村上善一さん
『送水口博物館』館長、消火機器メーカー村上製作所代表取締役
貴重な送水口を“救出”、展示
2025年で設立10周年を迎えた『送水口博物館』。
送水口愛好家たちが、日本の消防文化を物語る「オールド送水口」の残存数が減っていくことを危惧する姿を見た村上館長が、メーカー社長として解体現場に声をかけ、送水口を取り外したのが、“救出”活動のきっかけ。
愛好家の間で“国宝”とまで言われていた旧ブリヂストン本社ビルの送水口を救出した際、収蔵品を公開できる場所が必要だと思ったのが、博物館設立につながった。
「貴重な送水口のある建物の解体情報を耳にしたら、まずは現地に出かけます。
現場事務所の責任者にお会いできたら、博物館館長であると明かした上で、その建物の送水口がいかにすごいか熱意を持って伝えます。許可を頂戴したら、再び出かけて救出作業を行う、という流れです」
「後で展示することを考えると救出中に壊してはいけないので、作業には細心の注意をはらいます。
その送水口がどういう場所で活躍していたかが分かるよう、設置場所のタイルの寸法まで再現した展示台を自作し、救出した送水口を展示しています」
村上製作所の歴史を物語る扇形送水口
2025年9月に出版された著書『まちかど送水口図鑑』には、全国47都道府県で撮影した、数々の貴重な送水口が紹介されている。
「掲載した送水口は、ビンテージなものが中心。どれを掲載するかは、愛好家の皆さんのお知恵をお借りしました。『あの地域に行くなら、ここの送水口はぜひ見てくださいね』って、ずっと洗脳されてきたんです(笑)」
中でも村上館長の思い入れがあるのは、村上製作所の歴史を物語るとも言える、岩手県・釜石市役所の扇形送水口だ。
「この送水口は、村上製作所の一番古いカタログでも紹介されているくらい歴史を持つ製品で、当社のルーツとも言えるものです。
海外製の送水口を真似した似たりよったりなデザインが多かった時代の中で、当社の独自デザインである扇形の飾り板が付いているのが特徴です。最初に長崎県庁に送水口を収めた際、“出島”をモチーフにデザインされたものではないかと考えています」
「この扇形送水口は、日本に4現場(5個)しか現存しない貴重なもの。旧長崎県庁本庁舎に設置されていたものは、2018年の建物解体時に長崎まで行って救出し、長崎県に寄贈しました。
滋賀銀行東京支店に付いているものは、まだ現役でビルを守っています。旧横濱ビルに設置されていたものは、2022年の建物解体時に救出し、『送水口博物館』で展示しています。村上製作所の出発点のような存在なので、博物館の展示品の中でも特に思い入れのある、大好きな送水口です。
実は釜石市役所も、もうすぐ建物が解体される予定です。釜石市にもコンタクトを取って、この送水口がいかに貴重かを丁寧にお話しました。送水口は、救出して地元・釜石に残してもらうよう、お願いしています」
いずれ現地で保管されている送水口を展示したいと思い描く。
「長崎と横浜で、救出した送水口を展示したいですね。神奈川県庁から救出した送水口は、現役時代の様子を僕が油絵として描いて残しています。絵と一緒に実物の送水口を飾ってもらうことで、当時の様子に思いを馳せていただきたいです」
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて村上善一さん提供
『散歩の達人』2026年1月号より










