“流行の発信地”から発信中
「雑誌を読む姿は美しい」というコンセプトのもと、『ハラカド』オープンの2024年4月に生まれた『COVER』。過去号を含む約3000冊もの市販雑誌が並べられるオープンスペースで、『文喫』などで知られる株式会社ひらくが手掛ける。利用は無料で、誰でも気軽に立ち寄ることができる魅惑のスポットだ。
「流行最先端をゆく原宿で、あえて紙の雑誌を置き、改めて雑誌文化の面白さを知っていただく場所になればとつくりました」とは、ブックディレクターの中村悠平さん。過去の文化と現代の文化が交差する場にしたいと願う。
ここに置かれる雑誌は、加盟出版社からの提供と個人からの寄贈の2種類に分けられる。コンセプトに賛同した出版社が展開するものとは別に、個人単位でも収集されるというから驚きだ。
「例えば建築事務所の方々が参考にするためにアーカイブしていた建築雑誌をいただいたり、『an・an』の過去の編集長が、自身が講義をしていた大学を退任されるタイミングで送ってくださったり。ここを知ってくださった方が自ら持ち込んでくることもあります」と中村さん。いわば読者の共同出資の側面もある。古い雑誌には、愛されてきたルーツがあるのだ。
雑誌をパラパラとめくりふれあう機会は時代とともに減りつつあるが、『COVER』では雑誌の楽しみ方を提案することで、雑誌本来の価値を見出している。
「雑誌には変わる部分と変わらない部分があります。ファッションなどのカルチャーは年々変わっていきますが、コンセプトやコラムなどは変わらずずっとある。その雑誌のアイデンティティだと思うんです。ひとつの雑誌を深掘りしてみたり、気になる雑誌を読み比べたり、書店とはまた違った楽しみ方ができるのもこの場所ならではです」
いくつかの雑誌は創刊号が置かれているため、『散歩の達人』読者なら特に、ノスタルジックな気持ちになる方も多いだろう。
紙の雑誌ならではのこんなエピソードも。「ハラカド内の美容室に、カットの参考になるためにと1990年代のファッション誌を貸し出したところ、実際にそれを見て髪型を決めた方がいるんです」。
過去号から一つ、カルチャーが現代へと紡がれている。それは雑誌が手のひらに残るかたちであるからこそ。「出版不況」と言われて久しい昨今、紙の雑誌についてはネガティブな話題も少なくないが、紙だからこそできることはまだまだある。そんなことまでも再認識させてくれる場所が、“流行の発信地”にあるなんて。
雑誌よ、COVERよ、永遠に!
取材・文・撮影=中島理菜(『散歩の達人』編集部)
『散歩の達人』2025年10月号より






