父のバトン、息子の夢。「浦里」誕生物語
つくばの酒といえば、辛口淡麗の「霧筑波」。地元ののんべえでその名を知らない人はいないだろう。創業が明治10年(1877)の『浦里酒造店』は長い間、茨城県内のみで販売することにこだわり続けてきた。「地元の人に愛される。地酒の生き方はそれでいい」。先代の浦里浩司さんはそう語りつつ「息子に仕事を残しておいたんです」と付け加える。
蔵元杜氏として蔵を継いだ6代目の知可良(ちから)さんが目指したのは、地元だけでなく、全国で愛される酒を造ること。知可良さんは東京農業大学を卒業後、山形の『出羽桜酒造』、栃木の『渡邉酒造』、広島の『酒類総合研究所』と外の世界で修業を重ねるなかで、悔しさを覚えた。
「茨城の酒が全然知られていなくて。産地イメージを上げるには、県内だけでやっていてもダメだと思いました」
そんなとき、みちしるべになったのは、「霧筑波」にも使っている茨城生まれの小川酵母だ。「父がほれ込んだ酵母であり、開発者の小川知可良先生は私の名前の由来でもあります。この運命的な酵母のポテンシャルを最大限に引き出せるような造りを模索しました」。
さらに、茨城の看板を背負うならと、酒米も種麹もすべて地場産で統一。仕込み水は筑波山水系の柔らかな伏流水だ。酸のない奇麗な味わいにするために、麹は米の内部だけに菌糸が食い込む「突きハゼ」に造り、醪は低温で30日間ゆっくりと発酵させる。
こうして試行錯誤の末に2020年に完成したオール茨城メイドの銘柄「浦里」は、まるで茨城名産のメロンのようなみずみずしい香りと、豊かな米のうまみ、なめらかな飲み心地を感じる酒に仕上がった。いまでは、県外からも熱視線を浴びている。
地元を守る父の「霧筑波」と、外へ攻める息子の「浦里」。これからの地酒の生き方を体現する二銘柄は、一見正反対だけれど、小川酵母という同じDNAでつながっている、まさに親子のような酒だ。「調子に乗るなよ」と釘を刺す浩司さんの言葉が、知可良さんへのエールに聞こえてしょうがない。
『浦里酒造店』店舗詳細
取材・文=井上麻子 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年7月号より





