美しきフランス伝統菓子の世界『成城アルプス』(Since1965)

2階の喫茶スペース(サロン)。
2階の喫茶スペース(サロン)。

クラシカルで美しいケーキがショーケースに並ぶ。

「生前、父はよく売り場に立っていました。職人だからもちろんお菓子を作れましたが、接客が好きだったようです」

そう語るのは『成城アルプス』の2代目・太田秀樹さん。1999年頃、太田さんが修業先のフランスから戻ると、創業者である先代は主に販売を担当した。今もその思いは店員一人一人に引き継がれ、細やかに気を配ってくれるのがうれしい。

駅の北口近くで営業。
駅の北口近くで営業。

『成城アルプス』といえば、バタークリームも有名。「父の代からレシピは変えていません。あれで十分完成されています」と、深くうなずく太田さん。バタークリームは油脂分が多く日持ちするため、冷蔵庫で保管しながら使う店も多い。しかし、太田さんはいつも作りたてを使う。だから、舌触りがふわっとして、香りも澄んでいる。

生クリームが普及していなかった時代には、店頭にバタークリームの商品をたくさん並べていた。生クリームのケーキが主流になってからも、バタークリームを使ったロールケーキ「モカロール」は人気だ。生地とクリームのバランス、巻きの繊細さが織り成す食感、味わいなど、どこを取っても絶妙。頬張ると、幸せに包まれる。

モカロール(M)2100円。
モカロール(M)2100円。
右上から時計回りでフロマージュフレ650円、パイ生地でカスタードクリームをサンドしたナポレオン620円、アンフィクレ650円。
右上から時計回りでフロマージュフレ650円、パイ生地でカスタードクリームをサンドしたナポレオン620円、アンフィクレ650円。

素朴で味わい深い日々の癒やし『プレリアル成城』(Since2003)

キッシュなどの食事も可。
キッシュなどの食事も可。

駅を挟んで反対側には、太田さんが創業した『プレリアル成城』がある。『成城アルプス』と比べるとカジュアルで「街のケーキ屋さん」に近い印象。ショートケーキはどちらの店舗にもあるが「昔の生クリームは今より重かったので『アルプス』は重いまま」。逆に『プレリアル』はさっぱりした甘さで、それぞれ個性が分かれる。

駅の南口近くで営業。
駅の南口近くで営業。

『プレリアル』のショートケーキは、口に入れた瞬間生地が溶けるようにスーッと消え、生クリームと一体化して華やかな余韻を残す。聞くと、使用しているのはかなりキメの細かい薄力粉で、また、生地が乾燥しないように少量ずつ焼くのだという。

右上から時計回りでショートケーキ530円、キャラメルポワール540円、ババロワナチュール476円。
右上から時計回りでショートケーキ530円、キャラメルポワール540円、ババロワナチュール476円。
エンガディナー6個入1890円。中はナッツのヌガー。
エンガディナー6個入1890円。中はナッツのヌガー。

試作を重ね、一つ一つの工程をブラッシュアップし、それを積み重ねる。ケーキを味わううちに垣間見えたのは、職人の真摯な姿勢だ。上品さと、住宅地ならではの親しみやすさを併せ持つ成城の王道ケーキ。親子で作り上げたこの味を求めて、多くの人が足を運ぶ。

「僕もお客さまと同じように、昔から父が作るお菓子が好きだったんです。だから、これからも自分の味覚を信じて、みなさんに喜んでもらえるように作っていこうと思います」

子供から大人まで、地元が信頼する名店に

成城では、初めてのおつかいを『成城アルプス』で経験する子供が少なくないらしい。「外で待つお母さんの方を見てソワソワしている子がいると、どうしたの?って声を掛けるんです」と、店長の市川さんはニッコリ。少し慣れてくると、今度は家から一人で『プレリアル成城』までおつかいをしにやってくる。ここならきっと助けてもらえる、一人で行かせても安心だと信頼されている証拠だ。

『成城アルプス』2代目の太田秀樹さん(中央)と若きパティシエたち。「新作も随時試作しています!」。
『成城アルプス』2代目の太田秀樹さん(中央)と若きパティシエたち。「新作も随時試作しています!」。
住所:東京都世田谷区成城6-8-1 /営業時間:10:00~18:00(サロンは10:30~16:30LO)/定休日:火・水/アクセス:小田急電鉄小田原線成城学園前駅から徒歩1分
住所:東京都世田谷区成城2-25-9  /営業時間:10:30~17:00(サロンは10:30~16:30LO)/定休日:月・火/アクセス:小田急電鉄小田原線成城学園前駅から徒歩2分

取材・文=信藤舞子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2024年9月号より

「何があるか」と聞かれたら、いろいろありすぎてよく分からん経堂の街。実際、おいしいお店を巡るとか、広く浅くでも十分楽しめる。けれど、ちょっと深入りしてみたら、また違う景色が見えてくるかもしれない。
最近の千歳船橋は散歩しがいがある街に変わった。以前は事務所やチェーン店だった場所、住宅地の方にも個人店が増え、し・か・も! 何やら甘い香りが……。甘党も喜ぶチトフナの今をご案内。