中村家のお茶をもっと多くの人に!

蔵前小学校の隣に店を構える『NAKAMURA TEA LIFE STORE』。入り口に掛けられた、英字ロゴ入りの和洋折衷な暖簾(のれん)が目印だ。その暖簾をくぐって店内に入ると、古さと新しさが融合したような空間が現れる。歴史を感じさせる茶箱に、カウンターや棚。しかし、そこに並ぶ商品は、どれもスタイリッシュなデザインが施されている。

「この店をオープンするまで、デザイン関係の仕事をしていて。ここにある商品のパッケージデザインは、すべて自分で手掛けているんですよ。デザインを考えた時に、せっかく店を開くなら、来てくれたお客さんにお茶のことをしっかり伝えたいと思って。話のきっかけになるような、少し分かりづらいデザインにしたんです。」

このデザインについて、店主の西形圭吾さんが教えてくれた。

そう、店主は「西形さん」。「中村さん」ではないのだ。

店主の西形圭吾さん。
店主の西形圭吾さん。

実は「中村」とは、西形さんの幼なじみ・中村倫男さんの実家『NAKAMURA茶園』から名付けられた。

『NAKAMURA TEA LIFE STORE』が唯一の直営店である『NAKAMURA茶園』は、100年に渡り代々受け継がれてきた茶園であり、お茶の栽培から製茶加工まで一貫生産を行っている。これまで地元の問屋や農協に茶葉を卸すだけだったが、いつか「中村」の名前を冠したお茶を販売したいという想いも持っていた。

そんな中村家の夢を、家族ぐるみで長年親しく付き合っていた西形さんが実現したのだった。「静岡でお茶の生産に勤しむ中村くんに代わって、もっと多くの人に中村家のお茶を届けたいという気持ちで、ものづくりの文化が根付いていて、当時若い個性的な店が増えつつあった蔵前にこの店をオープンしました」と、西形さんは話す。

良いお茶を追求し、たどり着いた無農薬有機栽培

3種ある煎茶の中でも、おすすめはGarden No.02 2200円。
3種ある煎茶の中でも、おすすめはGarden No.02 2200円。

看板商品である煎茶のパッケージには「No.01」や「No.02」「No.03」という文字が記されている。『NAKAMURA茶園』が静岡県藤枝市内に所有する3つの茶園の名前だ。

一番歴史が古く、お茶の栽培に最も適している茶園・Garden No.01では、30年以上前から無農薬有機栽培に取り組んできた。

当時まだ珍しかった無農薬栽培を始めるきっかけとなったのは、倫男さんの祖父が農薬散布中に体調を崩したことだった。それを機に農薬の有害性に気付いた中村家は、1989年には所有する3つの茶園すべてで完全無農薬有機栽培を行うようになった。しかし、その道のりは決してたやすいものではなく、害虫の問題や木の病気、時には近隣の農家にまで被害が及んでしまうなど、大変な試行錯誤と手間暇がかかったという。

お土産にもぴったりのNakamura Gardens Pack 3058円。
お土産にもぴったりのNakamura Gardens Pack 3058円。

このような歴史を経て、今では安定出荷できるまでに至った無農薬茶葉は、3つの茶園で収穫された後、それぞれ製茶加工され、11種類の商品が完成する。

収穫された茶園ごとに、異なる香りや味わいを持つ煎茶3種と、Garden No.01で収穫された茶葉で作ったかぶせ茶をセットにした、Nakamura Gardens Pack(オーガニック煎茶セット)は、飲み比べにちょうどいいサイズでお土産にもぴったり。この店で扱う全てのお茶には品質保証書が付いており、茶葉の収穫日や収穫場所、栽培担当者、栽培方法まで細かく記載されている。

商品を陳列している台は、茶葉を手もみする際に使う作業台だった。
商品を陳列している台は、茶葉を手もみする際に使う作業台だった。

この店では、茶葉だけでなく急須の販売や、茶葉の手もみ体験などのワークショップも開催している。

その背景には、薄れつつある“急須でお茶を淹れて飲む文化”を絶やさないようにという、中村家と西形さんの想いがある。天井近くには、お湯の温度や抽出時間、茶葉の量の解説を交えて、緑茶の淹れ方を丁寧に描いたチョークアートも飾られている。

「コーヒーを豆から挽いて飲むように、日本茶も自分で淹れて飲むというひと手間を、若い人たちに伝えていきたい」と、最後に西形さんは語ってくれた。

『NAKAMURA TEA LIFE STORE』店舗詳細

住所:東京都台東区蔵前4-20-4/営業時間:12:00~19:00/定休日:月/アクセス:都営浅草線蔵前駅から徒歩3分、都営大江戸線蔵前駅から徒歩5分

取材・文・撮影=柿崎真英