デザイン会社だからこそ生まれた雑貨店
店舗では、ファッショナブルな立ち姿が印象的な店長の高橋さんが出迎えくれた。あまりのおしゃれな印象にちょっと尻込みしていたが、話してみるとその気さくなもてなしに、こちらの気負いも吹っ切れた。
「プロペラデザイン」は、2003年に八丁堀で立ち上げ、2008年に清澄公園前へ引っ越してきたプロダクトデザイン会社。サンプル品が増えてきたため、売ろうかという話になったのと、商品が並べられた事務所をショップと間違えて入ってきてしまう人もいたことから、店をオープンすることにしたのだとか。加えて、お客さんの意見をデザイナーが直接聞くことができ、それがひいては次の商品プロデュースへつながり、新たな提案もできるだろうという思いもあったという。
商品の数が増えたことで手狭になってきたこともあり、印刷所工場跡だった現在の建物へ移転する。高橋店長は「徐々にファンのお客様も増えてきて、さらにリュックや鞄などを手がけるようになって手狭になったことも引っ越しの理由です。今の店舗兼事務所の内装は、設計士の方に相談しながら、お客様に見やすく、買いやすくできるか実験も兼ねてデザインしました」と話す。
商品プロデュースの舞台裏
「±0(プラスマイナスゼロ)」や「MILESTO(ミレスト)」など、有名ブランドのプロデュースを手がけるのも、デザイナーたちのきめ細かなこだわりが生んだ商品デザインの評判が高い所以。
「私はデザイン業務に直接関わっておりませんが、お客様との接客で知り得た情報をデザイナーと共有し、皆で相談しながらいろいろな商品プロデュースに活かしています。例えば、当店でも人気のリュックは発売当初Lサイズのみで、女性のお客様の要望により、メーカーと一緒に一回り小さいサイズを作りました。このように、デザインを始める一から、お客様の手にわたる十まで、すべてを一環して手がけているという思いが、『ALL』という店名になっています。
また、当店の商品は、1分の1スケールの試作品を必ず作っています。例えばブラシひとつとっても、取っ手の形など何回も試作して今の形になっています。毛の硬さや質感など、そんなに細かいところまで気にしなくてもよいのではないかと思いがちですが、実際の使い勝手、デザインの良さなどを追究する、そこが当社の強みです。3Dプリンターが導入されてからは、小物は社内で試作品を作っています」と高橋店長。
作る人、売る人、買う人のすべての思いがトライアングルでつながっているからこその商品。単なるモノと思うことなかれ、頭が下がる思いだ。
日用品だからこそ大切なお客さんの声
店内には、プロデュースした商品のほかに、この店のオリジナルブランド「HITOHI」もある。この商品は、フェアトレードの一環で取り組んだもの。インドシナ半島ラオスで、綿花栽培から手紡ぎ、天然草木染、手織りまですべての工程を行っているという。樹皮で染めているからこそ、自然で優しい風合いが生まれ、一つひとつ微妙に色が違うのも、手作りならではだ。
「私も商品が完成するまでの成り立ちや、デザイナーの思いを知っているからこそ、お客様に納得のいく商品説明ができるわけです。お客様もその経緯に興味をもってくださり、納得して買ってくれます」と高橋店長。
「デザイナーが運営している店舗ということで入りづらい印象もあるようですが、その良さを知っていただくためにも、ぜひ見るだけでもいいので足を運んでいただきたいです。いつでしたか、小学生の兄弟が、母の日にブラシ1個を買いにきてくれたことがありますが、そんな風に気軽に利用してもらえるとうれしいですね」
お客さんの声を大切にし、その小さな“気づき”が次の商品プロデュースへ活かされる。そんな、モノ作りの原点をここで見ることができる場所なのだ。
取材・⽂・撮影=千葉香苗