気になるのは、看板にある「延命地蔵尊」の文字。それらしいものを見なかったけど、どこにあったんだろう? 中村嬢も気づかなかったとのこと。

いったん大きな通り(不忍通り)に出たのですが、やっぱり延命地蔵が気になります。というのも、身近に闘病中の人がいるんです。延命地蔵と言うからには、延命させてくれるのでは……。

というわけで、路地を通ってよみせ通りに戻りました。探しながら歩くも、お地蔵さんは見つからず。

可愛らしい喫茶店で一息入れつつ、グーグルマップで延命地蔵の場所を確認することにしました。今回は「歩きたいように歩く」がテーマなので、必要とあらば地図を見るのもOKです。

クリームソーダを飲みました。絶妙な色合い!

グーグルマップを見たところ、延命地蔵尊はやっぱりよみせ通りにあります。しかも、この喫茶店のすぐ近く。通ったはずなんだけどなぁ。

今までノープランで歩いてじゅうぶん楽しめていたのに、地図を見ると「面白いスポットを見逃したらもったいない!」という気持ちが湧いてくるから不思議です。

吉玉「このあとは延命地蔵を見て、谷中霊園に向かって歩きましょう。その途中に岡倉天心記念公園やお寺があるので見ていきましょう」

急に、観光に貪欲な人になりました。

仕切りなおし。喫茶店を出て少し歩くと、延命地蔵尊を発見! 真っ赤なのぼりまで立ってるのに、なんで見落としたんだろう。

お賽銭を入れ、お線香をあげてきました。お参りできてよかった。

このあとは、谷中霊園に向かってプラプラ歩きます。

吉玉「そういえば谷中って猫の街なんですよね? 今のところチワワの街ですよね」

中村「たしかに……」

よく考えたらチワワの街ってメキシコだな。

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街ブラ、楽しいですね。都内なのにまるで旅行に来たようです。「着物だ!」「セロリだ!」「チワワだ!」と目に映ったものを挙げるだけで会話になるのも楽しい。景色が変わるぶん、飲み会やランチよりも飽きないです。

だけど、今回は中村嬢と一緒だったから楽しめたのかな、と思ったり。ひとりだったらまた感じ方が変わりそうです。

さて、次回はいよいよ最終回。谷中さんぽはまだまだ続きます。

 

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama

 

 

この連載が、本になりました。

大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加えて単行本化!
大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加えて単行本化!
ライター・吉玉サキが方向音痴克服を目指す体当たり連載「グーグルマップを使っても迷子になってしまうあなたへ」が、大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加え、単行本として発売されることになった。発売予定日は5月21日(金)。発売を記念して、5月10日(月)からTwitterキャンペーンも実施される。