フードプランナーが考案したカレー専門店

スタイリッシュなビルの2階でランチタイムのみ営業。
スタイリッシュなビルの2階でランチタイムのみ営業。

お店があるのは、山手通りや目黒川と並行する路地にあるビルの中。『グラフィカリー』として営業しているのはランチタイムのみで、夜は料理教室が運営するレストランとしてフランス料理を提供している。

『グラフィカリー』のカレーを作っているフードプランナーの近藤潤さんも、その料理教室『シェフクリエイト』の講師で、担当しているのはエスニック料理だ。

店内はカウンター席がメインと、ひとりでも入りやすい。
店内はカウンター席がメインと、ひとりでも入りやすい。

『グラフィカリー』のコンセプトは、“2つの食文化を混ぜる”。「カレーは、世界のいろいろなところで作られている。地域性をぐちゃぐちゃにしたら完成する味もあるかもしれない」と、世界各地のカレーや、類似の食べ物の材料・技法を組み合わせて『グラフィカリー』のカレーを開発したのだ。

さまざまな国の要素をミックス

特製カレープレート1400円〜。カレーは5種類から選び、味付け卵ハーフ、本日のスパイス惣菜4種類と自家製スパイス茶が付く。
特製カレープレート1400円〜。カレーは5種類から選び、味付け卵ハーフ、本日のスパイス惣菜4種類と自家製スパイス茶が付く。

『グラフィカリー』という名前には、カレーは食べたあとにお皿に色が残る模様がきれいだと感じたことと、絵具をパレットで混ぜるように文化の融合をカレーで表現したいという意味が込められている。そして常時5つあるカレーのメニューも全てに色の名前が付いている。その5種類とは紅(AKA)、黒(KURO)、黄(KI)、橙(DAIDAI)、碧(MIDORI)。

紅(AKA)は燻製唐辛子のスパイシーチキンカレー。左の小さな器は、トマトのアチャール。「激辛紅用」「激辛黒用」と書かれたスパイス瓶があり、そのひとさじでもっと辛くできる。
紅(AKA)は燻製唐辛子のスパイシーチキンカレー。左の小さな器は、トマトのアチャール。「激辛紅用」「激辛黒用」と書かれたスパイス瓶があり、そのひとさじでもっと辛くできる。

5種類のうち最初に開発されたのは、いちばん辛く、チキンが入った紅(AKA)。「カレーのないエリアの唐辛子でカレーを作ってみようと試したら、うまくなったんですよ」と近藤さん。

近藤さんの言うカレーのないエリアとは、メキシコのことだ。確かにメキシコ料理では、味の決め手は唐辛子といわれるほど多用されるが、その料理はカレーとはちょっと違う。メキシコにたくさんある唐辛子の中から、近藤さんが選んだのはチレ・モリータというハラペーニョを燻製にしたもの。紅(AKA)には他にも4種類の唐辛子を加えて作っている。

鶏肉はしっかり煮込まれていてやわらか。
鶏肉はしっかり煮込まれていてやわらか。

「唐辛子って辛味ばかり想像しますが、実は旨味があるんですよ。種類によっても味が違います」

紅(AKA)は『グラフィカリー』の中ではいちばん辛いが、辛いもの好きなら楽しめるレベル。ホールを含む8種類のスパイスが使われていて、ときどき口の中で黒胡椒などが破裂するのもスパイスカレーの醍醐味だ。

黒(KURO)は花椒効かせた黒胡麻キーマカレー。花椒のしびれる味わいがクセになる。
黒(KURO)は花椒効かせた黒胡麻キーマカレー。花椒のしびれる味わいがクセになる。

いちばん人気は黒(KURO)の花椒効かせた黒胡麻キーマカレー。この黒は、「担々麺も、実はカレーなのではないか」という発想から生まれたそう。キーマカレーといえばひき肉入りだが、食べ応えもあるようにと塊肉も一緒に煮込んでいる。

橙(DAIDAI)はココナッツ香るマイルド手羽元カレー。ココナッツミルクのまろやかな甘みが印象的。
橙(DAIDAI)はココナッツ香るマイルド手羽元カレー。ココナッツミルクのまろやかな甘みが印象的。

そして、橙(DAIDAI)はココナッツ香るマイルド手羽元カレーでこちらも自信作。ココナッツミルクがたっぷり入っていて、まろやかで深みがある。手羽元もしっかり煮込んでやわらかい。

黄(KI)は、インドのベジタリアンカレーに使われる豆と、日本の精進料理に使う出汁を合わせたもの。碧(MIDORI)は、「タイのグリーンカレーは本当にグリーンなのか?」という疑問から生まれ、タイのハーブをたくさん使い、ほうれん草でより鮮やかなグリーンに仕上げたものだ。

たっぷり添えられたアチャールも多国籍

左から三つ葉のサンボル、キャベツのトーレン、干し大根と黒ゴマのアチャール、味付け卵。
左から三つ葉のサンボル、キャベツのトーレン、干し大根と黒ゴマのアチャール、味付け卵。

付け合わせはその時々で変わるが、主に南アジア諸国で食べられる総菜をヒントにしてアレンジしている。この日は、スリランカの総菜をアレンジした三つ葉のサンボル、キャベツを使った南インドの総菜トーレン、自家製の干し大根と黒ゴマのアチャール、寝かせて乳酸発酵させたトマトのアチャール、そしてスパイスを効かせた味付け卵だ。味わいも食感もそれぞれ。

ご飯は、バスマティライスとジャスミンライスを混ぜて炊いたものに、中東のミックススパイス、デュカをヒントにナッツやゴマ、クミンを混ぜたものをふりかけている。

フードプランナーの近藤潤さん。35歳だった10年前に会社員から料理のプロになったという経歴の持ち主だ。
フードプランナーの近藤潤さん。35歳だった10年前に会社員から料理のプロになったという経歴の持ち主だ。

「すべて混ぜるほうがおいしいですよ」と勧められて混ぜてみる。メキシコ、インド、スリランカ、中東の素材や味わいが、東京・中目黒のひと皿の中で重なりあってひとつの味になる。

店舗でも一度冷凍して寝かせたカレーを湯煎して提供している。
店舗でも一度冷凍して寝かせたカレーを湯煎して提供している。

『グラフィカリー』のカレーは、調理し終わった状態で1食ずつ冷凍して1週間以上寝かせてから提供されていて、卸売もしている。一度冷凍して寝かせることで、料理の味が変化することを狙ってのことだ。紅(AKA)なら、調理したてに強く感じられるトマトの酸味や突出したスパイスの風味が穏やかになったりするそう。これは近藤さんが、作ってから食べるまでに時間が必要なケータリング料理を提供してきたことがヒントになっている。

かくも奥深きカレーの世界。『グラフィカリー』のひと皿で、カレーのおもしろさを改めて楽しんでみては?

住所:東京都目黒区青葉台1-25-10 バウ青葉台2F/営業時間:11:30〜14:30LO/定休日:火・土 ※2025年5月時点

取材・撮影・文=野崎さおり