人気豆花店『山海豆花』が台湾フードコートの中心

『K, D, C,,,』3階。
『K, D, C,,,』3階。

3階は小ぶりなシェアダイニング、要するにフードコートである。中央のテーブル席を囲んで、4コーナーのキッチンを有し、フードコートとしては小ぶりな印象。だが、新大久保駅のホームまで見通せる明るく清潔な造りで、一人でも入りやすい。オープン以来、成り行き的に店が入れ替わっていたが、2025年2月現在ここが、ガチな台湾フードコートと化している。

台湾フードコートの中心になっているのが『山海豆花(サンハイドウファ)』。台北を中心に台湾で9店舗展開する新興の人気豆花店、その東京店である。

『山海豆花』。
『山海豆花』。

店主は千葉出身の日本人・YoShi優喜さん。サーファーでもある彼は台湾台東の波にハマった後、縁あって台北で豆花作りをスタート、日本の寄せ豆腐の要素を加えたオリジナルを完成させる。これが「山海豆花」で、大ヒットした次第。2022年に帰国して東京店を開店。新宿駅南口近くのビルのフードコートに入っていたが、フードコートの閉鎖に伴い、2023年、こちらに移転した。

YoShiさんの作る豆花はツルツルなめらかで、食感の絶妙な柔らかさが魅力。冰(コールド)か熱(ホット)を選べて、さらに9種類のトッピングから3種類を選ぶ。トッピングは口当たりの絶妙な茹でピーナッツと麦粉糖で煮たカリカリピーナッツ、桃膠(タオジャオ/桃の樹液ゼリー)、芋圓(ユーユェン/タロ芋団子)などなど、現地感あふるれるラインアップ。特製黒蜜シロップをかけて供される880円。

新大久保に移転後は、鹽酥雞(イェンスージー/台湾風からあげ)小600円、蔥油餅(ツォンヨゥビン/サクサクネギパイ)600円〜などのスナック系も登場。選択の幅が広がった。現地に劣らぬ味は在留台湾人に支持されている。

鹽酥雞(台湾風からあげ)。
鹽酥雞(台湾風からあげ)。

牛肉麵、滷肉飯を食べるなら『台湾料理 HIKARI』で

続けて2024年9月、仲間入りしたのが、『台湾料理 HIKARI』である。こちらは牛肉麵(ニョウロウミィエン)、滷肉飯(ルーロウファン)など、主食となるご飯物、麵物を供している。

『台湾料理 HIKARI』。
『台湾料理 HIKARI』。

おすすめは紅燒(ホンシャオ)牛肉麵1300円。現地定番の醤油ベースの牛肉入り汁そばで、麵は平たい乾麺を用いるのがこの店のスタイル。スープの味付けは日本人向けに少しまろやかにしているそうだが、ガチ台湾の風味はしっかり保っている。スープが実に美味で、しっかり煮込んだ牛すね肉ともよくマッチしている。

紅燒牛肉麵。
紅燒牛肉麵。

その他、油豆腐(ヨウドウフ/スパイシーなタレをかけた厚揚げ)。滷蛋(ルーダン/台湾風味付け卵)等々、酒のつまみもそろえている。

店主の張杰旻(チャン・ジェミン)さんは、台湾中部の台中出身。台中には、日本人観光客にも有名な、高級アイスクリーム店『宮原眼科』がある。名称は戦前、日本人の眼科医院だった建物をリノベして店にしたことに由来するのだが、2階に『醉月樓(スイユエロウ)』というしゃれた台湾料理レストランも入っている。張さんはここで料理長を勤めていた経歴の持ち主。

話好きで、調理の手が空くと客席でお客さんと話しこむこともしばしば。このあたりの気さくな感じが、台湾ぽくてよい。

ひと味違う台湾茶の店『茶禄- Cha Lu -』

さらに2024年11月、台湾茶の店『茶禄- Cha Lu -』が加わった。

『茶禄- Cha Lu -』。
『茶禄- Cha Lu -』。

若き店主の鄧閎熙(テン・ホンシ)さんも偶然ながら台中の出身。台湾茶といえば「凍頂(とうちょう)烏龍茶」が有名な銘柄で、何となく聞き覚えがある方も多いかと思う。鄧さんは、祖父が凍頂烏龍茶の品質向上に努め世に広めた立役者で、父は凍頂烏龍茶の名産地である南投・鹿谷郷にこだわりの茶畑を持つ茶商。

そんな家柄もあり、鄧さんが茶に注ぐ情熱は図抜けている。台湾茶を飲める店は東京でもすでに珍しくないが、ここはひと味違う。『茶禄』はカウンターまたは、中央に並ぶテーブルで供される。フードコートだからいたってカジュアルである。茶は「杯」9種と「壺」17種から選べる。まずこの茶葉のレベルが高い。「杯」はカップ1杯480円〜。「壺」は茶壺(小ぶりな急須)で供されるもので、お湯を注ぎ足せば4杯以上楽しめる(1100円〜)。

お手軽に味わうなら「杯」だが、作り置きやティーバックでちゃちゃっと用意するなんてことは決してやらない。紙コップ(テイクアウト用)か、ガラスカップいずれかを選ぶと、本格的に茶壺(茶葉ごとに専用のものを用意)を使った淹れたてを出してくれる。

台湾茶のお手本のような味わいで、奥深いおいしさにびっくりしてしまう。ぴったりマッチする茶菓子なども用意されているので要チェックだ。

鄧さんは、独自の美学を持って日本と台湾で茶会や教室も開催している。最近だとアイマスクで視覚を遮り、嗅覚、触覚、味覚を研ぎ澄ませて、茶の香り、茶碗の触感、味の深みを体験する「無光茶会」なるイベントも開いている。

2025年、フードコート内の大きめなコーナーに移動が決定。カウンターを用いた本格茶会なども予定されている。空いたコーナーには、台湾小吃(軽食)の『天天飽(テンテンバオ)』が『茶禄』の食部門としてコラボの形で参入。他2店とかぶらない蒸し物や野菜系の軽食が供されるそうな。

新大久保で台湾気分を味わおう

左から『茶禄- Cha Lu -』店主の鄧閎熙さん、『台湾料理 HIKARI』店主の張杰旻さん、『山海豆花』店主のYoShi優喜さん。
左から『茶禄- Cha Lu -』店主の鄧閎熙さん、『台湾料理 HIKARI』店主の張杰旻さん、『山海豆花』店主のYoShi優喜さん。

この体制は、2025年3月を目処に整うとのこと。茶・食・スイーツの揃ったハイレベルな台湾フードコートの完成となる。台湾好きとしてはたまらないニュースである。

このフードコート、2025年初頭時点では、ランチタイムでもすごく混雑しているという感じではない。客の大半は台湾人で、座って飛び交う現地語を流し聞きしているだけで、台北駅2階のフードコートあたりにいる気分になってくる。

新大久保に遊びに来る方は、たいがい韓国気分になっているから、駅上の台湾まで目が行っていないのは当然かもしれない。しかし放っておくのはあまりにもったいない。そもそも新大久保周辺は、ベトナム、ネパール、ガチ中華などなど、さまざまなエスニックの混在している場所。新大久保駅の改札を出たら、左手前方のエスカレーターに乗りこみ、「3階」を押してみていただきたいのである。

住所:東京都新宿区百人町1-10-15 JR新大久保駅ビル3・4F/営業時間:店舗ごとに異なる/定休日:月(不定あり、SNS参照)/アクセス:JR新大久保駅直結

取材・文・撮影=奥谷道草

台湾中部の台中(タイチョン)は、人口は台湾2位の広い街で、台湾散策の手練れが訪れる街のひとつ。最近魅力が認められ、日本からの旅行者が少しずつ増えているようでウレシイ。そしてこの隣に位置する街が彰化である。日本語読みで(ショウカ)、現地読みで(チャンファ)と呼ぶここは、短期旅行だと訪れる機会が作りにくいが、台湾鉄道が山線・海線の2手に分岐する要衝で、戦前からの扇形車庫が現存し、近くの山の頂に巨大大仏がでんと鎮座、名物は映画「千と千尋の神隠し」で妙に有名になった肉圓(バーワン)……と、ここならではのスポットや味が徒歩圏内にほどよく散在している。
新宿駅前の『合作社』は、台中からやってきた店主・黃さんの、ガチな本場味と雰囲気を追求する台湾軽食店で、台湾人客が列を作るうまさですでに名高い。2023年に高田馬場の明治通りの交差点近くに2号店も開店、勢いに乗って同年12月、同じく高田馬場に系列店をオープンした。店名を「臺所」と書いて「たいところ」という、いわゆる火鍋の専門店だ。「台湾の良き場所」と「台所」を重ねた造語で、『合作社』と同様、ひねりあるネーミングのセンスからしてニヤリである。
台湾に出かけたら、現地でしか味わえない料理を試してみたくなるのは、当然というもの。台湾料理はブームに乗って料理各種が日本上陸を果たし、探せばけっこうありつけるようになった。でも、そうであっても持ち込めない美味だって残っている。サバヒーという身の傷みやすい大衆魚あたりが最たる例だろう。鮮度のいいやつを朝粥に仕立てたのが抜群に美味なんですよ。