京王井の頭線渋谷駅西口のすぐ隣のビルの一階に、にぎやかな繁華街の雰囲気とは一線を画す、昔懐かしい構えの『元祖 うな鐡』はある。ランチ時間も美味しいうな重が食べられるが、このお店の真骨頂は16時30分~の夜の部で食べられるうなぎ串だ。

とってもディープな雰囲気だが、勇気を出して扉を開けてみよう。

店内には、串焼き屋に欠かせないカウンター席はもちろん、過ごしやすいテーブル席も多く、初めてでも寛げる雰囲気だ。

現在は感染症対策にもかなり気を遣っていて、各テーブルをパーテーションで仕切り、カウンター席にもアクリル板を置いているので安心感がある。

2020年4月からは店内完全禁煙となったが、店の外には喫煙スペースもある。

いらっしゃい、と気さくに声をかけてくれたのは、三代目店主の山本弾造さん。

1957年創業の老舗の店主と聞いて、勝手に頑固おやじを想像していたのだが、実際は非常に話しやすい、物腰の柔らかな人だ。普段焼きを担当している齋藤正和さんも、担当してもうすぐ半世紀というツワモノだが、明るく話しやすい人で、店内は和やかな雰囲気に満ちている。

気軽に頼んだ肝ポン酢とうざくで、お店の実力を思い知る。

まずは軽くつまもうと、うなぎ一品料理から肝ポン酢370円(税別)を頼んでみる。出てきた肝を一口食べてみれば、トロけるような旨味と、ふんわりと柔らかいのにプリプリとした独特の食感が絶品。苦みは無く、何とも上品な一皿だ。普段肝吸いなどにちょろっと入っている肝とはだいぶ違うので、ぜひ食べてほしい。

もう一皿、うなぎ一品料理からうざく350円(税別)も注文。

ちょっとした小鉢ながら、うなぎを口に運ぶと炭焼きの香ばしい香りがただよう。

ふわふわカリカリの焼きたてうなぎの濃厚な旨味と、甘みを抑えてだしを効かせたきゅうりの酢の物のキリっとした味わいが、絶妙な組み合わせだ。

うーん、ビールが進む!

市販のうなぎで作る、渋谷『元祖 うな鐡』のうざく
うなぎの串焼きは自宅で再現するのが難しいためお店で楽しんでもらうとして、今回はお店で出しているうざく(うなぎの酢の物)の作り方を教えて頂いた。市販のうなぎ蒲焼をより美味しく食べるコツも合わせて伝授してもらったので、ぜひ真似してみてほしい……

今まで食べなかったことを後悔する! うなぎ串焼一通り

カウンター席からは、うなぎを焼く様子がよく見える。

今回はオープン前に取材に入らせてもらったので、ガラスケースの中には、まだ焼く前のうなぎがズラリ。さばいたうなぎを仕入れるお店もあるなかで、全て自前でさばくからこその鮮度が自慢だ。

遅い時間に行くと人気の串にはありつけないこともある。売り切れ次第終了なので、あしからず。

焼くのに使うのは、紀州備長炭。通常の炭が200℃程度なのに対して、備長炭は約400℃と高温のため、たれが落ちても一定の温度を保ち、燻製にしたような香ばしい焼き上がりになるのだとか。

創業時から変わらないというお通しの、しその実大根をつまんでいると、いよいよ串焼きの登場だ。

串焼は単品でも頼めるが、初めてなら8種のうなぎ串がすべて味わえるBコース2080円(税別)がおすすめ。Aコース2640円(税別)には、これに野菜焼き(こちらもめちゃ旨)が4種付く。

見たことのない部位がたくさんあるが、テーブルに写真付きの説明書きがあるので、一つひとつ味わってみる。

右からくりから、ひれ、串巻き、短尺、きも、かぶと、ばら身、ればぁ。

全てが想像以上の旨さで衝撃を受けるが、特に印象に残ったのは次の3つ。

まず一番右端にある、くりから。竜が剣に巻き付く“くりからもんもん”になぞらえて、店主のお祖父さんである創業者の貞森市六さんが名付けた、オリジナルメニューだ。

うなぎの腹身を香ばしく焼いてから蒸し上げており、わさび醤油で頂く。これが本当に旨い。ふわっとした白焼きのようだが、脂の乗った大トロのような部分のみを使っているので、なんともジューシーな仕上がりだ。

そしてその横にある、ひれ。背びれにニラを巻いたもので、これも創業時からある人気メニューだ。たれを含んでパリッと焼けたニラと、これまたとろける旨さの背びれがマッチして、ビールにピッタリ!

最後に、ひときわインパクトのある見た目の、かぶと。昔から大阪などでは、うなぎの頭の部分を焼いた半助という料理があったそうだが、『元祖 うな鐡』では、圧力鍋でじっくりと蒸してから焼くことで、丸ごと柔らかく食べられるようにしている。ザクっとした歯ざわりと、少し焦がしたタレの相性は抜群で、噛めば噛むほど旨味が溢れてくる。

一串一串に発見があって、うなぎを今までうな重でしか食べていなかったなんて、人生を損した気分にさえなる。

うな重や串焼は持ち帰りもOK。家でも味わえる『元祖 うな鐡』の味

『元祖 うな鐡』では、以前から持ち帰り弁当も提供している。写真は、うなぎ弁当2410円(税別)に、うなぎの串焼きを単品で注文して入れて貰ったもの。

コロナ禍で外食を控えている人にもうってつけだ。

うなぎをもっと身近で気軽な食べ物に。受け継がれる創業者の想い

店の入り口に掲げられた、非常にインパクトのある看板は、創業者の貞森市六さん直筆のメニューだ。ここには、うなぎをもっと身近な庶民の食べ物にしたいという、市六さんの想いが込められている。

仕事帰りに焼き鳥を食べるように、もっと多くの人に気軽にうなぎを楽しんでほしい。その一念は、3代目の弾造さんにも変わらず受け継がれている。串は1本から頼めるし、おつまみも一皿を一人前サイズにして価格を抑えているので、一人ふらっと立ち寄っても安心して注文できる。

安くて旨い店として、会社の後輩を連れてくる常連さんも多いという。

「目標は、いつも変わらずここにあることです。引っ越しや転勤で来られなくなった人が、いつか思い出して来てくれたときに、やっぱりまだここにあったね、と言われるのが一番うれしい瞬間です」と弾造さんは語る。

渋谷で仕事や買い物をしたら、帰りにぜひ『元祖 うな鐡』に立ち寄ってみてほしい。

『元祖 うな鐵』店舗詳細

住所:東京都渋谷区道玄坂2-8-8 コスモ渋谷館1F/営業時間:ランチタイム11:30~14:30LO(売切れ次第終了)・夜の部16:30~22:00LO(金・祝前日は~22:30LO・土は20:30LO)/定休日:日・祝/アクセス:京王井の頭線渋谷駅徒歩1分、JR渋谷駅徒歩3分

取材・執筆=岡村朱万里 撮影=高野 尚人