料理を支える名脇役、サイドスープの魅力とは
ニッチなネタですよね。語るの難しいかも(笑)。
町中華のスープは「名脇役」という呼び方ができると思う。
確かに、名脇役ですよね。
主役ではない、メニューですらないけど、ないと寂しい! ほかにそんな立ち位置のものはない……それもあって一度取り上げてみたかったんですよ。
自分はチャーハンを評価するとき、かなりの割合でスープのことを考えます。
チャーハンのそばにはいてほしいよね。
僕がナンバーワンだと思うのは、『龍朋』のサイドスープですね。独特な味わいとあの大きさがいいですね。
たしかに『龍朋』さんのスープは量もたっぷりで味も印象的ですね。あの独特のまろやかさがチャーハンのおいしさを倍加させていると思います!思い出したら即座に食べたくなるなあ。スープの味も思い出す。
白濁した色味が特徴ですよね。
『龍朋』のチャーハンがおいしいのはあのスープに負う部分がかなりあると思います。
バランスが大事なんだろうね。塩分強めの店ならあっさりしたスープが合う。スープにネギだけみたいなやつ。
どちらが強すぎてもダメ、そしてスープがメインを「立てる」のが大事な気がします。
最初に飲むと薄いかな?ってぐらいが実はいいですよね。最後には飲むといい口直しになるぐらいの濃さが。
わかります! 完食までのストーリーを考えると、味付けに工夫を凝らしている店も多いと思います。
山出さんのおっしゃる通り、最初は少し薄く感じるくらいがいいんですよね。
過去に撮った写真をさかのぼって見てみたら、店によって色の濃さはかなり違いますね。ネギだけのものが多く。青菜が入っているものもありました。
卓にスープがズラズラと並んでしまう、「町中華あるある」もいじらしい
町中華のスープって、昔はラーメンスープを薄めて出してるだけだと思ってた。
ラーメンスープとは違うのですか!?
ラーメンのために取ったスープをそのままというところもあるでしょうが、味を変えたり絶妙な調整がなされている店も多い気がします!キノコが入っている荻窪『光陽楼』とかインパクトありましたね。あとは西新宿の『登喜和』。錦糸卵にカイワレが入っているんです。
『登喜和』さんの錦糸卵、よかったです。大好きです。
ベースは同じだけど「ひと工夫」といったところですかね。
僕は塩系で溶き卵が入っているのはちょっと苦手です。
溶き卵が入っていると出すぎな感じですね。もう少し控えめでいい。
僕もそっけない感じのスープが好きです。メニューの邪魔をしないと決めている感じのね。
そうそう昔、出前していた町中華は大きめの銀のやかんみたいなのにスープが入ってて、持ってきてから器に注ぐので、けっこう熱々でした。
銀のやかんとはスゴいですね。出前ではスタンダードなのでしょうか?
そうですね。今でも時々自転車のハンドルのところに下げて走っている出前の人いますね。
出前でも熱々のスープを楽しめるのはうれしいですね。と、同時にやっぱりお店で放つ独特の存在感もいいですよね。脇役だけど、頑としてそこに「居る」って感じが。
みんなで取材行くと、ごはんメニュー全部にスープが付くからテーブルがスープだらけになって面白かったですね。写真撮るのが大変だった、実は(笑)。
町中華あるあるですね! 麺類も同時に頼んじゃって誰もスープに手が出ないときもあるからなあ、ちょっとかわいそう。
たしかに余っているスープ、なんともさみしげですよね。
残り物になってしまうケースも少なからずありますね。切ない!
みんな意外とスープに対して冷たいときがある。単独メニューではないものの悲哀を感じ、なんとかしてあげたくなるよね。
定食についてくるのは味噌汁か、スープか……それが問題だ!
スープのほかに味噌汁ってこともけっこうありますね。ご飯ものは味噌汁みたいな店。
定食は味噌汁、チャーハンはスープみたいに棲みわけしている店もあるのが面白いですよね。早稲田『五芳斉』には豚汁までありましたね!
あれを頼むと、おふくろ感が味噌汁の比ではないほど急激にアップするのです。
ポイントは隣のお豆腐屋さんで買う厚揚げ!
あの豚汁はあそこでしかいただけませんねえ。
常連の人ならスープじゃなくて、味噌汁にしてとか言えそうだよね。
それいいですね、常連感はんぱない!
スープと思ったら味噌汁。うれしいような悔しいような……いや、味噌汁、いいですよ(笑)。
スープおかわり! ってお願いしたら出してくれますかね? 味噌汁は無理でも、スープなら出してくれそう。
おかわりしている人を見たことあります。店の人も普通に出してました。
おかわりOKだと、分量キッチリに食べきる緊張感がなくなるなあ。
あとスープというと荻窪の『中華徳大』のスープも上品でおいしかった記憶があります。オヤジさんが、娘さんに「チンタン用意しとけよ」と言ってましたね。
チンタン!
「清湯」ですよね、良い字!
確かに無料で出されるゆえに、サイドスープはその店の腕が試される場面ともいえますね。
ほぼ100%の確率でヤツは町中華で会えるのだ!
半チャンラーメンって頼んじゃうのは、やっぱりスープがたくさんほしいときですかね。
それはあるでしょう。半チャンやきそば、はなんか喉が詰まりそう。
ははは、半チャン焼きそばはナシですね。
半チャンラーメンは、確かに改めて考えるとすごいメニューですね(笑)。スープもたっぷり!
半チャーハンじゃなく、半ラーメンがあるとうれしいですね。
そう考えると改めて、スープがつくってうれしいですよね。ガチ中華だと大きなスープをみんなで分けるというイメージですが、町中華は一人一つ出てくるものなあ。
スープは「ごはんに味噌汁」という和食の伝統が生み出した町中華的サービスじゃないかなあ。円滑にご飯ものを食べ進めるための装置。
なるほど、一人にお椀一個で提供されるというのは日本の文化ですねきっと。
確かにね。汁ものがほしいもんね。
一汁一菜的な!
とはいえ実はハズレも多くて、獣臭の強いものがあったりします。好きな人は好きなんでしょうけど、自分は苦手。
本来主張しない脇役のスープもこうやってみていくと、店々の創意工夫が見られるのが面白いですね。定食系、チャーハン系頼むとエンカウント率はかなり高いだけに今後もちゃんと見守っていきたいですね。
たまに「おまえってやつは……」と見つめてしまう。なんとも愛しいヤツね!
会いたくなって来ましたね、スープに。
いつでも会えますよ。ほぼ100%の店にヤツはいます!
構成=半澤則吉 撮影=山出高士
※増山かおり隊員は育休のため、今回よりしばらくお休みします
今回は町中華のサイドスープがテーマです。頼んでないけどついてくるヤツですね。そういえばスープについてちゃんと話すことはこれまで意外となかった。