こんにちは、ライターの吉玉サキです。あの手この手で方向音痴の克服を目指してきたこの連載、いよいよこの企画がラストです(今日はその前編)。この連載の初回、私はこんなことを書きました。“方向音痴の何が辛いって、知らない場所に行くのが怖くなってしまうことなんですよね。本当は知らない街にも出かけてみたいのに、「道に迷うんだろうな~」と思うと億劫になってしまい、ついつい知っている場所にばかり行ってしまうわけです。あぁ、一度でいいから好奇心の赴くままに知らない街を歩いてみたい……!”方向音痴は、迷子になって途方に暮れた経験が多いため、迷子リスクの高い行為を避けがちです。しかし、この連載を通して方向音痴と向き合ってきた結果、地図を見ることや方角を意識することに慣れ、だんだんと苦手意識が薄れてきました。また、インタビューした方々に「迷ってもいいから気ままに歩いてみて」と背中を押されたことも。そこで、最後はいよいよ街ブラに挑戦します! はたして、「迷子の達人」は「散歩の達人」になれるのでしょうか?

面白い看板や変わった模様の塀にも注目しながら歩く

さて、街ブラしながら谷中霊園を目指します。

とりあえず、谷中ぎんざとよみせ通りが交わる点に戻り、T字路をさっきとは反対の方向へ。喫茶店で地図を見たばかりなので、方向はバッチリです。

歩いていると、脇道に気になる看板を発見。

吉玉「行ってみましょう!」

街ブラに慣れてきて、寄り道の反射神経が研ぎ澄まされてきました。

この看板、よくないですか? 喫茶かと思いきや靴下なのも、「スタウト」の手書きフォントも味わい深いです。

元の通りに戻るといい感じの食堂が。ショーケースに飾られた食品サンプルが退色していて、マロの歩んだ道のりを感じさせます(入ったことないけど)。

吉玉「あぁ、いい! 庇(ひさし)ののフォントがめちゃくちゃいいですね!」

看板のフォントを見るのが好きなんですよね。昔ながらの商店街はグッとくるフォントの宝庫です。

着物屋さんの店先に出ていたラック。「せっかく来たんだから何か買って帰りたい」と旅先のおばちゃんのようなことを言い、日本手ぬぐいを購入しました。街ブラに慣れるにつれ、財布の紐も緩みがち。

さて、喫茶店で見た地図によると、そろそろ左に曲がったほうがいいはず。

吉玉「この辺で曲がりましょう。たぶん、次の道で曲がっても最終的に谷中霊園の近くに出ると思うんですが……」

編集・中村「吉玉さんにお任せします!」

任されちゃった。さっき地図を見ながらイメトレしたので、ここの判断には自信があります。

路地に入ると住宅街。そのまま進むと……

つきあたりに岡倉天心記念公園がありました! 地図を見て、寄ってみたいと思っていた場所です。自分で道を選んだぶん、思ったとおりの場所に出ると自信になりますね。

ここは岡倉天心の家があった場所のよう。建物は残っていなくて、木々に囲まれた静かな公園でした。

洋服直しのお店のウィンドウ。善良にも邪悪にも見える表情がいいですね。おじさんとシャツだけが透明なのもポイント高いです(なんの?)。

かっこいい塀。「こんな塀なかなかない!」と思いましたが、もしかしたらふだん見落としてるだけで、近所にもあるのかもしれません。忙しい現代人は塀に注目してないから……。

このあたりはお寺が多く、直感的に「そろそろ霊園だな」と思いました。たしか、谷中に憧れたきっかけの小説『喋々喃々』にもお寺が出てきたような。今度はちゃんと読み返して聖地巡礼したいです。

しっとり散歩を楽しめる谷中霊園

いつの間にか霊園に入っていました。そう書くと狐に化かされたようですが、霊園の境目がわかりにくかったんです。

吉玉「あ、スカイツリー!」

中村「近いですよね~」

言ったものの内心「スカイツリーじゃなかったらどうしよう」とビクビクしてたので、当たっていてほっとしました。

山手線の駅のそばと思えないほど自然豊か。桜の時期はとても綺麗だそう。今はお墓があるだけですが、広々していて気持ちいい散歩コースです。

散歩中のヨークシャーテリアが尻尾を振って私たちのほうに来たので、飼い主さんの許可を得て撫でると、喜びのあまり盛大に漏らしてました。知らない人にそんなにうれションする?

吉玉「谷中って猫の街なんですよね? 今のところ、チワワとヨーキーしか会ってませんけど」

そんな話をしながら歩いていると……

猫がいた! 保護色になっていてわかりにくいですが、墓石の後ろからこっちを見ています。

近づいてほしくて必死に鳴き真似していたらそっぽを向かれました。イラっとさせちゃってごめん。

墓地をお散歩。不謹慎かもしれませんが、しっとりした風情があり、散歩に適した道だと思います。デートにも良さそう。でも、「お墓行かない?」って誘われたらギョッとしますよね。

余談ですが、黄色いバラの花束を供えているお墓がありました。「故人の好きな花なのかな」などと想像がふくらみます。谷中は花屋が多いと感じましたが、お墓参りのためなんですね。

さて、谷中霊園をぐるっと歩くと日暮里駅前に出ました。なるほど、ここに出るんだな。ぼんやりとですが、今日歩いたルートの地図を思い描けます。

散歩は、小さな旅だった

谷中をひとしきり歩いたわけですが、谷中ぎんざの八百屋さんで見たセロリがどうしても欲しくて、ふたたび行ってみることに。セロリ、売り切れてないといいな~。

同じ道も二度目だと見え方が変わります。さっき通ったときは気づかなかった、レンタル着物のお店やお寺を見つけました。お寺には猫もいたよ。

まだあった!! なんなら補充されて増えてる。嬉々として購入しました。

産地は愛知県です。ぜんぜん谷中に関係ないものをお土産にしてしまった。今後、谷中と聞けばセロリを思い出しそうです。

セロリ(パッケージの表記はセルリー)を抱いて記念撮影。マスクで表情が見えにくいですが、たぶん今日一番の笑顔です。中村嬢は写真を撮りながらゲラゲラ笑ってました。なんで?

ともあれ、日暮里駅を出発し、2時間半ほどお散歩して、特に困りごともなく日暮里駅に帰ってきました。帰り道が分からなくなったときのためにアプリ「Waaaaay!」も待機させていましたが、使わなかったですね。いくらでもお散歩できるな~。

今回街ブラをしてみて、夫と一緒に海外を旅してた頃を思い出しました。どれだけ近場でも、知らない街を歩くのは旅なんですね。散歩は小さな旅かも。

東京にも、降りたことのない駅がまだまだあります。この先もいろんな街に出会えて、小さな旅をたくさん味わえる。それを思うとワクワクします。

さいごに

一年と少しの間、方向音痴を克服するべくさまざまなことをやってきました。

専門家にお話を聞かせてもらったり、グーグルマップと紙の地図を使いくらべたり、地図を描いたり、何も見ずに札幌の街を歩いたり、使いやすいアプリを探したり。

その結果、私は方向音痴を克服したのか?

……と問われれば、ちょっとは克服できた(気がします)。

今も迷うことはあるので、自信満々に「方向音痴を克服しました!」とは言いにくいのですが、連載前よりは確実に道に迷わなくなりました。

私はずっと、方向感覚って「あるかないか」だと思っていたんですよね。生まれつきの素養で決まるものだと。けれど試行錯誤してみて、「頻繁に現在地を確認する」「常に方角を意識する」「脳内に地図を思い描く」などによって、迷いにくくなることを実感しました。方向感覚ってあるかないかじゃなく、グラデーションなんです。

運動音痴の子が特訓によって少しは速く走れるようになるのと似ています。もともと運動神経のいい子には及ばなくても、特訓前よりはタイムが縮む。今の私も、方向感覚バッチリの人に比べたら方向音痴だけど、連載前の私に比べたらかなりマシです。0点から30点くらいに伸びたと思うので、私としてはやってよかったです。

もうひとつよかったのは、この連載を通して街歩きが好きになったこと。地形や地名、街が持つストーリーを意識して歩くと、見慣れた街も新たな魅力が見つかります。散歩の達人読者の皆様にとっては今さらかもしれませんが、街って奥が深いですね……。

なので、この連載は次の言葉で締めさせていただきます。

方向音痴はコツをつかめば(やや)改善されるし、そのままでも街歩きって楽しい!

 

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama

 

 

この連載が、本になりました。

大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加えて単行本化!
ライター・吉玉サキが方向音痴克服を目指す体当たり連載「グーグルマップを使っても迷子になってしまうあなたへ」が、大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加え、単行本として発売されることになった。発売予定日は5月21日(金)。発売を記念して、5月10日(月)からTwitterキャンペーンも実施される。
いまや東京を代表する散歩スポットととなったこのエリア。江戸時代からの寺町および別荘地と庶民的な商店街を抱える「谷中」、夏目漱石や森鴎外、古今亭志ん生など文人墨客が多く住んだ住宅地「千駄木」、根津神社の門前町として栄え一時は遊郭もあった「根津」。3つの街の頭文字をとって通称「谷根千」。わずか1.5キロ正方ぐらいの面積に驚くほど多彩な風景がぎゅっと詰まった、まさに奇跡の街なのである。