創業者から引き継いだ長崎の味を蒲田で
竹や土壁を用いた店構えにも歴史を感じる『宗平』。店内に足を踏み入れると、1階は年季の入ったカウンター席になっている。長崎の特産品を描いた地図が貼られ、壁の棚には長崎の日本酒に焼酎の酒瓶がずらっと並ぶ。長崎で親しまれるソースも卓上調味料に加わっているなど、この光景は長崎出身者にはたまらないだろう。
出迎えてくれたのはオーナーの川手綾(かわてりょう)さん。挨拶をしたそばから、「僕は長崎出身じゃないんです」と言われて、少し面食らった。聞けば川手さんは、2025年10月に創業者から店を引き継いだという。その創業者が長崎の出身で、約40年前に蒲田で出身地の料理を出す『宗平』を開いたのだとか。
現オーナーの川手さんは、大森に1号店を持つ『夜明けぜよ』という大衆居酒屋も経営している。『夜明けぜよ』は、2024年8月に2号店として蒲田にも店をオープンしていて、『宗平』と2つの店舗を挟んだ並びにある。近所にある居酒屋の先輩という縁で『宗平』にも食事に来ていたところ、創業者から「高齢で引退したいから、引き継がないか」と声をかけられた。それまで長崎には縁もゆかりもなかった川手さんだが、創業者から店舗を引き継いだ。
お店以外にも仕入れ先も引き継いだ。特に西海市から獲れたての魚を直送してくれる漁師さんとはメッセージをやり取りするのが日課だ。魚はハマチ、タイ、サバ、シマアジなど。この4種類は刺し身の盛り合わせに必ず使われている。「サバを生のまま出すお店は少ないので、サバの刺し身を目当てにいらっしゃる方も多いですよ」と川手さん。
ランチに食べるなら?人気を二分する長崎ちゃんぽんと長崎皿うどん
魚以外も、店の料理は多くが長崎から仕入れた材料を使っている。名物の長崎ちゃんぽんは、豚骨ベースのスープに、長崎では有名な製麺会社「五島製麺」の麺を合わせている。ピンクと緑のかまぼこに代表されるいろいろな練り物も長崎の味。キャベツやもやし、イカに豚肉、キクラゲと具沢山なのもうれしい。
長崎ちゃんぽんと並んで、長崎を代表する麺料理といえば、長崎皿うどんだ。長崎ちゃんぽんは、深さのあるどんぶりに、炒めた具とスープとちゃんぽん用のやわらかい麺を入れるのに対し、長崎皿うどんは、浅い皿に揚げた麺、その上からあんかけにした具をかけるという特徴がある。
「長崎ちゃんぽんと長崎皿うどんは、どちらが人気なのだろうと思っていましたが、本当に半分半分なんですよ」と川手さんはおもしろい発見をしたかのように話してくれた。
ただし、長崎ではやわらかいちゃんぽん用の麺で、皿うどんを作ることも多いようだ。「長崎出身者の方から『(ちゃんぽん用の)やわ麺で皿うどんを作ってほしい』とリクエストされることがあります。裏メニューとして対応しています」とのこと。
約40年の歴史ある店は、守りながら変革も
店名の『宗平』は創業者が祖父の名前から宗の文字をもらったものだそう。「店を引き継いだとき、店名を変えたらいいのではないかというアドバイスもありましたが、たくさんの方に慣れ親しまれた今の名前のままでいこうと思っています」と川手さん。
『宗平』を引き継いだ2025年10月は、川手さんにとって2店舗目である蒲田の『夜明けぜよ』をオープンして、ようやく1年が経過するタイミングだった。そんな中、『宗平』を引き継ぐことにした理由は、長崎に特化しているという特徴がはっきりしたお店に興味が湧いたことが大きい。川手さん自身もトビウオを使ったかまぼこのすぼや、長崎直送の刺し身などを食べて、長崎の味に魅力を感じていた。「福岡・博多の料理を出すお店は割とありますが、長崎となると東京にはなかなかないんですよね。特徴を打ち出すと、たくさんある中から選ばれるお店になると思いました」と振り返る。
仕入れ先や料理、店名とさまざまなものを創業者から引き継いでいて、「『宗平』は本場の味が食べられる店ですよ」と川手さんは胸をはる。一方で、変更したこともいくつもある。例えば、メニュー表の「すぼ」には、「トビウオのかまぼこ」と注釈をつけて、初めての人にもわかりやすくした。また、以前は種類が少なかった長崎の日本酒や焼酎も可能な限り揃えている。掘りごたつのある2階に加えて、倉庫だった3階にも客席を設けて、グループで利用されやすくもした。
創業から約40年の歴史を持つ『宗平』の第2幕は始まったばかり。今後の躍進に期待しつつ、蒲田で長崎の味を楽しみたい。
取材・文・撮影=野崎さおり







