たとえ当時を知らなくとも、人の憧憬を誘い、惹きつける

ゲームの世界で言うところの「筐体」とは、大きく言ってゲームセンターなどに置かれる、ゲームマシンのことである。古くは1970〜80年代、喫茶店や大衆食堂に入ると、『スペースインベーダー』を代表とするゲーム機を兼ねたテーブルがあり「あそこに座りたい!」などと思ったことがないだろうか。40~50代は、ゲームセンターだけでなく、日常の風景にもあった、こうした「テーブル筐体」が、懐かしい風景として記憶に残っているだろう。

テーブル筐体は、周囲360度からプレイ風景をのぞき見ることができ、お金がない子供にとって、ゲームのうまいお兄さんのプレイを見るのは、胸が踊る特別な時間だったのだ。

80年代後半になると、ゲームセンターからテーブル筐体は消えていき、モニターを縦に配置した「アップライト筐体」に主役の座を譲る。

アップライト筐体は「格闘ゲームブーム」と共にあり、当時これで、格ゲーをプレイした方も多いだろう。

80年代後半、テーブル型から「アップライト」型に切り替わっていった。格闘ゲーム全盛時代を象徴する筐体でもある。
80年代後半、テーブル型から「アップライト」型に切り替わっていった。格闘ゲーム全盛時代を象徴する筐体でもある。

そのほか、ゲームセンターを彩ったのは、アイデアとデザイン性にあふれた、さまざまな「筐体」だった。中に乗り込んで、ハンドルで操作する「レースゲーム」は昔からゲーセンの花だったし、80年代はセガの『スペースハリアー』『アウトラン』に代表される「体感筐体」が登場。操作にあわせて動く筐体は、未来の象徴そのものに見えて、大人気となった。

「体感筐体」が時代を変えた。80年代、操作に合わせて筐体が動くゲームが登場し、内容の先進性もあいまって、その筐体から未来が見えた。
「体感筐体」が時代を変えた。80年代、操作に合わせて筐体が動くゲームが登場し、内容の先進性もあいまって、その筐体から未来が見えた。
もぐらたたき系はゲーセンの隠れた名脇役。『ワニワニパニック』は誰でも一度はやったことがあるのでは。息抜きのハズがコインを連投してしまうことも。
もぐらたたき系はゲーセンの隠れた名脇役。『ワニワニパニック』は誰でも一度はやったことがあるのでは。息抜きのハズがコインを連投してしまうことも。

90年代になると、「音ゲー」ブームが到来。音ゲーの筐体は、どれも彩り華やかで、実際に踊れる『Dance Dance Revolution』シリーズや、マラカス型コントローラーを振る『サンバDEアミーゴ』などのアイデアあふれる筐体がゲームセンターをにぎわせた。

「音ゲー」は全身で操作する筐体が多かった。この『Dance Dance Revolution』シリーズはその代表格だ。
「音ゲー」は全身で操作する筐体が多かった。この『Dance Dance Revolution』シリーズはその代表格だ。

アクション性があるものだけでなく、デートの時、占いゲームやクイズゲームで楽しい時間をすごした思い出をもっている方も多いだろう。

不思議なことに、今回の取材先である『RETRO:G』には、70~90年代日本文化を直接は知り得ないだろう外国人観光客が、レトロゲームを目当てに訪れている。

あの頃の「筐体」が並んでいた風景は、たとえ当時を知らなくとも、人の憧憬(しょうけい)を誘い、惹(ひ)きつけるのだ。

「コントローラー」の進化の歴史

ゲームを操作する「コントローラー」はさまざまなものがある。ゲームセンター、いや電子ゲーム黎明期の作品『ブロック崩し』はダイヤル操作だった(これは続編の『アルカノイド』に受け継がれる)。

その後の『スペースインベーダー』では、2つのボタンで左右に移動する形式で、これが操作しにくいということで、レバー操作を採用した2方向レバー1ボタン形式になったのだ。その後、レバーの進化が始まり、4方向レバーを経て、8方向レバーが主流に。これが定番となり家庭用ゲーム機も同様の進化を遂げる。

一方でゲームセンターならではのものとして、レースゲームのハンドル操作を代表とする、実物方面に寄せたものが登場した。家庭用ゲーム機では、手の中に収まるコントローラーでプレイすることになりがちだが、さまざまな操作形態でプレイできるのもゲームセンターならではの楽しみだ。

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レトロ筐体に出合えるのはここ!『RETRO:G』

取材・文=来栖美憂 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年7月号より

子供の頃、あるいは学生時代、自然とゲーム仲間がいた。『ドラゴンクエスト』の新作が買えたかどうかを報告しあい、その後会うたびに「レベルいくつになった?」などと挨拶代わりに聞いたものだ。メジャーなゲームだけでなく、世間ではあまり売れなかったゲームでも、仲間うちでやりこまれることもあった。早売り雑誌で新作情報を得た者がスターになったり、田舎では入手困難なレアグッズを自慢されて、羨(うらや)ましさもありながら目を輝かせたりした日が懐かしい。
コンピュータゲーム黎明期のゲーム音は、効果音の集合、リズムの集合が音楽のような形になっていたものが多かった。『スペースインベーダー』におけるインベーダーの移動音やUFOの飛行音、自機ビーム砲の発射音が重なり合った音は、一種のゲームミュージックとも言える。それが、メロディーを伴ったいわゆる「ミュージック」になったのは、1980年初頭。ナムコから発売された迷路レースゲーム『ラリーX』、猫の盗賊団とネズミの警官が追いかけっこをする『マッピー』といった作品が代表的だ。タイトルを聞けば、即座に音楽が脳内で再生される方も少なくないだろう。セガのペンギンが氷を動かすゲーム『ペンゴ』のBGMも当時、ゲーセンをにぎやかにしていた。
「ベルトスクロールアクション」(以下:ベルスク)という名称は聞き慣れないかもしれないが、40~50代のゲーム好きであれば、きっとプレイしたことがあるのでは。右に向かってスクロールする画面を歩いて、ボスなどが待つ目的地を目指していくものだ。