ドラマの舞台にも。街と保育園をつなぐ住宅地のお店
『まちのパーラー』がオープンしたのは2011年5月のこと。同じ建物にある『まちのほいくえん』の理事長が、街と保育園をつなぐ場所がほしいと、徒歩で10分ほど離れた場所にある『パーラー江古田』のオーナーに声をかけた。『パーラー江古田』は2006年にオープンしたハード系のパンがおいしい人気店。現在『まちのパーラー』に並ぶパンは、全て『パーラー江古田』でその日に焼いたものを運んできている。
『まちのパーラー』で店長を務めている鈴木茜(すずきあかね)さんは近くにある大学の卒業生でもある。在学中に『パーラー江古田』に初めて行ったときは夕方で、パンは全くなかったそう。だが、「残っていたタルトを買ったら、すっごくおいしくてびっくりしました」と話す。その後、学生時代を過ごした街が好きだからと『まちのパーラー』で働き始めたが、今では「パンの材料に妥協がなく、自信を持って売ることができます」というほど、ますます厚くなったパンへの信頼をのぞかせる。
鈴木さんが働き始めた2013年9月は『まちのパーラー』がドラマ『孤独のグルメ』の舞台になった直後のことだ。当時朝7時30分に開店していたお店は大忙しで、午前中にパンが売り切れることも多かった。その後、『パーラー江古田』の移転による製造キャパシティの拡大や、『まちのパーラー』の営業開始時間を1時間遅らせて8時30分に変更したことなどから、午前中にテイクアウト用のパンが売り切れてしまうことはほとんどなくなった。
子供たちにもわかるおいしさ! 噛みごたえのあるハード系
住宅地のパン屋さんらしく、いちばん人気は食パンだ。常連客の中には、食パンを毎週のように買いにきて、スタッフたちと会話していく人もいる。
店長の鈴木さんが好きなのは、くるみのコンプレ。「全粒粉50パーセントで、くるみもたっぷり入っていて人気があります」。全粒粉とくるみ、両方の香ばしさが味わえる。
フランスパンは2種類あって、短い方が小麦酵母のフランスパン。皮がしっかり厚めに焼き込まれていて香ばしく、噛んでいるうちに酸味を感じる。長い方はレーズン酵母のフランスパン。こちらもしっかり焼き込んでいるので、皮の部分がガリガリ。しかし食べていると甘さを感じる。「薄く切ると、子供たちもよく食べますよ」と鈴木さん。
全粒粉のプチパンも人気商品。しっとりと柔らかく、全粒粉の香ばしい香りや味わいも楽しめる。
ランチタイムのイートインには、ローストポークのサンドイッチが人気だ。ローストポークは、京都の精肉店から仕入れた大きな豚のもも肉をシェフが店内で調理。ひと晩塩漬けをして翌朝低温のオーブンで2~3時間かけて焼き上げ、薄切りにしている。
サンドイッチに使うパンは、10種類ほどから選べる。ごまのパンは、表面にたっぷりごまをまぶして焼いただけではなく、細かくすった黒ごまが生地にたっぷり練り込まれているのだ。黒くて密度がしっかりした歯切れのいいパンに、程よい塩気と旨味あふれるローストポークが折り重ねられている。
親子の成長を見守るいつもの場所
『まちのパーラー』の店内には、『まちのほいくえん』の子供たちが描いた絵があちこちに貼られ、レジ横にはせいくらべした子供たちの名前がびっしり書き込まれている。
学生アルバイト以外の主なスタッフは、シェフも含めて長く働いている人が多い。スタッフ同士が相談しながら働く姿が店内からよく見える。常連客や、スタッフそれぞれのママ友も買い物に来るなど、短いながら楽しそうな会話が聞こえてくる。
「保育園帰りに買い物する人も多く、子供たちのことは0歳から知っていて名前を覚えているスタッフもいます。子供たちは成長していくけれど、こちらは変わらず、安心できる場所として存在していることが大切なんだと思います」と鈴木さん。
保育園と街の間にある『まちのパーラー』。パンを買うだけでも食事をしても、おいしいパンと居心地のよさが味わえる店だ。
取材・文・撮影=野崎さおり






