やる気のなさそうなところがお前の個性だからいいんだよ、と言ってくれる人もいるが、もっとエネルギーがあれば今の自分など比較にならないほど活躍できていたはずと思えてならない。『転校生』みたいに、もし誰かと中身が入れ替わったとしたら、私に入った人はあまりの出力の低さに驚くんじゃないか。この状態でよく頑張ってきたね、と感心してもらえるかもしれないが、そんな状況はきっと一生訪れない。
でも本来はもっとエネルギッシュなのに、何らかの理由でエネルギーが滞っているだけの可能性もある。エネルギー詰まりの原因を取り除けば、見違えるように快活に変わることもないとはいえない。
たとえば野球の斎藤佑樹投手は現役時代、思い立って自分の血液を米国の検査機関に送ったところ、卵アレルギーが判明したらしい。それで卵をやめてみたら集中が切れなくなったり、球速が上がったりと明確な効果があった。彼はそれまでの人生でアレルギーに気づかなかったし、検査をしなければ一生気づかなかっただろう。
不調の原因に気づかず「なんだか力が出ない」と思いながら一生を終える人もいる。むしろ不調の状態が当たり前になっていて、それが自分の100%だと思い込んでいる人も多いに違いない。
というわけで私は現在、自分が100%の状態に達していないと感じている。だから本来の力を取り戻すために、これまでさまざまな方策を講じてきた。
まず、サプリをたくさん買った。特定の栄養素を吸収しづらい体質だから、無気力なのかもしれないと考えた。それをサプリで補うことで、常人レベルのやる気を手に入れられるのではないか。数々のサプリを海外から取り寄せたが、はっきりとした効果は感じられないまま、今も飲みかけのサプリを大量に所持している。
整体にも行った。体も鍛えてみた。旅に出たり本を読んだりサウナに行ったりするたびに、これで変われるんじゃないかと若干期待したが、やはり大きな変化はない。
自分は100%の状態でもこんなものなのか。年を取るにしたがって自分の潜在能力への期待が少なくなり、YouTubeやスマホゲームに無為な時間を費やすことにも抵抗がなくなってきた。
背中が見えない
最近、ある友人が「知り合いに霊能力者がいる」と教えてくれた。その霊能力者は7000円くらいで悪い気を祓(はら)ってくれるという。友人は「紹介制でしか受け付けてないけど、行きたいなら紹介してあげるよ」と言った。
パワースポットとかチャクラとか、そういうスピリチュアルなものが嫌いな方ではないが、霊能力者までいくと怪しさを感じる。霊能力を騙(かた)ってお金を巻き上げる話も度々聞いたことがある。それでも、本来のポテンシャルに期待している私にとって友人の誘いは魅力的だった。
教えてもらった連絡先に電話すると1カ月後に予約が取れた。けっこう先まで予約が埋まっている。人気のある霊能力者だ。この人は本物なのかもしれないと、期待が膨らんだ。
1カ月後、指定されたマンションの一室に入り、霊能力者と対面した。40歳くらいの真面目そうな男の人だ。軽く挨拶をすると、マッサージ用のベッドにうつ伏せで寝るよう指示された。うつ伏せなので見えないが、ベッドの横に立ち、深呼吸をして集中しているのを感じた。
しばらくして、霊能力者は「ああ〜、なるほど」と口を開き、「今までけっこうしんどかったでしょ?」と尋ねてきた。やはり今の自分は本来の状態ではないということか。少しうれしくなり「え、しんどかったのかも……もしかしてなんか憑いてました?」と返すと、霊能力者は「そりゃもう、背中が真っ黒で見えないですよ」と言った。
私の背中は濃い黒のモヤのようなものに包まれているらしい。その黒いモヤを霊能力者は悪霊と呼んでいるという。ならばそれを取れば、眠っていたパワーが存分に解放される。霊能者は歯医者が虫歯でも診るようなテンションで「じゃあ取っていきますね〜」と悪霊を吸い込んだり手でつまみ上げる動作を始めた。30分ほど経ち、「もう大丈夫だと思いますよ」と告げられ悪霊祓いは終了。悪霊が消えたのは良かったが、何かが変わった実感はなかった。
霊能力者と別れ、紹介してくれた友人に電話をかけて感想を伝える。電話に出た友人は、「今日たまたま別の霊能力者の人に会って吉田くんの写真見せてみたら、ナマケモノ(動物)の霊が3体付いてるって。だから遠隔で取ってもらっといたよ」と思いがけないことを言った。
日本では動物園くらいでしか目にしないナマケモノの霊が自分に憑くことがあるのか? 私の顔を見てナマケモノを想起しただけではないか。いくつか疑問が生じたが、取ってもらえたのなら良かったのだろう。私は1日にして、真っ黒い悪霊だけでなくナマケモノの霊3体を除霊してもらうことに成功したのだ。
あの日から1カ月くらい経った。まだ具体的な変化は感じられない。変化が起きるまでにタイムラグがあるのかもしれない。万年床に寝転がってスイカゲームをしながら、変化が起きる時を待ち侘びている。
文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2024年8月号より