地域の人にとっても待望の書店
「全国で書店が減ってしまっているなかで、本を売る場所がなくなっていくことに出版社として危機感を持っていたのが出発点です」と話すのは、店長の前田康匡さん。「本との接点をひとつでも増やしたい。そして、当社の出版の軸である“旅と暮らし”の本がより具体的にイメージできるような場所にできたらと考えました」。
店内の棚は、旅・衣・食・住など大きく6つのカテゴリに分けられている。なかでも「旅」には力を入れており、前田さんいわく「見たことがない旅の本が買える店」。ガイドブックや紀行文、各地の文化に触れられる本が有名無名問わず揃い、「文学」や「趣味」などのサブカテゴリもあってアプローチが幅広い。
選書は出版部の編集者が担当しており、作り手の目線ならではのセレクトにも注目だ。「一度に何冊も買ってくださる方も多く、本を求めている人が多いんだなと感じます」と前田さん。
地下鉄千石駅の周辺は、実は書店があまり多くないエリア。『アンダンテ』があるのは産業編集センターの1階で、以前は自社の出版物を展示していたが、近所から「買えないの?」という声もあったとか。オープン直後の週末にはレジ待ちの行列ができるほどで、地域の人にとっても待望の書店だったことがうかがえる。
店名の「アンダンテ」は、音楽記号のひとつで「歩くような速さで」という意味。本と出合える場が再び増えていく、その一歩が千石の街角で始まった。
住所:東京都文京区千石4-39-17/営業時間:11:00~20:00(土・日・祝は~19:00)/定休日:水/アクセス:地下鉄三田線千石駅から徒歩2分
取材・文・撮影=中村こより
『散歩の達人』2025年1月号より
いま、チェーン店ではない、少人数で運営し、店主自らの意思で本を並べる本屋さんが着実に増え続けている。扱うのは本だけではない。雑貨類はもちろん、イベントスペースがあったり、カフェが併設されていたり。ひと口に「本屋さん」といっても枠にとらわれない気ままな形で、穏やかな雰囲気の店ばかりだ。店主も十人十色。ある店主は編集者として、ある店主はバンドマンとして、またある店主は縁起熊手の職人として活躍した過去を持つ。自由自在な空間は、彼らが紡いできた物語の先で、確かに作られているのだ。今回紹介するのは、移転オープンを含む2021年以降に扉を開いた都内の本屋さんたち。楽しみ方は無限大。さて、どこから巡る?
西荻窪の駅前に店を構える『今野書店』の今野英治さん。青梅街道沿いに店を構える『本屋Title』の辻山良雄さん。ふたりの新刊書店店主に互いの店をじっくり見てもらい、お話を聞いた。
作品であり、道具であり、新しい世界への入り口でもある本は、贈りものにも最適。そんな視点で眺めるとより楽しめる、ギフトショッピングにぴったりの本屋さんがありました。