両親やご主人が築き上げた銭湯を、女主人が守る
開業は昭和16年(1941)。先代がこの地にあった木造の銭湯を買い取り、営業を始めた。昭和54年(1979)に建て替えてビル型銭湯になり、その後、幾度かのリフォームを経て現在に至る。
ここまではよくある話だが、1992年にご主人を亡くされてから、稲場敬子さんは女手ひとつで切り盛りしてきた。数ある銭湯の中でも、女主人のところは少ないのではないだろうか。
「親や主人の苦労を知っているからやめるわけにはいきません。娘たちは別の道に進んだり、結婚したりで、結局、私がやるしかなかったんです」。そう話してくれた稲場さんは89歳。「昨年もタイルの貼り替えで大きな借金をしちゃったから、まだまだやめられないわね」と笑って話す。
清潔に保たれているから、アナログ什器さえピカピカ
脱衣所にはカーペットが敷かれ、白い天井や壁も清潔感がある。アナログ体重計、旧型マッサージ機、女湯にはお釜形のドライヤーもあり、籐の脱衣籠も現役で使っている。什器や設備類は旧式のものが多いが、ていねいに使われているため、古くさく感じない。
長く務めるスタッフがいるので、湯を沸かす機械操作や清掃などを任せているのだという。「私ひとりではとてもできません。スタッフがいつもきれいにしてくれるので、本当に心強いんです」と話す。
浴室は、中央の島カラン1列と両サイドのカランを含め全23の洗い場。2つの浴槽はバイブラと座風呂になっているジェットバスで、湯温は42度前後なので、柔らかく肌触りがよい。日曜には漢方湯を実施し、これを楽しみにしている客も多いという。
壁面にはモザイクタイルの絵があり、男湯は波が砕ける海辺の風景、女湯はヨットが浮かぶ山上の湖。小ぢんまりしているが、日々利用する銭湯としては申し分ない。
取材・文・撮影=塙広明