こんなにも鳥がたくさん!
あんな鳥ともこんな鳥とも出合えます
鳥に関する名前の屋号を国立市内で探してみると、17ほど発見(2025年7月19日現在)。
老舗銭湯の『鳩の湯』は創業者が名付けたそう。「昔の銭湯は縁起のいい屋号をつけがちで、同じ名前が多かった。そこで祖父は他店とかぶらない名前にしたと聞いています。実際、東京には同じ名の銭湯はありません」と3代目。
『カラスの家』は、電気店時代に音大生のお客さんからもらったマリア・カラスの写真が命名のきっかけ。
『ぺんぎんサロン』は、悩んだ末に、覚えやすさ、動物の名前、かわいらしさから思いついたとか。
ほかにも、「鳥が好きで身近な存在。自分の名前が似ていて、楽しく歌いながら絵を描くカナリヤのイメージから」(テキスタイルブランド『kanariya』)、「小鳥のように日々のふとした癒やしや喜びを届けられる存在でありたい」(『ART SPACE Kotori 』)、「購入した陶製の黄色い鳥から。いつか出店するならこんな作品を紹介したいと思った気持ちを大切にしたくて」(『黄色い鳥器店』)と、当然ながら由来はそれぞれ。
だが、国立駅では春~夏にツバメが飛び回り、歩けば多種類の鳥の声を耳にする。一橋大学のキャンパスでは市の鳥のシジュウカラが通年でよく見られるそう。リアルな鳥も身近なのだ。
「国立市は小さいですがさまざまな野鳥と出合えます。バードウォッチャーもよく見かけますし、鳥に関心のある方が少なくないのでは」と、国立市生活環境部環境政策課花と緑と水の係の担当者。
同係では2年前から「くにたち野鳥しらべ」という市民参加型の鳥の生息調査を行っている。遡(さかのぼ)れば、大正末期~昭和初期には国立駅南口に「水禽(すいきん)舎」なる鳥の飼育展示小屋があり人気を博したとか。市民の鳥愛は脈々と育まれてきたのかも。
「住民のみなさんは鳥や自然に目を向ける心のゆとりがあり、それらに良い印象を持っている方が多いのかもしれませんね」とは、国立に事務所を構える鳥類の調査団体「NPO法人バードリサーチ」の担当者。
なるほど、同感! 国立と鳥のいい関係はこれからもきっと続くはず。
地域に開かれたみんなの居場所『ぺんぎんサロン』
不動産業を営む鈴木恵子さんが、1人で過ごしがちの高齢者の“行き場”や“居場所”を目指して8年前から開く地域サロン。外光の注ぐ明るい空間には、「店名にしてからもっと好きになった」というペンギンの絵画や版画が1 年に1つずつ増えているという。休憩に、交流に、暮らしの相談に、誰でも利用OK。月4回の囲碁交流会をはじめイベントも開催。通常時はコーヒー200円も注文できる。
『ぺんぎんサロン』詳細
グッズも人気、市内唯一の公衆浴場『鳩の湯』
創業は1958年。かつて最大5軒あったという市内の銭湯の最後の砦(とりで)。モダンな浴室では岐阜県多治見市製の美しい富士山のモザイクタイル壁画が目を引く。湯には軟水化した地下水を使い、浴槽では高濃度炭酸泉やシルキーバスを楽しめる。鳩をデザインしたオリジナルグッズも人気で、「世の中には鳥マニアさんがいて、遠方からも買いに来てくれるんです」と3代目の髙張光成さん。
『鳩の湯』店舗詳細
カラオケスナックを超えた小宇宙『カラスの家』
電気店から始まり、真空管アンプの製造・修理店『シーマ音響』が1982年に店内に開いたカラオケスナック。カラオケ機器は最新だが、壁に収まるカラオケカセットをはじめ、歴代のカラオケ機器が残る。外観や焼酎ラベルには知人のイラストレーターによるカラスの絵。お客さんが持ち込むうちに増えたというカラスグッズもあちこちに。集積したさまざまな物が不思議と調和した小宇宙だ。
『カラスの家』店舗詳細
/営業時間:17:00~翌1:00/定休日:日/アクセス:JR中央線国立駅から徒歩16分
取材・文=下里康子 撮影=原幹和
『散歩の達人』2025年9月号より





