懐かしさと新しさが混在する中目黒
東急東横線と地下鉄日比谷線が乗り入れる中目黒駅。高架下には個性豊かな飲食店や書店などのショップが連なり、桜の名所として有名な目黒川沿いにはスタイリッシュなカフェや隠れ家的なレストランが並ぶ。洗練された街というイメージだ。
一方で、昔ながらの風情が残る商店街も健在。昭和なたたずまいの床屋さんや電器店、洋品店などと、いまどきの中目黒っぽいおしゃれな店とが共存している。
そんな昭和レトロな雰囲気が漂う商店街の1つ、目黒銀座商店街から少し路地を入ったところに目黒区総合庁舎の「1階西口」がある。
目黒区総合庁舎は、1966年に竣工した千代田生命保険相互会社の本社ビルを2003年に改修した建物で、建築家・村野藤吾の代表作の1つとして知られている。アルミの鋳物でつくられた縦格子の外観が印象的な建物だ。
庁舎の周囲をぐるりと歩いてみた。入り口は「1階西口」「1階東口」「3階南口」の3カ所。
もとのビルの来客用玄関にあたる3階南口のエントランスホールはまるでアートギャラリーのような、ぜいたくな空間となっており、一見の価値あり。
レストランは、1階西口から入ると、右手奥の方向にある。庁舎内の案内所で「レストランはどこですか?」と聞くと、ていねいに教えてくれる。
メニューはラーメン、カレー、そば・うどんなどの定番のほか、日替わりと週替わりのランチが用意されている。この日の日替わりAランチは豚ときくらげの青菜炒め740円、日替わりBランチはハンバーグ&から揚げ740円、週替わりCランチがガパオライス670円。
出迎えてくれた店長の金澤昭さんにおすすめをうかがうと「週替わりのガパオライスが人気です。それから醤油ラーメンミニカレーセットがお得でおすすめですよ」とのこと。では、どちらも注文しちゃいますか!
エスニックな香り漂うガパオライスと充実の小鉢
店内は全員前を向いて座るスタイル。店内すべてがカウンター席、とでもいおうか。コロナ禍以降、この形になったそう。向かい合わせで座れるテーブル席を並べるより、このほうが席数を多くとれるんだそうだ。
さて、注文カウンターに並んで、まずはガパオライスを注文。日替わりランチにはみそ汁と小鉢が付いて、ごはんは白米と十五穀米から選べる。
小鉢は10種類以上のなかから自由に選べる。この日用意されていたのは、大根とちくわのポン酢炒め、すき昆布煮、ひじき煮、レンコンのきんぴら、春雨サラダ、オクラ&とろろ、オクラの胡麻和え、ほうれん草のおひたしと温玉、納豆、冷奴、杏仁豆腐の12種類。これは迷うな~。
ガパオライスは日本語にすると「バジル炒めごはん」。タイのソウルフードの1つだ。エスニックな香りがふわっと漂って、食欲をそそる。それではさっそくいただきます!
ひと口ほおばると、最初に感じるのは少しピリ辛。そこからだんだんとエスニックな深みのある味わいと、野菜の甘みが出てくる。
「ナンプラー、オイスターソースで味付けしています。隠し味にお醬油もちょこっと入れてます」と店長の金澤さんが教えてくれた。ナンプラーの風味に日本の醤油を加えることで、よりコクが深まっているのですね。
どれも魅力的な小鉢のなか、悩みに悩んだ末に選んだ杏仁豆腐。ピリ辛料理を食べた後のお口直しにぴったりだ。我ながらグッドチョイス!
どっちも食べたいを実現するセットメニュー
ガパオライスで大満足してしまったが、金澤店長おすすめの醤油ラーメンミニカレーセットも食べずには帰れない。自分の胃袋に問う。まだいける、大丈夫と言っている……! この勢いのまま、再び注文カウンターへGO!!
懐かしい味わいの醤油ラーメン。鶏ガラとくず野菜を煮込んでとった出汁と、キリっとした醤油ダレを合わせたスープだ。
チャーシューはやわらかさ、脂のバランスが絶妙。しっかりとした味付けもバッチリで、超筆者好み! 時季によって提供するチャーシューは変わるそうで、違う時季のチャーシューも食べてみたいなあ。
そしてカレー。ひと口目で「甘口?」と思ったが、だんだん奥のほうからスパイス感が寄せてくる。口の中で「お、辛いの来た、ピリピリが来たー!」といった感じ。
「チリパウダーとガラムマサラで炒めた豚肉とタマネギを甘めのルーと合わせるので、噛んでいるうちにスパイス感が出てくるんだと思います」と金澤さん。
徐々に口の中に広がってくるスパイス感。具材が大きくジャガイモもニンジンもホクホクで、食べごたえも充分。常連さんに人気があるというのもうなずける。クセになる味わいだ。
「もともとは、けっこう甘めのカレーだったんです」と教えてくれたのは管理栄養士の本多悠(はるか)さん。お客さまアンケートで「カレーにもうちょっとスパイスをきかせてくれるとうれしい」というご意見があったそう。お客さまの声を反映して、チリパウダーとガラムマサラを使う味付けに変えたんだそうだ。
お客さまの声を反映してメニューを進化させるって、最高のサービスですね! 毎日開店前から並びたくなってしまう気持ち、わかるなあ。おいしかったです、ごちそうさまでした!
アンケートを通したお客さまとのコミュニケーション
店にはいつでもお客さまの声を聴けるよう、アンケート用紙を用意している。カレーの味付け以外にも、「揚げ物が多いのでヘルシーなメニューも増やしてほしい」というご意見に応え、野菜多めのベジメニューをつくった。
「『ブリ大根の味がすごく染みていておいしかったです』といったうれしいお言葉もよくいただきます」と本多さんが笑顔で教えてくれた。ブリ大根は、かつて居酒屋で料理の腕を振るっていた金澤店長が2日前から仕込みを始めるという、自慢の一品。日替わりランチで提供される。
「役所のレストランは、どうしても価格に制限がある。安さのなかでどれだけのものが提供できるかが勝負。安かろう悪かろうではダメ。どこまで仕上げられるか。お客さまに満足してもらえるラインを日々クリアしていく、ということを日々やっています」と金澤店長。
管理栄養士でありながら厨房で調理にもたずさわる本多さんは、「食堂を利用してくださる方々に食の知識を知ってもらいたい。皆さんが足を止めて見てくださるようなポップをつくって、『この食材にはこんな効果がある』といった情報を発信していけたら」と話す。
目黒区役所レストランの名物としてメディアでもよく目にするのが、黒ゴマや黒糖で仕上げた黒いソースのブラックカレー980円。注文を受けてから調理する揚げたてのエビフライが2本、どーんとのったぜいたくな一品だ。
「テレビなどでも取り上げてもらってありがたいのですが、なにか名物メニューをもう1つ考えたい」と、金澤店長と本多さんは意気込む。新メニュー開発に要する時間や価格帯の問題など、超えなくてはならない壁があるが、お2人とも「お客さまに喜んでもらいたい」ということを一番に考えているのだ。
しばらくしたら本多さん作の食に関するポップがたくさん増えているかも。新しい名物メニューもできているかな? お話を聞いているうちにいろいろ楽しみになってきた。この魅力的な建物全体もまたじっくり見たいし、近いうちにまた訪れたいと思う。次に来たとき、日替わりメニューがブリ大根だったらうれしいなー。
取材・文・撮影=マルヤマミキ






