戦後の混乱期に本物のコーヒーで人々に元気を

『斎藤コーヒー店 本店』は外からも窓越しに焙煎機が見られる。
『斎藤コーヒー店 本店』は外からも窓越しに焙煎機が見られる。

神田駅西口から徒歩2分ほど。線路沿いに店はある。店頭に吊された看板にはコーヒーカップを手にした宣教師風の男性が描かれ、そのユニークな表情に笑みがこぼれた。

オーナーの斎藤光治さんは自家焙煎を始めて50年近くになる大ベテラン。
オーナーの斎藤光治さんは自家焙煎を始めて50年近くになる大ベテラン。

店の歴史は1948年、神田小川町で開いた「コーヒールーム」から始まる。当時は戦後の混乱期でコーヒー豆はもちろん、焙煎機やコーヒーミルなどの機器を入手するのもひと苦労だった。

「父親の話では赤いコーヒーミルを群馬県の高崎市で手に入れ、満員電車で背負って持ち帰った。コーヒー豆は意外なところに戦中の在庫品があり、手に入れたと言ってました」とはオーナーの斎藤光治(こうじ)さん。

戦中、代用コーヒー(大豆など)で我慢してきた人々が、久しぶりに上質の自家焙煎コーヒーを味わえたのだから大喜び。当然、店は大人気となり、復興に励む人々に元気を与えた。

直火式の焙煎機でパンチのあるコーヒーに

テストスプーンで焙煎窯内の豆を取り出し、色や香りから焙煎状態をチェックする。
テストスプーンで焙煎窯内の豆を取り出し、色や香りから焙煎状態をチェックする。

店内に入ると窓辺に大型の焙煎機。周囲にはブルーマウンテンNo.1の輸送に使われる木樽や麻の豆袋が置かれていた。『斎藤コーヒー店』では、日本橋室町と内神田にコーヒーショップを出店しているが、焙煎作業はすべて本店で、斎藤さん自らが行う。

釜のフタを開くとパチパチと音を立てて炒りたての豆があふれ出てくる。
釜のフタを開くとパチパチと音を立てて炒りたての豆があふれ出てくる。

蒸気機関車にも見える焙煎機は2000年代に導入した。「ガス圧計や温度計があるから楽ですよ。父から受け継いだ焙煎機は計器類がないので、炎の量や豆の焼き色、はぜる音など、いま以上に五感をフル活用したものです」と斎藤さん。師匠に当たる父親は昔気質の人。戦前の木村コーヒー店で覚えた焙煎技術を親子2代で向上させてきた。

斎藤さんに促されて、焙煎機を下からのぞく。焙煎窯内で回転するドラムはメッシュ状で、小さな穴から炎が入り、生豆に直接火が当たる構造になっていた。直火ゆえに気が抜けず、確かな技術も求められるが、パンチの強い味になる。

焙煎作業は多い時で1日10回。焙煎機は一度に最大8kgの生豆を焙煎できるが、6kgまでに抑える。斎藤さんは「クルマも定員いっぱいで乗ると狭いでしょ。キャパ80%くらいがおいしく仕上がる」と笑った。

まずはコーヒーショップでプロが抽出した一杯を

ブラウンゴールド200g700円、ブルーマウンテンNo.1 200g3600円など。豆は200gから販売。
ブラウンゴールド200g700円、ブルーマウンテンNo.1 200g3600円など。豆は200gから販売。

本店で販売するコーヒー豆は、最高峰のブルーマウンテンNo.1をはじめ、モカ・マタリー、ブラジルサントス、スマトラマンデリンG1など約16種。ブレンドではブラウンゴールドがおすすめだ。ブラジル、コロンビアなど5種の豆が配合され、創業から70年以上も変わらぬ味を守っている。

「それでは有料の試飲に行きますか」と斎藤さんに案内されたのは、本店から徒歩5分の『斎藤コーヒー内神田店』(7:30~18:30<土は11:30~17:30>、日・祝休)。本店で焙煎したすべてのコーヒーがそろい、注文すると1杯分ずつ豆を挽き、ハンドドリップで抽出してくれる。

それぞれの豆のおいしさを最大限に引き出した“理想の一杯”を体感できるわけで、自宅や会社で抽出する際の参考になる。

サンドウイッチなどのフードも注文後に店内で作る。
サンドウイッチなどのフードも注文後に店内で作る。

コーヒー以外のドリンクは紅茶、ココア、クリームソーダ、レモンスカッシュなど。フードはトースト220円~やサンドウィッチ450円~をそろえている。

戦後の復興に励む人々に元気を与えた一杯とともに、歴史に思いを馳せながら味わおう。

コーヒーショップ内神田店の店内。落ち着いた雰囲気で全席禁煙になっている。
コーヒーショップ内神田店の店内。落ち着いた雰囲気で全席禁煙になっている。
住所:東京都千代田区内神田3-3-13/営業時間:10:00~18:00/定休日:土・日・祝/アクセス:JR・地下鉄神田駅から徒歩2分

取材・文・撮影=内田 晃