深川資料館通り商店街の人気店
『Boulangerie Panta Rhei』は、2017年4月にオープンした。深川江戸資料館をはじめ、寺院や幼稚園などが立つ、下町風情残る深川資料館通り商店街にある。
オーナーの伊丹祐介さんは、「独立にあたって、以前勤務していた店舗からも近いので土地勘があったことと、昔ながらの昭和感とおしゃれなカフェが共存しているおもしろいエリアだなと思い、この地を選びました」と話す。
理系の世界からの転身
伊丹さんは、異色の経歴の持ち主だ。東京理科大学工学部機械工学科に在籍していた学生時代に、フランス料理のシェフを目指し、ダブルスクールで調理師専門学校の夜間部に入学したという。
工学部にいながらフランス料理のシェフを目指した理由には、ご自身がアレルギー気管支炎という持病を患っていたことに起因している。当時の大学はすべて喫煙OK状態で、伊丹さんにとっては厳しい環境であり、就職後もこういった環境の職場で働くことはできないと一念発起。料理人の世界へ足を踏み入れることを決意したのだとか。
就職活動中、なかなか就職先が見つからずにいたが、その中で年齢制限も比較的緩く、甘い物好きだったこともあって、専門学校卒業後に洋菓子店へ勤務。パティシエを目指すことになる。その後、本場フランスへ渡って研鑽を積み、帰国後も有名パティスリーで勤務する中で、コンテストに出場しては受賞するなど、確実に腕を磨いていった。
「特別な日に食べるケーキより、毎日来店してもらい、多くの人に普段から味わってもらえるパン職人になることを決意しました。クロワッサンやデニッシュなどパティシエの経験も活かせますから」と伊丹さん。
店は、オープンしている日も少なく、営業時間も短いが、それは伊丹さんがすべての工程を一人で行い、丁寧な仕事を第一と考えているからこそ。ファンからは「もっと営業してほしい」という声もあるようだが、自分の納得したものだけをお客さんへお届けしたいという思いの表れだ。
毎日食べたいと思えるパンを
伊丹さんが作るパンは、しっとり、モッチリとした高加水パンがメイン。現在は8種類の小麦粉をブレンドして使用している。パンの種類によって配合比率などを調整して使い分けているという。
「パンを食べる時、具材が少ないとちょっと寂しい気持ちになるので、生地と具材のギリギリのバランスを考えた具だくさんのパンにしています」と伊丹さん。
これには納得! 実際に味わってみると、どれも中身ぎっしり。具材のおいしさも、生地のおいしさもしっかりと味わえるものばかりだ。
今は、手が足りずに、種類をなかなか増やせないでいるとのこと。それでも、デニッシュ系やハード系、パティシエの経験を活かしたスイーツ系など、多彩なパンが並ぶ。オープン以来ずっと作りたいと思っていたシュートレンなどにいずれはチャレンジしたいと、伊丹さんの熱意は尽きることがない。
伊丹さんもおすすめの3種
おすすめの3種類を紹介する。
左奥のブラリネショコラは、デニッシュ生地にブラリネペーストとチョコチップを巻き込んだ一品。とにかくチョコチップがびっしり! 最後の一切れまでチョコチップの食感を味わうことができ、またブラリネペーストの甘さもほど良く、スイーツ感覚で味わえる。
手前の大納言フランスは、フランス生地に十勝産の“大納言かのこ”をたっぷり包んだもの。もっちりとした生地と、ホクホクとした大納言かのこの食感がたまらない。自宅で、1分半〜2分ほど温め直すと、より生地の周りがパリッとし、中のもっちり感が増すそうだ。
最後は右奥の奥久慈卵のクリームパン。各料理ジャンルごとに至極の一皿を決定するグルメアワード「2018年下半期 SARÁH JAPAN MENU AWARD(サラ・ジャパン・アワード)」のクリームパン部門で2つ星を獲得。カスタードクリームも手作りで、保存料は一切使っていない。クリーミーでありながら、上品な甘さがたまらない。
どのパンを買うか迷ったら、まずはこの3種類でお試しあれ。
『Boulangerie Panta Rhei』店舗詳細
取材・文・撮影=千葉香苗