当時の姿を残した店内で、アツい想いに触れる
階段を上り2階へ上がると、見慣れたグリーンの看板が。扉を開けば、木の設えのボックス席や赤い天井が目に映る。まるでタイムスリップだ。
1967年、サイゼリヤ代表取締役会長の正垣泰彦氏は、この場所で洋食店『サイゼリヤ』を開業した。当時は大学に在籍し、卒論作成の真っ只(ただ)中。学生と起業家の二足の草鞋(わらじ)で商売を続けていたが、開店から9カ月後に客同士の喧嘩(けんか)がきっかけで店舗が全焼。しかし、周囲の助けを得ながら再建し、当時は珍しかったイタリア料理を学ぶため現地へ飛ぶ。老いも若きも豊かな笑顔にしてしまうイタリア料理の底知れぬ魅力に心打たれ、「日本で広める!」と、決意した。我々の知る『サイゼリヤ』はここから始まったのだ……!
「これが正垣会長から聞いた話」とは、千葉県中小企業家同友会の大山達雄さん。「もともと正垣会長も経営の勉強のために同友会に入ったんです。でも、彼の経営哲学があまりに的確で、みんな教えを乞うようになった」。
正垣氏の考えは「誰を幸せにするか」に徹底。『サイゼリヤ』なら、「老若男女誰もが財布を気にせずおなかいっぱいに」という思いが込められている。
そして2000年の1号店閉店時、会員たちが「学びの場」として『サイゼリヤ教育記念館』にしたというわけだ。
「正垣さんの経営哲学は本当に徹底していた。すべてを数字で語る。誰でもわかるシンプルな言葉で説明する」
閉店当時の姿で残された館内を見渡すと、計算され尽くした店づくりがうかがえる。動線を意識した厨房(ちゅうぼう)のつくり。自社栽培のブドウやワインの秘密。社員や役員のアツい言葉。値上がり著しい現代で客が安く、たらふく食べられる理由に納得。現在の実店舗ではアピールしてないのもかっこいい。
「創業期は客も少なく業者への支払いもカツカツ。それでも『毎日が文化祭みたい』と、スタッフと笑いながら泊りがけで働いていたそうですよ」
今や世界一のイタリア料理チェーンにそんな時代があったとは。けれど、「誰もが財布を気にせずおなかいっぱいになってほしい」という思いは初志貫徹。ここにはあふれんばかりのアツい想いが、今も確かに残っているのだ。
取材・文=どてらい堂 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2026年1月号より









