ビブグルマンを獲得した、店内5席の小さな店

まず、地下への入り口を見逃してはいけない。そのミッションをクリアし、地下に下りると、スナックが並ぶ薄暗い廊下に出る。「ここにミシュランに認められた店があるのか……?」などと思って歩いていると、しゃれた扉の『西荻燈』にたどり着く。席数は5席のとても小さな店だ。

薄暗いスナック街だが…。
薄暗いスナック街だが…。

白河ラーメンから、西荻らーめんへ。

最初はとりあえず、白河ラーメンの有名店「とら食堂」の店主の本に、作り方が全部書いてあったからそのとおりに作ってみた、という。この店の前身である『をかしやそば』時代の話だ。同じ西荻で店を移転し、2019年に『西荻燈』として再スタートした。

当初はレシピ通りだったが、材料も水も現地とは違う。西荻で手に入るもので作り方と味は変化を続けてきたため、もう白河ラーメンとは言えない、と話す。「白河ラーメンだと思ってたら違った、って言われちゃうと困るんで……」このことは、店頭にも張り出してある。

できあがったスープが気に入らなければその日は休業してしまうほど、味にこだわりを持つ店主。ジャンルに縛られることなく、“自分の”ラーメンを、この西荻窪で追求し続けているということだろう。

ラーメン店らしからぬ、とてもしゃれた店内。シンプルで落ち着いた雰囲気。
ラーメン店らしからぬ、とてもしゃれた店内。シンプルで落ち着いた雰囲気。
カウンターの奥に、ひっそり『とら食堂 全仕事』の本があった。
カウンターの奥に、ひっそり『とら食堂 全仕事』の本があった。

火の状態を気にしながら、体重をかけて麺を打つ

この日提供する分の手打ち麺とスープの仕込み。これが毎朝の日課だ。

客席のカウンターに板を乗せて黒檀の棒で麺を打つ。狭さも手伝ってかなりの重労働だが、「モチモチ感」を出すためにあえてこの方法を取っている。水分量が多く、くっついてしまうため機械では作れない。手打ちだけの食感だ。

スープは鶏ガラと豚骨を大量に使い、5時間かけて仕込む。材料の脂量や温度によって微妙に変化する繊細な作業をしながら、冷燻のチャーシューなども仕込む。本当に、長く地道な作業の連続だ。

客席のカウンターで、黒檀の棒を使い分けながら毎日麺を打つ。
客席のカウンターで、黒檀の棒を使い分けながら毎日麺を打つ。

ようやく出合える、丁寧な味

ラーメンが運ばれる。透き通ったスープがとてもきれいだ。一口味わってみると、ふわっと酸味のある鶏ガラの香りを感じる。見た目と同様、雑味がなく、透き通ったきれいな味だ。

そして楽しみにしていた手打ち麺は、平打ちで舌触りが独特。弾力も十分の縮れた麺にスープがよく絡んで、食べること自体が本当に楽しい。小麦粉の香りも心地良い。燻製した味わい深いチャーシューや、メンマ、ほうれん草、ネギと、シンプルな具材が麺を引き立てていた。

麺の量は160gと結構多かったのに、もっと食べたい!と思った。次に来るときは、東北サイズ(200g)1100円にするべきかも。

手打ちらーめん(並盛)900円とトッピングのたまご100円。
手打ちらーめん(並盛)900円とトッピングのたまご100円。
平打ち縮れ麺で、スープがよく絡む。
平打ち縮れ麺で、スープがよく絡む。

根っこにあるのは、西荻愛と飲み屋愛

店名にも入れるほどの「西荻」好き。この古い雑居ビル地下のスナック街が持つ「西荻っぽさ」がとても気に入っているという。

「西荻って、飲食店同士も本当に仲が良い。店を開いたのも、飲み屋のバイトをしたことがきっかけですよ」。ビブグルマン獲得以降は客足が増え、深夜の営業をやめてしまったが、本当は飲み屋の店長さんたちが気軽に来る店にしたい、と残念そうに話す。店長さんたちが店を閉めた後、ここでちょっとなにかつまみながら一杯飲んで、〆にラーメンを食べていってもらう。そんな関わりがとても楽しかったそうだ。

深夜の営業はなかなか戻せそうにないが、テイクアウトや通販などの構想が具体的に動き出している。大好きな西荻に根を張り、違った形でも我々の舌を楽しませてくれるだろう。変化し続ける、小さな名店である。

ちょっとレトロ感のある看板もしゃれている。
ちょっとレトロ感のある看板もしゃれている。
ビブグルマン獲得の証のピンバッジ。
ビブグルマン獲得の証のピンバッジ。
住所:東京都杉並区西荻南3-15-9 GSハイム西荻窪 地下1階/営業時間:11:30〜17:00/定休日:月・火/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩2分

取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ