「氷川神社の意外なすごいところを教えてください」

そんな大ざっぱな申し出に快く応じてくれた神職の遠藤胤也さん。「早速ですがこちらをご覧ください」と指差すのは、三の鳥居に刻まれた「片倉製糸紡績株式会社 今井五介」の文字。「この方は名物社長でね、富岡製糸場が残ったのもこの方のおかげなんですけど、今、新都心にある『コクーン』の場所に明治時代、製糸工場を造ったんです。で、ここで織られた絹織物が世界最高水準でね……」。

よどみなく知識があふれ出る遠藤さん。大宮の絹織物は鉄道で横浜へ、さらに日本郵船の船で欧米へ輸出された。ちなみに氷川神社から名を取り船内に神社も祀られた横浜の氷川丸は、シアトルまで航行し街の発展に貢献したという。

「氷川神社の参道は2㎞で日本一の長さなのですが、実はシアトルまで通じ、ひいては氷川丸によって発展した街の企業の一つ、ボーイング社から空へ、宇宙へ通じるんです!」……やや強引な気もするけどロマンあるなぁ!

拝殿では特徴的なマークが目に止まった。これ何ですか?

「ご神紋と言います。雲が幾重も重なって見沼の水草もあしらわれています。この周り、大昔は漢字で『御沼』や『神沼』とも書いた見沼という沼が広がる水の豊かな土地だったんです。その中で高台だったのがここ。町名の“高鼻”は高台の端という意味だそうです」

水があれば人が集まり集落ができる。境内には遺跡があり、住居跡や土器、石器が見つかるそう。

「御祭神のスサノオノミコトさんは治水の神様でもあります。氾濫する荒川流域に氷川神社が点在したことを考えると……、ヤマタノオロチ退治の伝説は荒川の治水を表しているのではと思うんです」

古代〜近代と守備範囲が広い遠藤さん。何でそんなに詳しいの?

「いえいえ、神職としてこの程度は知っておかなくちゃ」とご謙遜。

そんなこんなで巡って1時間半。

「まだネタ要りますか? もっとありますけど」。氷川神社のすごいとこに遠藤さんも加えたい。

目的は年に一度だけ! 関東唯一の建物

関東では珍しい舞殿は、元々、例祭で神事芸能の「東游(あずまあそび)」を奉納するためだけに建立。樹齢約80年のクスノキはパワースポットで人気。

氷川神社には狛犬が8頭いる!?

氷川神社には狛犬がいないと思いきや、二の鳥居近くに対で立つ御神燈(石灯籠)の足元に狛犬の頭! 四方をにらみ神社を守っているようだ。

クラブカラーのモチーフはこの朱色

昭和15年築の楼門の朱色(オレンジ)は、「大宮アルディージャ」のクラブカラー。格子の緑と合わせると湘南新宿ラインの車体のようにも?

巨大な二の鳥居は明治神宮から移築

神社で一番大きな二の鳥居は、樹齢1300年の檜材で、昭和51年に明治神宮からやって来た。13mという高さで檜の鳥居としては国内最大規模。

横浜港の人気船の名前はここから!

山下公園に係留される氷川丸の船名の由来もなんとここから。船内のアール・デコ様式の内装には神紋の「八雲」が使用されている。

戦艦武蔵の中に氷川神社があった

戦艦には神社を祀ったそうだが、戦艦武蔵の中の武蔵神社に分祀されたのが氷川神社。“武蔵の国の鎮守”にあやかった。境内には記念碑も。

ひそかに信仰される謎の白蛇?

神池の浮島に鎮座する宗像神社は別名、弁天様。昔のご神体と噂される岩には穴が開き、白蛇伝説もあり。卵がお供えされることも(写真)。

参道に続く敷石はなんと都電の石!?

三の鳥居から楼門まで続く敷石は、東京都電の軌道に使用された石。戦後、大隈重信や渋沢栄一らを筆頭に奉納されたそう。

見沼の源流の1つといわれる湧水

神域の奥地をゆくと現れる蛇の池。湧水は神池、ひょうたん池、白鳥の池、そして見沼へと注がれる。見沼田んぼの米作りも支えてきた。

『武蔵一宮 氷川神社』詳細

住所:埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1-407/営業時間:11~2月は6:00~17:00
3~4・9~10月は5:30~17;30
5~8月は5:00~18:00/アクセス:JR・私鉄大宮駅・東武アーバンパークライン北大宮駅から徒歩15分

取材・文=下里康子 撮影=加藤昌人
『散歩の達人』2016年1月号より