ピエール瀧
1967年、静岡県出身。1989年に、石野卓球らと電気グルーヴを結成。音楽活動の他、俳優、声優、タレント、ゲームプロデュース、映像制作などマルチに活動を行う。
近著は『ピエール瀧の23区23時 2020-2022』(産業編集センター)。
キリンの首を滑ったら、日本初の汚水処分場を探検だ
—— 今回はちょっと趣向を変えまして、荒川区三河島公園に隣接している旧汚水処分場の見学もセットでお送りしたいと思います! この公園はあのキリンの滑り台が有名で、近隣では通称キリン公園とも言われています。
キリンの首を楽しく滑ることができるよってやつだ。ちびっ子向けだね。この幅だと俺のケツは入んなさそうだな。でもちゃんとコンクリートで作られてるから大人でも安心して滑れるよ。この公園も含めて、日本最初の近代汚水処分場だったんだよね?
—— そうなんです。一応ざっくりと説明しておきますと、正式名称は「三河島水再生センター」と言います。
—— 大正11年(1922)に運用開始されて、1999年に稼働停止。それから2007年に下水道分野の遺構では、日本初の国指定重要文化財に指定されました。現在は敷地の一部もこうして公園になり、汚水処分場自体も無料で一般公開されています。そんなわけで、この公園内にも汚水処分に関連したモニュメントや説明文があるので、まずはその辺を見てから移動しましょうか。
このキリン公園を足がかりに、日本初の汚水処分場を見学に行くって感じか。早速説明図があるね。
ここにやってきた下水や汚水はポンプで汲み上げて、沈砂池で微生物がきれいにしてから隅田川に流す、と。意外にプリミティブだね。まあここが川に近いから汚水処分場を作ったっていうことなんだろうな。
—— 汚水処分の歴史図解もありますね。「江戸時代の下水道状況は、トイレは汲み取り式で、糞尿は田畑の肥料として使われていました。下水に流入した生活排水・雨水の汚染の程度は低かったようです。その清潔さは幕末に訪れた欧米の外交官を驚かせたようです」と。
その後明治・大正を経て、ここの汚水処分場が始動するわけか。「23区の下水道普及率がほぼ100%となるのは1995年」だって。なんだ、割と最近なんだね。
—— 都内でもまだ汲み取り式のところがあるって聞きますから「ほぼ100%」って書き方になるんでしょうね。
人が集まると水が汚れるって言うけどさ、そのとおりなんだな。しかしここは公園としては「わかめそば」みたいなプレーンな作りだね(笑)。じゃあもう早速汚水処分場の見学に行っちゃおうか。
—— ではこちらの入り口から中へ。見学は案内人の方がついて説明してくださることになってます。こんにちは、本日取材をお願いしていたものです!
案内人 本日はよろしくお願いします。
瀧と申します。こちらこそよろしくお願いします。ここは東京都“下水道局”なんですね、水道局じゃなくて。壁にいろんな人のサインが飾ってありますね~。
ずんのやすさんが来てるし、関根勤さんときたろうさんも来てる(笑)。ドラマの撮影にも使われたりしてるんだな。確かに、あのレンガ造りの建物いい感じですもんね。
案内人 汚水処分場に入る前に、まずは入り口にある建物をご覧ください。ここは門衛所で、24時間体制で関係者の出勤簿をつけてたんですね。今じゃカードでやってますけども。なので奥に畳の部屋が見えるでしょ? そこで職員が仮眠をとっていました。
なんか雰囲気あってめっちゃいいっすね! 洗面所とトイレと、手前がフローリング的な作り。若干ちょっと洋風な趣の建物ですね。
特殊な構造の天井にも納得の理由が
案内人 では建物の方へ行きましょうか。まずこちらは「入口阻水扉室上屋(いりぐちそすいひしつうわや)」と言います。
案内人 東・西に一棟ずつあって、地下の下水管のメンテナンスのために、ここで操作すると油圧で扉を閉めて下水の流れを一時的に止めることができます。そして次のここが沈砂池。砂とか泥をここで沈めて取り除きます。次はレンガ造りのポンプ室に入りましょう。
うわすごい! 巨大なマシンルームですね。富岡製糸場みたいなもんですよね、これ。ポンプは何台あるんですか?
案内人 最初は9台だったんですけども、最終的には全部で10台になりました。荏原製作所というところが作りまして、当時最先端の技術ということで世界的にも大変評価されたそうです。
案内人 この建物なんですけど、天井を見てください。変わった形してるでしょう? 屋根の底辺部が床と水平に設置できなかったんです。なんでかっていうと、ポンプのメンテナンスのために巨大なクレーンが屋内を走行するんです。上部分がこの形じゃないとクレーンを動かせなかったんですよ。
なるほど、クレーンありきの設計だったんですね。レンガ造りっていうだけじゃなく、いろんなところに西洋建築の感じがすごく出てますよね。両サイドの壁は耐震補強もされてますよね?
案内人 そうなんですよ。文科省からは極力そのままの姿で残してほしいと言われてるみたいなので、東京都もかなり悩んだそうなんですが。だけどさすがに地震のことはね。それでああやって耐震用にボルトを打ちつけています。そしてこちらには歴代の東京都のマンホールを展示しています。
案内人 見学にいらっしゃる方には、ここでしか手に入らないマンホールカードを記念に差し上げておりますので、それ目当てでここに来る人も多いですね。
昭和7年(1932)とかのマンホールもある。オリンピックのデザインのものもありますね。
案内人 マンホール自体はレプリカのものもあるんですけども、真ん中に文字が入ってるでしょ。これによって、住民から「下水が噴き出していますよ」と連絡があった際に、管理者がすぐさま場所を特定できるようになってるんです。
はあ、マンホールの住所みたいなもんですね。雨がたくさん降ると、この施設のどのくらいまで水が溜まってきちゃうもんなんですか?
案内人 最近のゲリラ豪雨みたいなのが来ちゃうと、もう満杯になっちゃいますね。ここには新宿区からも汚水が流れてきていたので。
そんな遠くからも来てたんですね! それはすぐいっぱいになっちゃうでしょうね。
案内人 ではこの後、地下に降りて配管の中に入ってみましょうか!
旧三河島汚水処分場喞筒場施設
水飲み場:なし トイレ:あり
自販機:なし 灰皿:なし
構成=カルロス矢吹 撮影=横井明彦
『散歩の達人』2024年11月号より