老舗おでん料理店などで提供されるナスのおでん

ナスは日本だけでも数多くの品種が存在する。それぞれに特徴があり、炒め物や煮物、漬物など料理に合わせて選ぶことができる。

ナスには高血圧予防に効果のあるカリウム、抗酸化作用が期待できるナスニン(ポリフェノールの一種)のほか、食物繊維が豊富に含まれている。旬は夏となり、皮が厚く身が詰まっているが、秋に収穫した「秋ナス」は皮が薄く水分をよく含んでいる。

品種は日本だけで200種類、世界では1000種以上といわれている。形状や色などさまざまな分類方法があるが、それぞれ食感などに特徴がある。最も一般的な「千両ナス」はどんな料理にも適しており、季節を問わず出回っている。

おでんにおいては大阪の老舗である『たこ梅』や浅草の『大多福』などの料理店で提供されている。夏季限定で、水ナスをさっと煮たしゃぶしゃぶ仕立てのものなど、それぞれのお店で創意工夫がみられる。

『柳屋蒲鉾店』(目黒区目黒本町)の「なす揚」。

東京のおでん種専門店では揚げ蒲鉾の具材として用いられる。ナスに切れ込みを入れて魚のすり身を挟み、油で揚げている。ジューシーなナスと旨味のあるすり身のハーモニーを堪能できる。

葛飾区の京成小岩にある『増田屋蒲鉾店』では、すり身の代わりに挽き肉を挟んだ「なすの肉詰め」を販売している。おでんにしてもいいが、そのまま食べてもおいしい。

切り方を変えて楽しみたい、ナスのおでん

今回は定番の千両ナスをさまざまな切り方で調理していきたいと思う。

ナスを流水で洗って水気を拭いたら果肉とガクの境目に包丁を入れてヘタとガクを取り除く。ガクを切らない場合でも、食べやすいようにヘタは除いておこう。ヘタのまわりにぐるりと包丁を入れれば簡単に取れる。

煮物の場合はぶつ切りにしてかまわないが、切り方に工夫を加えるとさまざまな味わいを楽しめる。

間隔を空けてピーラーで縦に皮を剥くと縞模様ができあがり、汁を染み込ませ、見た目を華やかにできる。一方の皮を剥いたら、対角線上にある反対側を剥いていくと整いやすい。里芋の六方むきの要領だ。皮が剥けたら厚めの輪切りにすれば完了だ。

ナスの食感をたっぷり味わいたいなら、半分に切るのもいいだろう。ガクとヘタを切り、縦に包丁を入れる。次に、皮に斜めに隠し包丁を入れておく。格子状に刃を入れると、煮たあとに崩れる場合があるので注意しよう。

一品料理として存在感を示すなら、切らずに皮だけ剥くといいだろう。ガクは残してヘタを切り、ピーラーで皮をすべて剥いていく。

切ったナスは水を張ったボウルに入れて、軽くアク抜きをする。変色や渋みを抑えるためだが、おでんの場合は省略してもいい。

ナスは焼き目を入れるとおいしそうに見えるだけでなく、煮崩れを防いで香ばしさもプラスされる。フライパンを熱してサラダ油を入れ、皮目を下にしてナスを投入したら裏返し、両面を軽く焼いていく。

おでん汁を煮たて、ナスを入れたら中弱火程度で炊いていく。この際、汁の色が濃くなるので、気になるようであれば単体で煮るといい。その場合、落とし蓋をして15分程度待つ。

輪切りにしたナスは火も通りやすく、ひと口サイズで食べやすい。切る際も神経質にならなくていいので、初心者におすすめだ。

縦半分に切ったものは、ほかのおでん種に負けない存在感がある。しんなりとした皮の食感も素晴らしく、ナス好きにはたまらない切り方となる。

圧倒的なボリューム感と果肉のとろっとした食感、あふれ出るたゆたゆのおでん汁を楽しみたいなら、皮だけを剥いたナスがおすすめだ。

水茄子を使って夏ならではの味わいを楽しむ

夏はナスの種類が豊富なので、いろいろ試してみると面白い。今回は水茄子もおでんにしてみたいと思う。

水茄子の皮は薄くて柔らかく、果肉は水分をたっぷり含んでいてえぐみも少ない。漬物やサラダに最適だが、おでんとして炊いてもおいしい。

調理法は千両ナスと同様だが、瑞々しい味わいを楽しむためにさっと火を通す。今回は天ぷらなどで用いられる末広切りにしてみよう。

ガクを残してヘタを切ったら、縦半分に切る。次に端から4〜5mm程度の間隔で包丁を入れていく。このとき、ナスが崩れやすいので手で押さえながら切るといい。きれいに切れたら落とし蓋をしておでん汁で煮る。長い時間煮る必要はなく、さっと火を通せば完成だ。

千両ナスとは異なる瑞々しい味わいは、夏の時期にしか味わえない贅沢な体験となる。このほかにもおでんに合うナスはたくさんあるので、いろいろと試してみて好みのものを見つけてみてほしい。

今回はおでんのナスの調理方法を紹介した。温かくしても、冷やしてもおいしく手軽に調理できるが、品種ごとに奥深い味わいを堪能できるので、ぜひ挑戦してもらいたい。

取材・文・撮影=東京おでんだね