多様なカルチャーが交錯する吉祥寺で音楽と飲食をつなぐ食堂をオープン

井の頭公園駅から徒歩2分のところにある『BOB KITCHEN』は、ミュージシャンが集まる定食屋だ。

オープンしたのは2022年の4月。ライブイベントのプロデュースなどの仕事をしているオーナーの関川達彦さんが、「音楽と食を絡めた事業を起こしたい」という発想から現在に至る。

井の頭公園と住宅地の境にある。
井の頭公園と住宅地の境にある。

「音楽をやってる人たちって、バンド活動しながらバイトもしてるみたいなことってよく聞くじゃないですか。僕の周りにも『長く料理作って音楽もやってます』って人が多かったので、そういう人たちと“音楽と飲食”という新しいものを作りたかったんです。いろいろなカルチャーが交錯する吉祥寺は、感度が高い人も多いので、やりたいことを実現するにはいいかなと思いました」

とはいえ、毎日ライブを開催するということは難しいので、今はまず「おいしい定食が食べられる店」ということに焦点を置いているそうだ。

店舗は半地下にあるが、目立つ看板があるのですぐにわかる。
店舗は半地下にあるが、目立つ看板があるのですぐにわかる。

「いずれは定期的に店内でライブを開いて、音楽を聴きながらご飯と飲み物を楽しめる空間にできたらいいなと思っています」と関川さんは話す。

オープン当初は個性的なスタッフたちで店を始め、「昼と夜は違う雰囲気にしよう!」などたくさんのアイデアが集まったが、「そもそもお客さんが何を求めているのか」を見落としていることに気づいた関川さん。

そこで、吉祥寺の中でも落ち着きのある立地と、アーバンな店舗、そして料理する人たちの雰囲気を総合的にみたときに、「“この場所”でお客さんが欲しがっているのは定食なんじゃないか!」という結論を出したそう。その読みは的中し、30〜50代を中心にしたお客さんの心をぎゅっとつかんだ。

オーナーの関川さん(右)、店長の福田さん。
オーナーの関川さん(右)、店長の福田さん。

店長の福田大規さんは「ランチタイムの序盤は近所に住むご夫婦とか奥さまたちが多いんですけど、13時を過ぎると大きな唐揚げをおかずにバクバクご飯を食べる学生たちがやってきます。たくさん食べてくれるとうれしいですね」と話す。

店内はゆったり座れるソファ席やテーブル席、カウンター席も完備。
店内はゆったり座れるソファ席やテーブル席、カウンター席も完備。

店内には音楽関連のポスターやアートが飾られていて、音楽と飲食の融合を感じさせる。席と席の間がゆったりとしているので、ベビーカーも楽に通れそうだ。

肉も魚も! 管理栄養士がメニューを考案した体にやさしい定食

メニューを見ると、筆者の好物ばかりが並んでいて、思わず「あっ!」と声をあげてしまった。うわっ、四万十ポークのトンカツや大きな唐揚げ定食! そのほかにも焼き魚などの定食とハンバーグ、カレーなどがあり、それぞれに手作りのお総菜が付くのもうれしい。

高知のブランド豚「四万十ポーク」のほか、この店にはこだわりがいっぱい。
高知のブランド豚「四万十ポーク」のほか、この店にはこだわりがいっぱい。
肉にしようかな、それとも魚かな。ご飯を食べる前に単品おかずや単品メニューでお酒を飲んでもいい。
肉にしようかな、それとも魚かな。ご飯を食べる前に単品おかずや単品メニューでお酒を飲んでもいい。

この日の気分でBOB定番の鶏の唐揚げ定食(3個)1230円を注文して、オープンキッチンから作る様子をのぞいてみた。

「看板メニューの唐揚げは、大分の中津風唐揚げを参考にしたオリジナルの味付けなんです。塩コショウやごま油で下味をつけ、一晩寝かせた後に醤油やニンニク、ショウガを加えてさらに寝かせています」と福田さん。手間をかけて丁寧に仕込んでいるんですね。

鶏もも肉を手でよく揉み込み、調味料をしっかり染み込ませる。それにしてもひと切れが大きい!
鶏もも肉を手でよく揉み込み、調味料をしっかり染み込ませる。それにしてもひと切れが大きい!

唐揚げが揚がるまで福田さんと何気ない話をしていると、管理栄養士の免許を持っていて、調理はもちろんメニュー作りにも大きく貢献していることを知った。

漬け込みだれをよく切ってから片栗粉にまぶした鶏もも肉は、2度揚げすることでカリッと仕上がる。
漬け込みだれをよく切ってから片栗粉にまぶした鶏もも肉は、2度揚げすることでカリッと仕上がる。

「小さい頃は体が弱くて家にいることが多かったんです。それでお母さんと料理をすることが増えていきました。小学生だけどバンバン包丁を使いこなしているような子供で(笑)。大学在学中に管理栄養士の資格を取ったのですが、パソコンで仕事をするより、実際に料理をするほうが楽しいと思っていました。音楽もやっていたので、知り合いのつてでこの店で働くようになったんですよ」

肉料理だけでなく、実は週替わりの魚定食も充実しており、豊洲のバイヤーから仕入れている。この日はホッケ、サバ、サワラの味噌漬け。
肉料理だけでなく、実は週替わりの魚定食も充実しており、豊洲のバイヤーから仕入れている。この日はホッケ、サバ、サワラの味噌漬け。

福田さんは健康的なメニューを作ることができて、調理も得意。人懐こい笑顔からも、この人の作る料理はおいしそうだなと思わせてくれる。完成が楽しみだ!

カリッとジューシーな唐揚げは1個ずつ追加可能。充実したお総菜もうれしい

テーブルに運ばれてきたBOB定番の鶏の唐揚げ定食は、想像以上にモリモリで思わず小躍り。山盛りになった唐揚げは、とても3個とは思えない。

お総菜は4品、プラス唐揚げ用のソースが4種から1つ選べる。写真はスイートチリナッツソース。
お総菜は4品、プラス唐揚げ用のソースが4種から1つ選べる。写真はスイートチリナッツソース。

味噌汁を口に含んだら、唐揚げ山の頂上から攻めてみよう。レモンをかけてまずはそのまま食べてみる。

外はカリッとクリスピーで、中はもっちりジューシー。
外はカリッとクリスピーで、中はもっちりジューシー。

カリッと音が鳴るほどクリスピーだが、中はブリンと弾力があり肉汁があふれてくる。ニンニクやショウガが効いていてこのままでもおいしい。

「わりとしっかり味をつけているので、そのままでもいいんですけどソースをつけると味変になって、新しい感覚で唐揚げがおいしく食べられますよ」と福田さんが教えてくれたので、ソースバージョンもいってみますか!

えーい、ご飯にワンバン! スイートチリナッツソースだけをご飯にかけてもよさそう。
えーい、ご飯にワンバン! スイートチリナッツソースだけをご飯にかけてもよさそう。

ニンニクのパンチ力と甘じょっぱくてほのかな辛味があるソースが、唐揚げを新たなおいしさの彼方へ連れて行ってくれる。ああ〜、この食べ方もいいですね。

ソースはほかにさっぱりしたねぎ塩レモン、風味豊かなシソガリタルタル、すっきり&ヘルシーなおろしポン酢がある。

鶏ひき肉とパプリカをナンプラーで味つけたガパオ風の総菜もご飯に合う。
鶏ひき肉とパプリカをナンプラーで味つけたガパオ風の総菜もご飯に合う。

唐揚げの付け合わせの千切りキャベツやニンジン、白菜の漬物、鶏ひき肉のガパオ風、ひじきの五目煮などのお総菜もあり、このペースだとご飯が足りないかもしれない。

「そうでしょう。定食を注文された方は、白米または玄米ご飯を1杯おかわりできるんです。いかがですか?」とにっこりする福田さん。

それはありがたい。お米は、山形県庄内市の農業生産法人「米シスト庄内」が作ったはえぬきを使用し、ふっくらとしておいしいのだ。

最後のお総菜は、西荻窪の『是清』謹製、季節がわりのおだんごだ。写真はいもあんだんご。
最後のお総菜は、西荻窪の『是清』謹製、季節がわりのおだんごだ。写真はいもあんだんご。

最後に甘味がついてくるところも気が利いている。もっちりとしたおだんごに、甘さひかえめのあんこがたっぷり。ああ〜、大満足。ごちそうさまでした。

もう少しデザートが食べたいなら西荻窪の和菓子店『是清』のわらび餅もどうぞ。店内はもちろんテイクアウトで公園散策のお供にも!
もう少しデザートが食べたいなら西荻窪の和菓子店『是清』のわらび餅もどうぞ。店内はもちろんテイクアウトで公園散策のお供にも!

たっぷり日が注ぐ井の頭公園を、もう少し散歩して帰りますか。公園内をたくさん歩いておなかが減ったら、また『BOB KITCHEN』に戻ってこよう。

取材・文・撮影=パンチ広沢