東海道本線三島駅から伊豆箱根鉄道駿豆線に乗って終点の修善寺駅下車。バスに揺られて20分ほどで、山村風景の中にその施設は現れる。珍スポット好きにはお馴染(なじ)み、超広大なあの世を濃密に詰め込んだ擬死再生体験施設『伊豆極楽苑』(静岡県伊豆市下船原370‐1)だ。
臨終シーンから始まって、死出(しで)の山を登り三途(さんず)の川、賽(さい)の河原、閻魔庁、餓鬼道等々、あの世の各所を巡っていくが、中でもやはり、真っ赤に燃える八大地獄のジオラマが熱い。一体々々個性的な獄卒たちと地獄の責め苦を負う大量の亡者たちで、祭りのような大にぎわいだ。
訪れたのは晩秋の平日で空いていたので、地獄ゾーンの真っ赤な床に直接座り込んで、小さな亡者人形たちと同じ目線、超ローアングルで地獄の光景を眺めてみた。するとにわかに獄卒たちの巨大さが身に迫ってきて、大いにビビったのだった。まるで、都会に現れた大怪獣みたいなサイズ!
各地のお寺に遺る地獄絵や、地獄のバイブル『往生要集』の挿し絵では、獄卒はたいてい、亡者よりちょっと大きい程度か、せいぜい2倍くらいの背丈で描かれている。伊豆極楽苑の獄卒たちは、実際のサイズはそんなに大きくないから、初めはそのサイズ感に意識が行かなかったが、座り込んで亡者目線になると、亡者と比べて相対的に超巨大なのがメッチャ怖くなってくるのだ。
混んでいるときは他のお客さんの迷惑になりそうでアレだが、空いているときは座り込みの亡者目線にかぎる。亡者人形は簡素につくられているが、こうして同じ目線になってよく見ると侮れない。亡者にもちゃんと個性があって、みんな、生き生きと死んでいる。
かけがえのない地獄を未来の子供たちにも
ほかにも見どころしかなく、ほぼすべての展示物がクオリティが高くて驚いた。いわゆる珍スポット、B級スポットを想像していたが、ほかにない珍しいスポットではあるものの、B級と見るのは失礼なクオリティなのだ。美術的に見て、そんじょそこらの十王堂、閻魔堂に勝るとも劣らない。キッチュではあるが、もともと地獄のキャラクターたちはキッチュに描かれ、彫られてきたのだから、正統的といっていい。
最後に眼前に極楽浄土が広がると、思わず「おー!」と感嘆するドラマチックな構成。しかも、いったい何体あるのかわからないくらい大量の亡者人形や絵を含めたすべての展示物を、館長のお父さんと館長を中心に、家族だけで手作りしたという。スゴい労力の結晶だ。
もうひとつ、見逃せないのは外階段から入り直す「秘宝展」。民俗博物館的な感じで、世界のエロいものが集う。こぢんまりしているが結構充実の展示で、短時間ですませてしまうのはもったいない。あの世の展示だけでは集客が難しかったため後から秘宝展も始めたというが、擬死再生もエロもどちらも新たな生を獲得するためのもので、相性抜群。人間の剥き出しの姿を見せるところにも大いに通じるものがあり、相乗効果大だと思う。全国から秘宝館が次々と消えている今、大切にしたい。
今年(2026年)は開苑40周年にあたる。短時間でざっと見るだけでも楽しいが、とにかく情報量が多く、見どころがぎゅうぎゅう詰めなので、何度訪れても必ず楽しめる自信があるし、数十年後にも数百年後にもきっと行きたくなる。いずれ文化財に指定して、未来永劫遺してほしい。
館長の奥さんによれば、小さい子は展示を見て本気で怖がるらしい。小さい子はほぼ亡者目線になるから、怖さひとしおだ。大きくなったらもう信じないだろうが、悪いことをしたらこうなるのだと、子供のうちに地獄を怖れ、あの世を豊かにイメージする時を過ごすのは大切なことだと思う。かつてはお寺の地獄絵がその役割を担ったが、ほとんどの寺がその役割を失った今、『伊豆極楽苑』はかけがえのない場所だ。地獄を大切に! 未来の子供たちにも地獄を!
文・写真=中野 純
『散歩の達人』2026年2月号より








