八馬智さん
千葉工業大学創造工学部デザイン科学科教授。専門は景観デザイン。都市鑑賞者として活動しながら、さまざまな形で土木のプロモーションを行っている。著書に『ヨーロッパのドボクを見に行こう』(自由国民社)、『日常の絶景 知ってる街の、知らない見方』(学芸出版社)など。
高低差を解消するために生まれた独特の造形
「段差や傾斜を解消するために、必然的に生まれた形。それが巧まざる造形の大きなポイントです。こうした風景はすごく地味だし、見過ごしてしまいがちですが、よく見てみると職人芸のような工夫が読み取れます」
「こうした、本来鑑賞される対象ではないものを鑑賞するところに、面白さを感じているんです。
美しさを狙っていないもの、作品として意図されていないものだって、鑑賞者が面白さに気づき、美的価値を見出すことで、作品のように鑑賞対象となるのです」
無名の作家たちによる職人芸
八馬さんが都市鑑賞をライフワークとするようになった原点は、2000年代後半に遡る。
当時、水門愛好家・佐藤淳一さんの呼びかけで、ダムや鉄塔、工場といったドボク愛好家が集う「ドボク・サミット」が開催された。それまで一般的には鑑賞対象とされていなかった土木構造物を、美的感覚を含めて鑑賞して楽しむ人たちが一気に増えた時期でもある。
「当時、写真家・大山顕さんやダム愛好家・荻原雅紀さん、鉄塔愛好家・長谷川秀記さんといった土木構造物を愛でる界隈(かいわい)の人たちと一緒に、ワイワイ話しながらいろいろなものを見に行ったり、街を歩いたりしていたんです。
その過程で、“見えないものが見えるようになる”プロセスが面白くなって、僕自身の目も鍛えられていきました。
また内海慶一さんが提唱した『都市鑑賞』という言葉も、今のものの見方に接続できるようになった大きなきっかけです」
「街のものをいろいろと写真に撮るようになったら、どうやら人が創意工夫を重ねたものほど面白いぞ、と気づき始めました。
その代表例が、先述した高低差です。
人間はどうしても段差や勾配を嫌がります。元の地形という動かせない条件を解決して、人が活動するための領域を作っていく際の、無名の作家たちのカスタマイズの営みは、民藝にも通じます。
結果的に、高低差がある街ほど、面白い営みがたくさん見られます。また階段は通常、同じ形が連続し、建築物の中では一定のリズム感を刻んでいますが、自然地形の上だと整合性の取れない部分が生じます。それをいかに工夫で乗り越えるかも、見どころですね。
こうしたノイズをまずはキャッチして、その成立要件が何なのかを考えること自体が好きなんだと思います」
「観察」「考察」「洞察」
八馬さんは、大学教員として、都市鑑賞をデザイン教育のプログラムにも取り入れるなど、都市鑑賞の社会実装を試みている。
「都市鑑賞を教育プログラムに取り入れる際、『観察』『考察』『洞察』という三段階を意識しています。
街中で気になったものをさまざまな角度から拾い上げるのが『観察』。それが一体何なのかを考えるのが『考察』。
一般的にはここまでで終わることが多いのですが、重要なのはその先の『洞察』です。観察したものが他の何と類似しているのか、抽象化した視座で捉え直すことで、ようやく本質的な価値に気付けるんです」
「デザイン教育において、洞察の能力を上げることが重要だという思いから、このようなフレームでプログラムを組み立てています。
切り口を変えることで、一見関係ないと思っていた情報が見えてくる。それを実際の街の風景を題材に実践していくという“体作り”は、デザインにとどまらず、例えばビジネスといった他の分野でも、非常に大きな力になるのではないかと考えています」
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて八馬智さん提供
『散歩の達人』2025年12月号より









