文=杉山 尚次
すぎやま・なおじ/1958年、東京生まれ。翌年から東久留米市在住、西武池袋線のひばりヶ丘駅を利用している。編集者。1981年、弘前大学人文学部卒。出版社勤務を経て2007年に独立、2011年から言視舎代表。著書に『西武池袋線でよかったね 郊外から東京を読み直す』(交通新聞社新書)など。
できたばかりの『池袋PARCO』にあったモデルガンの専門店
「悪ガキ」どもというのは、西武池袋線沿線の東久留米市に住む小学生高学年だった筆者とその友人のことで、もちろん昨今の凶暴極まりない強盗団ではなく、せいぜい親など大人の言うことをあまり聞かないガキくらいの意味だ。
当時、1969〜70年だったと思うが、大人たちから顰蹙(ひんしゅく)をかっていたわれわれの趣味があった。それがモデルガンだった。モデルガンは高価で、小学生が簡単に入手できるような品物ではないのだが、モデルガンに向かうガキどもの熱量は大きく、お年玉などを最優先でかき集め、筆者も愛称「ピースメーカー」という実にアメリカ的なガンを所有していたことを思い出した。
筆者たちのこのブームは、当時少年マンガ誌に何本も連載されていた戦争マンガ熱に端を発し、飛行機プラモデルに飛び火したものが延焼したものだった。ガキどもは学習する。戦争雑誌、ガン雑誌や各種カタログを何度も読み、頭の中にミリタリー世界を展開させていた。そして、できたばかりの『池袋PARCO』にモデルガンの専門店が入っているという情報を仕入れた(モデルガンの本山は上野のアメ横だった)。
自分には手の出ない現物を見に
池袋の『西武百貨店』の隣にあった「丸物」(現在は近鉄百貨店)というデパートが撤退して専門店の集合体「PARCO」になったのが1969年。最初からモデルガン専門店(狭い店だった)がここに入っていたのかは分からないが、その店長と思しき人物が69年秋にヒットした『黒猫のタンゴ』を変な節回しで歌いながらガキどもの相手をしたことを覚えているから、早い段階からこの店はあったものと思われる。ガキどもはガンの手入れ道具などを買いつつ、自分には手の出ない現物を見に何度もその店に通った。
西武池袋線のような郊外を走る私鉄沿線に住む子供にとって、ターミナル駅にあるデパートは両親と「おでかけするところ」だった。そういうおでかけカルチャーがいつまで続いていたのか、よく分からない。PARCOの出現はその転換点にあたっていたのではないか。それと自分たちの親からの独立がちょうど重なっていたような気がする。
池袋は長い間“デパート”のまちだった。駅の出入り口を西武やPARCO、反対側は東武で固め、いまはヤマダ電機になっている場所には三越もあった。PARCOの登場に刺激されたのか、71年には「ぶらんで~と東武」というキャッチフレーズで増改築した東武が攻勢に出た。80年代は「セゾン文化」が花盛りとなったが、それは泡と消えた。西武はいまもなにやら工事中。“デパート”はどこに行くのだろう?
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【開催概要】
登壇者:
杉山 尚次(『西武池袋線でよかったね 郊外から東京を読み直す』著者)
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会場:ジュンク堂書店 池袋本店9Fイベントスペース
入場料:2000円(『散歩の達人』11月号の雑誌代を含む。会場にてお支払い)
定員:65名
『散歩の達人』2025年11月号より





