30代の気になるテーマの本
『男らしさの終焉』
「著者は異性装のアーティスト。ターナー賞をとったこともあり人にすすめやすい」(小田原)
「自分の男性性について考えるきっかけになる一冊」(コメカ)
『神前酔狂宴』
「架空の物語=『虚構』が現実の社会と、ひいては個人とどのような緊張関係にあるのかを、披露宴をモチーフに巧みに小説化している」(コメカ)
『男流文学論』
「吉行淳之介から村上春樹、三島由紀夫まで、戦後を代表する作家の作品と各作家の語られ方を、その『オトコ性』に焦点を当てて斬りまくる」(パンス)
『快楽電流 女の、欲望の、かたち』
「著者が自らのセクシュアリティも開示しつつ語る批評・エッセイ集。こんなふうに自分の欲望の形を言葉にすることを僕はうまくできない」(コメカ)
『ジェンダー写真論1991-2017』
「写真表現において『見る・見られる』ジェンダー構造を崩してきた作家たちを紹介・考察。元被写体の女性に告発されたアラーキーの総括も」(鈴木)
小田原のどかさんの読書
『万博学 万国博覧会という、世界を把握する方法』
「万国博覧会の多様な側面を掘り下げた論考集。キリスト教館の論争が気になるとツイッターでつぶやいたら本書の執筆者の1人が教えてくれた」
『改訂新版 共同幻想論』
「吉本隆明さんは3.11後に多く発言を残しているので、その前後の特集雑誌を読み比べ、語られ方を比較するのも面白い」
『母の遺したもの 沖縄・座間味島「集団自決」の新しい事実(新版)』
「座間味島の集団自決の生き残りである、著者の母の証言を記録。ものすごく重い内容の本です。新版と旧版を読み比べてみてほしい」
『人権の彼方に 政治哲学ノート』
「コロナ禍で人と会うことに覚悟が必要になってしまった今、改めて、公共空間や家族という領域や、人権について考え直すきっかけになる一冊」
『日本原爆論大系 第7巻 歴史認識としての原爆』
「原爆の歴史とその認識に関する論考を厳選し収録。原爆ドームの世界遺産登録、慰霊と追悼、加害と被害などをめぐる重要な論争が網羅される」
パンスさんの読書
『反逆の神話 カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』
「反抗の象徴とされた欧米のカウンターカルチャーが消費文化になってしまっている状況を皮肉混じりに攻めまくる。『焼け跡派』にも通じる一冊」
『京城のダダ、東京のダダ 高漢容と仲間たち』
「東京と、日本統治下のソウル(京城)に生きたダダイストたちの群像劇。厳しい情勢のなかで日韓のダダイストたちが交流する様子に自分を重ねた」
『ひとり旅』
「個人的に理想とするエッセイ。徹底してファクトにこだわり創作を行う著者がさまざまな場所と自分の記憶を振り返る。シンプルな装丁も好き」
『夜になっても遊びつづけろ 金井美恵子エッセイ・コレクション[1964-2013]1 』
「こちらも憧れのエッセイ。どんなテーマにも鋭い批評性が宿り、かつ優雅。読むたびにしびれる。高校時代に『美術手帖』に投稿した原稿も収録」
『水は海に向かって流れる』(全3巻)
「最近読んだなかでダントツのマンガ。家族から離れた共同体に入ることで元の家族に隠された側面を確認する。独特のテンポがありクセになる」
コメカさんの読書
『〈男らしさ〉のゆくえ 男性文化の文化社会学』
「男性学研究で知られる著者が、『男らしさ』を解析・解体する。最終章では、男性性もまた複数的なものであることが論じられている」
『トランスジェンダー・フェミニズム』
「トランスジェンダーの著者によるフェミニズム論。トランスの人々がどのような現実に直面して生きているのかを、もっと学びたいと思っています」
『サブカルチャー世界遺産』
「国内外のサブカルコンテンツをカタログ的に並べたデータブック。最近見なくなったタイプの本ですが、こういうのを眺めるのも好きでした」
『グミ・チョコレート・パイン グミ編』
「高校生の頃に読んで、冴えなかった自分も『何かやろう』と思わされた作品。ただ、今読むと男性中心主義的な世界観に支えられている」
『男性学の新展開』
「男性自身が男性性について、『男ですみません』といった安易な自罰志向や無責任な他人事化とは異なる形で考えるための入門書として最適」
30代が気になる同世代の作家
『脱ぎ去りの思考 バタイユにおける思考のエロティシズム』
「著者はバタイユの研究者。男性が標準の人間として設定されてきた哲学の世界を、フェミニズムの視点で解きほぐす姿勢に共感します」(小田原)
『台湾旅行記 声はどこから Where is the Voice Coming From?』
「2人の男性が一章ずつ交代で書いた台湾旅行記。同じ行程を旅しているのにそれぞれの視点でこんなに印象が変わるんだ!という面白さが」(パンス)
『ノラと雑草』(1~3巻まで既刊)
「育児放棄されて育った女子高生の物語。社会から疎外されて生きる人々をどう描くか、試行錯誤されている著者の誠実さにひかれます」(コメカ)
『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』
「臨床心理士による精神科デイケアを舞台にした小説。『居る』を支える『ケア』にコスパが持ち込まれ、『居る』が脅かされてゆく構造を暴く」(鈴木)
『売野機子短篇劇場』
「作者は今年、画業10周年。どこか“死”に近しい物語も最後は圧倒的に“生”に引っ張られ、過去、現在、未来の全方向に作用する体感がある」(渡邉)
撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2020年11月号より