固定概念から解き放たれる楽しみ『Donato(ドナート)』
並んでいるレコードを一枚ずつ見ていくと、ジャズという括(くく)りが実はすごくおおらかだと気づく。王道も押さえつつ、その大半は他店ではあまりメインの棚には並ばないような、例えば大御所の隠れた名作や、異なるジャンルとコラボレーションした意欲作など「ジャズ」の概念を広げてくれる作品が揃っている。それでいて、ふらっと訪れて予備知識なく手に取った一枚も、小さな値札いっぱいに書き込まれた、店主・加藤寛之さんによる説明文を読むと興味が湧く。ジャズってこうじゃなくちゃいけない、という思い込みを捨て、純粋にわくわくできる場所だ。
以前は御茶ノ水でジャズ喫茶を営んでいた加藤さん(おすすめの3選は、当時よく店でかけていたもの)。移転先に神保町を選んだのは、2015年までこの街にあった古本屋「ブック・ダイバー」の影響が大きい。「母が店主の仙波さんと古い友達で、僕も小学生の頃から頻繁に通っていました。仙波さんはうちの店にも遊びに来てくれて、今もいろんなことを教えてくれます」。
ジャンルも規模も異なるさまざまな書店がひしめくこの街の多様性を思えば、この店の存在もしっくりくる。加藤さんいわく、神保町は「風通しがいい」そうだ。
加藤さんおすすめ


『Donato』店舗詳細
ふくよかな音色に身も心もゆだねる『JAZZ BIGBOY』
細い路地に面したビルの1階にあり、日中は大きな窓から柔らかく自然光が入る。「雨の日は傘を差して歩く人が見えて、その景色もまた味わい深いんですよ」とマスターの林さん。店内の空気を穏やかに揺らすのは、全身を包み込むような心地よいジャズの音。壁に埋め込まれた大きなスピーカーは「ピアノの色っぽい音が映えるJBLの4343B」だ。
元々はデザイナーとして働いていた林さん。かつて神保町にあったジャズ喫茶「響」に通いながら「いずれは自分もジャズ喫茶のオヤジになりたい」という夢を抱いたという。「自分で店をやるなら名盤ばかりじゃなくて、昔のジャズ喫茶みたいにその時代の新しいジャズをかけたいと思いました。昔ながらのジャズ喫茶っていうのは、本来そうでした。当時はみんな新譜を買えなかったから、店で聴かせてもらっていたんです」。
棚にぎっしり収められたレコードに加え「CDも毎月30枚は買っています」。店内に流れるジャズが気になれば、林さんに気軽に質問していい。常連客の真似をして「最近いい新譜ありますか?」と聞けば、おすすめを教えてくれる。そんな会話から、さらにジャズへの関心が深まる。
林さんおすすめ



『JAZZ BIGBOY』店舗詳細
取材・文=信藤舞子 撮影=加藤熊三