父のバトン、息子の夢。「浦里」誕生物語

「浦里」純米吟醸1750円、「霧筑波」特別純米酒1815円(いずれも720ml)。
「浦里」純米吟醸1750円、「霧筑波」特別純米酒1815円(いずれも720ml)。

つくばの酒といえば、辛口淡麗の「霧筑波」。地元ののんべえでその名を知らない人はいないだろう。創業が明治10年(1877)の『浦里酒造店』は長い間、茨城県内のみで販売することにこだわり続けてきた。「地元の人に愛される。地酒の生き方はそれでいい」。先代の浦里浩司さんはそう語りつつ「息子に仕事を残しておいたんです」と付け加える。

蔵元杜氏として蔵を継いだ6代目の知可良(ちから)さんが目指したのは、地元だけでなく、全国で愛される酒を造ること。知可良さんは東京農業大学を卒業後、山形の『出羽桜酒造』、栃木の『渡邉酒造』、広島の『酒類総合研究所』と外の世界で修業を重ねるなかで、悔しさを覚えた。

「茨城の酒が全然知られていなくて。産地イメージを上げるには、県内だけでやっていてもダメだと思いました」

白衣をまとい、醪(もろみ)の状態を確認する知可良さん。
白衣をまとい、醪(もろみ)の状態を確認する知可良さん。
1996年に建てた仕込み蔵は、当時では珍しい冷蔵倉庫型。徹底した低温環境と衛生管理が、透明感のある酒質につながる。
1996年に建てた仕込み蔵は、当時では珍しい冷蔵倉庫型。徹底した低温環境と衛生管理が、透明感のある酒質につながる。

そんなとき、みちしるべになったのは、「霧筑波」にも使っている茨城生まれの小川酵母だ。「父がほれ込んだ酵母であり、開発者の小川知可良先生は私の名前の由来でもあります。この運命的な酵母のポテンシャルを最大限に引き出せるような造りを模索しました」。

小川酵母は茨城で1952年に分離培養された。現在は「きょうかい10号酵母」としても知られ、メロンやバナナのような優しい香りを醸す。
小川酵母は茨城で1952年に分離培養された。現在は「きょうかい10号酵母」としても知られ、メロンやバナナのような優しい香りを醸す。

さらに、茨城の看板を背負うならと、酒米も種麹もすべて地場産で統一。仕込み水は筑波山水系の柔らかな伏流水だ。酸のない奇麗な味わいにするために、麹は米の内部だけに菌糸が食い込む「突きハゼ」に造り、醪は低温で30日間ゆっくりと発酵させる。

こうして試行錯誤の末に2020年に完成したオール茨城メイドの銘柄「浦里」は、まるで茨城名産のメロンのようなみずみずしい香りと、豊かな米のうまみ、なめらかな飲み心地を感じる酒に仕上がった。いまでは、県外からも熱視線を浴びている。

種麹は「もやし」とも呼ばれる。「浦里」で使用する茨城産の丸福もやし(右)。
種麹は「もやし」とも呼ばれる。「浦里」で使用する茨城産の丸福もやし(右)。

地元を守る父の「霧筑波」と、外へ攻める息子の「浦里」。これからの地酒の生き方を体現する二銘柄は、一見正反対だけれど、小川酵母という同じDNAでつながっている、まさに親子のような酒だ。「調子に乗るなよ」と釘を刺す浩司さんの言葉が、知可良さんへのエールに聞こえてしょうがない。

蔵は来年で創業150年を迎える。知可良さんと、先代で父の浩司(右)さん。
蔵は来年で創業150年を迎える。知可良さんと、先代で父の浩司(右)さん。
蔵には直売店もある。「浦里」は全国特約店のほか、地元では蔵近くの『セブンイレブン つくば吉沼店』でも購入可能。
蔵には直売店もある。「浦里」は全国特約店のほか、地元では蔵近くの『セブンイレブン つくば吉沼店』でも購入可能。

『浦里酒造店』店舗詳細

住所:茨城県つくば市吉沼982/営業時間:直売店9:00~18:00  /定休日:土・日/アクセス:つくばエクスプレス研究学園駅からつくバス吉沼シャトル「やすらぎの里しもつま」行き約38分の「吉沼」下車2分

取材・文=井上麻子 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年7月号より