地元目線から生まれた交通手段

開放感あふれる車内。風が吹き込んできて、とても気持ちいい。
開放感あふれる車内。風が吹き込んできて、とても気持ちいい。

国立に一台のトゥクトゥクが走り始めたのは2022年12月。その正体は、見かけたらラッキー! な、地元密着型の送迎車である。

運転するのは国立で企画会社を営む渡辺大祐さん。開始当時、諸般の事情から地元国立でバスの本数が減りはじめ、市内移動に不便を感じる住民が増えてきた。そこでバスやタクシーとは異なるおもしろさがあり、見慣れた街を新鮮な目線で再発見できる交通手段を考えて、トゥクトゥクにたどりついた。「なので特にタイに思い入れないんです」と渡辺さんは笑う。

通称は「くにトゥク」。タイから取り寄せた新車をオートマに改造した。日本ではバイク扱いなのでシートベルトは不要、しかし乗客ファーストで追加して、つり革もぶら下げている(これが意外と重宝する)。

乗車には会員登録が必要(無料)で、1回1組3名まで利用可。国立市内のお望みの場所から場所へ連れて行ってくれる。どこへ行くにも所要時間はほぼ20分以内。国立は一方通行の道も多く一筋縄ではいかないが、地元っ子の渡辺さんはお手の物で、最適コースで進んでくれる。

国立駅前から試乗させていただいたが住民は見慣れているようで、周囲から奇異な目線はほぼ感じなかった。すっかり街になじんでいる。

国立を見る目の‌解像度が上がる

「くにトゥク」は単なる移動手段ではない。

渡辺さんが3年間の経験で会得した、ほど良い速度(自転車と同じ時速15〜20kmほど)でゆるゆる走っていく。歩いているときとほぼ同じ目線で、余裕を持って辺りを見回せるので発見も多い。

テーマパークの乗り物みたいなオープンな席に腰掛け、周囲から柔らかく吹き込む風に当たって適度に揺られているのは心地よく、ついうたた寝したくもなってくる。実際寝入ってしまう子供もいて、お母さんがお昼寝対策で利用するケースもあるとか。寒い時季には足元にこたつを装備して「ぬくトゥク」と化す配慮も。

乗車は無料! 乗客のニーズに応じたおすすめ店を紹介したり、地域のお店の情報を会員にPR配信する「街と人をつなぐ」集客に特化したマーケティング事業につなげているからだ。1日1回のみ乗車可能なので、利用すると帰りは別の手段で戻らなければならない。これまた街と人をつなぐ一環だ。

利用者の7割は市内の住民で、常連さんも多いという。「くにトゥク」に乗っていると、渡辺さんはしばしば声をかけられ、なじみ客とあいさつを交わす。友人、主婦、年配者に子供とさまざまだ。地道に宣伝して今年7月に会員登録数1000人を超えた渡辺さんに、トゥクトゥクで行ける注目のスポットを3カ所挙げてもらった。どこに行っても楽しいよ。

くにトゥクinformation

「見かけたら声をかけてね」。渡辺さんとの軽快なトークも楽しみ。
「見かけたら声をかけてね」。渡辺さんとの軽快なトークも楽しみ。

1日1回(片道のみ)、20分以内、国立市内で利用可能。無料。公式LINE@130kchnm で友だち追加をして、Googleフォームから本登録。その後、郵送される会員カードを受け取り、LINEで予約すると乗車できる。

くにトゥクで行きたい!地元民・渡辺さんのおすすめ

いいツマミとビールも揃ってます『ノイ・フランク』

1980年創業の自家製ハムソーセージの店。国産肉、保存料ゼロ、添加物も極力抑えたひと味違う新鮮なうまさ。基本のウィンナー470円、焼きソーセージ210円、つまみ用ならビアサラミ500円をお試しあれ。海外ビールも豊富で「バーベキューでもお世話になってます」と渡辺さん。

10:00~18:00、火・第3水休。
☎042-576-4186

都心なら行列必至?『KAMEYA』

近くで営む養蜂場から採集した非加熱ハチミツを使いスイーツを仕立てる希有(けう)なカフェ。看板商品はワッフル+ソフトクリーム+ハチミツがけ780円。自家焙煎豆のアイスコーヒー390円。玄人はだしのオリジナルTシャツも一見の価値あり。地元民の息抜きの場として愛されている。

12:00~16:00(土は~18:00)、日・月休。
☎070-8431-1985

あのアニメの舞台「三本松公園(北一丁目第一遊園)」

国立駅近くの住宅地、国立と国分寺の高台をつなぐ階段沿いにある細長い公園。わずかなスペースながら、国立を見下ろせる数少ない高低差スポットだ。名称どおり、敷地にそびえる三本の松が見事。映画『おおかみこどもの雨と雪』の前半の重要な告白シーンで登場した。「くにトゥクの待ち合わせ場所としても利用しています」と渡辺さん。

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取材・文=奥谷道草 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2025年9月号より