「ニュー」とはなんだ?

偶数月の第2土曜日には、どんなに朝が弱くてもがんばって早起きしたくなる理由がある。「はちまんさま」の木立に囲まれた参道に、朝早くからわいわいと市が立つのだ。ここ葛飾八幡宮は、八や幡わたの地名の由来となった神社で、創建されたのはじつに平安時代。そんな由緒ある場所で、今年2月からニューボロイチが始まった。
ニューボロイチ、正式名称「Have AGood Day Motoyawata」には100近い露店が並んでいるが、そのほとんどは市内からやって来た作家や雑貨店、食料品店や飲食店だ。葛飾八幡宮にはもう一つ、毎年9月中旬の例祭に合わせて行われる農具市、通称ボロ市があり、こちらはテキ屋の屋台と一緒に、鍬くわや鋤す きなど昔ながらの農業用具を扱う店が軒を連ねる。かつては「八幡の農具市」として広く知られ、県外からもどっと人が押し寄せるほどにぎわったというが、それに対しての「ニュー」。

葛飾八幡宮に人は集まる

「元来、神社は人が寄り合う場所。この場所を再び人が集まる場所にしたい」

若き宮司、持田篤史さんの願いが、ニューボロイチの開催につながった。では、どんなところが「ニュー」なのか。「境内が表現の場となれば、それを観に自然と人は集まると思いました」と持田さん。自身も音楽好きで、「自分たちの街に思い入れがあり、街に詳しいストリートカルチャーの担い手や地元でがんばるお店、作家、アーティストの方々と共に、新しい"もう一つのボロ市"を作りたいと思いました」。

葛飾八幡宮 宮司 持田篤史さん。京都の上賀茂神社で修業。そこでは手作り市が盛んで、葛飾八幡宮に戻ったら自分も地元のために何かしたいと考えたという。

そして神社と「ストリート」をつなげたのは、いちかわ手づくり市実行委員会の湊誠也さん。「昨年10月に市川青年会議所のふれあい市で宮司さんと名刺交換して、参道で何かやりたいと意気投合」したとか。湊さんは仲間に声をかけ、さらにその気持ちに賛同する人が集まり、次第に規模が大きくなったという。人と人がつながり合ってできたイベントだからか、和気あいあいとしたムードにこちらまで和む。

DEPOT 湊 誠也さん。本業はサイクルショップ『DEPOT』店主。ニューボロイチにも出店し、オリジナルのTシャツなどグッズの販売も。

実際に会場を歩いてみよう

鳥居をくぐるとまず、器やアクセサリーなどクラフト雑貨の店が目に入る。さっそく物欲をくすぐられるが、一旦ガマン。なにせ100軒近くあるのだ。参道中程の随身門を過ぎると飲食エリアに突入。移動コーヒー屋に並んでいると、キッチンカーの周りでズズッとフォーを手繰る人がいたり、あたりにいい匂いが漂う。突き当たりの門の向こうには拝殿がある。そうだ、まずは神様に挨拶しなくちゃ。手を合わせ、「おはようございます。よい週末になりますように」。再び会場に戻り、鳥居の方角に引き返す。近隣農家のテントでは、ビーツなど珍しい野菜が手に入った。そのままぐるぐると何周かしたところで、ふいにプロのミュージシャンによる弾き語りが始まり、わらわらと集まってくる観衆。なお、こちらのミュージシャンや会場BGMを担当するDJのみなさんも、以前からいちかわ手づくり市実行委員会が企画する他のイベントにも参加するなど、市川との関わりが深い。彼らの音につられ、昼間からビール片手に幸せそうな表情を浮かべた大人が体を揺らす。私は私で既にたくさんの戦利品でエコバッグをいっぱいにしているというのに、器やアクセサリーも気になってしまい、ちょっと冷静にならなくちゃ。ベンチに腰掛け、とりあえずさっき買ったサンドイッチをつまもう。

ああ、こんなに楽しいのに、まだ土曜日は始まったばかりだし、明日も休みだし、なんてすばらしいんだ。

「そうなんです、そう思ってほしくて土曜日の朝に開くことにしたんです。そしてそれを年に一回の特別なものではなく、日常的なものにしたくて隔月でやろうと」と湊さん。参道脇の児童公園で子供を遊ばせつつ、大人たちはくつろぎ、買い物を楽しんだり。おばあちゃんが孫と手をつないでライブを眺めていたり。お一人様が真剣な顔でクラフト雑貨を手に取り、作家に質問したり。ハレとケのどちらも包括したような、日常の延長線上にあるお楽しみ。それがニューボロイチ、「Have AGood Day Motoyawata」なのだ。

取材・文=信藤舞子 撮影=加藤昌人 構成=さんたつ編集部

散歩の達人2019年8月号より