店に漂うのはあの頃の香り……『喫茶 木の実』
2代目店主の母が開業してから70年ほど。内装や家具、食器までもがまとう当時の空気感に惹(ひ)かれ、今では地元の常連のみならず遠路はるばる訪れる人が尽きない。注文後にドリップされる淹れたてのコーヒーや手作りの喫茶メニューもさることながら、店内の壁に貼られたスクラップ、去り行く時代を書き綴(つづ)った店主の随筆があの頃の風景を呼び起こす。
9:00〜17:00(土・日・祝は〜18:00)、無休。
☎︎03-3657-5669
伸びるアンテナもパカパカも!『Wataden Radio26』
創業から97年を迎える街の電気屋。「わたでん」の愛称で地元民に頼られ、ガラケーを使ったアート作品が各所から注目を集め続ける。店舗外観の一面が携帯電話で埋め尽くされているのは、通信会社から支給される店頭用のサンプル品を処分せずに並べ続けたから。ガラケー世代だけでなくスマホ世代にも刺さる圧倒的な風景は、もはや日本遺産レベル!
10:00〜18:00、無休。
☎︎03-3657-0455
朝食も小腹がすいた時もここのパン♪『FRESH BAKERY ナカヤ』
父の代から60年以上続く、地域に根ざしたパン屋には総菜や菓子パン、サンドイッチなど誰がいつ訪れても食べたい商品が並んでいる。とりわけあんぱんが名物で、あんこと生地の比率が秀逸。クロワッサン200円やデニッシュ280円〜など、2代目店主である石井秀一さんのオリジナルも見逃せない。来店は、商品がもっとも多く並ぶ昼前後を目がけて。
7:00〜20:30、日休。
☎︎03-3658-0871
今日のおやつはどれにしようかな『美奈津 本店』
店主は、和菓子ひと筋60年の岩下勉さん。「できたてのおいしいお菓子を」と開店当時から変わらず、手間暇惜しまず手作りしている。やき、あん、いそべの3種類ある名物だんごは、ずっしりと重く大ぶりながら最後のひと口までまったく飽きない。和菓子以外の海苔巻きやいなり寿司、赤飯、おにぎりも評判。三世代にわたって通う常連も多いのだとか。
10:00〜18:00、日・祝休。
☎︎03-3659-8393
これは! あの時欲しかったやつ!!『さあどあんくる』
幼少期に夢中で追いかけ続けたヒーローもロボットも怪獣もいるここは、まさにパラダイス。70〜80年代の物を中心に、絶版になったソフトビニールの人形や超合金のおもちゃ、プラモデル、ミニカーなどおびただしい数が並ぶ。「30年前、趣味が高じて店を開くことになった」と笑うのは店主の秋葉秀俊さん。見るほどに沼にハマり、瞬く間に時間が過ぎていく。
15:00〜20:00、月・火休。
☎︎03-3659-5545
ガチャンガチャンで出来上がり『MARUMI』
さんぽの思い出に!
八百屋からプロマイド店になって58年。著名人の写真やポスター、グッズのほか、立体の消しゴム、ねりけし、缶ペンケースといった昔懐かしい文房具も取り扱っている。店主の並木幹成さんが、専用のマシーンを使って作る缶バッジは1個250円。自分で持ち込んだ写真やイラストを、3分ほどで世界に一つだけの缶バッジに仕上げてくれる。
9:40〜18:00、水休。
☎︎03-3657-7590
アーユーレディ〜?小岩で時をかける
昭和に生まれて平成を謳歌(おうか)した。つい最近の事のように思うけれど、気づけばしっかりと懐かしさを感じるまでになっている。それもそうか、巷(ちまた)では昭和も平成も「レトロ」にカテゴライズされるのだから。もう戻らない、日々きらめいていた良い時代……が小岩にあるらしい。え? 本当?
訪れたのは『喫茶 木の実』。看板や装飾など、扉を開ける前から浮ついてしまう。席についても辺りをきょろきょろ。運ばれてきたサンドイッチとコーヒーにズドーンと胸を撃たれる。カフェじゃなくて、喫茶店こその味と心地よさがある。あぁ、これですよこれ。
『FRESH BAKERY ナカヤ』で見つけたのは、幼少期から食べている菓子パンや高校生の頃に購買でよく買っていた総菜パン。ハード系が主流になりつつあるけれど、やっぱりソフトパン。日本発祥のパン。いくつになってもこのおいしさは揺るがない。
そうそう、それは和菓子も同じだと思う。初めて食べたのは、確か祖父母の家だった。遊びに行くとスナック菓子や洋菓子を遥かに上回ってストックされていた大福、最中、羊羹(ようかん)。甘辛い醤油ダレがとろりと滴るまでかかった『美奈津 本店』のやきだんごを頬張り思い出したのは、温もりと優しさ。目まぐるしく移りゆく時代の中でも、この味が側にある限りいつだってあの日に戻ることができる。
街が魅せる愛おしき風景が、一日でも長くありますように
気の向くままに右へ左へ、行き着いたのは商店街だった。入り口のアーチや看板、街路灯のどれもが昔のまましっかり古めかしくて、それがとても良い。駅周辺の路地裏も巡ってみると、期待を裏切らない渋さでイケてる。
それならば、と繁華街から離れた場所にも足を延ばしてみたら奇跡のような場所に辿(たど)り着いた。一軒目は地元民ご用達の『Wataden Radio26』。外観裏にはとんでもない数のガラケーが飾られていた。その中には、当時肌身離さず持ち歩いたあの機種も。久しぶりの再会に気分はアゲアゲだ。
次に見つけたのが『さあどあんくる』。コレクターでなくとも店内から抜け出せなくなる数の古いおもちゃ。クリスマスやお年玉がもらえるこの季節、親にねだって連れて行ってもらった玩具店での思い出が鮮明に蘇(よみがえ)る。陳列棚のすべてが欲しいと望んだ日からうん十年、ショーケースにへばり付き動かない私。子供のままじゃないか……!
後ろ髪を引かれる思いで店を後にし、最後に立ち寄ったのは『MARUMI』。小岩での思い出にと缶バッジを作った。そういえば、大好きなアイドルの缶バッジを集めていた時がある。今は何でもかんでもデータで残しているけれど、やっぱり形があるものっていい。いつの日かこの缶バッジを懐かしみ、愛でたいと思う。
余韻に浸りながら周りを見渡すと、都市開発が着々と進んでいる。今日見たものが一つでも多く、少しでも長くありふれた街の景色として残ればいいなぁ。
取材・文=新居鮎美 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2026年1月号より








