地元民にはおなじみの老舗居酒屋。店舗拡大でさらに居心地よく
立川駅北口のロータリー目の前。地下へと続く階段を下りれば、そこには地元のビジネスパーソンたちがこぞって集う癒やしの酒場が現れる。
“地下玉(ちかたま)”の呼び名で愛される『酒亭 玉河』は、立川で創業70年以上を誇る居酒屋だ。
今となっては知る人も少なくなってきたが、“玉河グループ”として炭火焼き鳥を提供する『旬菜炭焼 玉河』やビストロの『Charcoal Dining るもん』など、立川で人気を誇る飲食店とグループ関係にあり、立川の飲食文化を牽引してきた。
広々とした店内には、一人でしっぽりと飲みたいカウンター席や、人数に合わせて利用できるテーブル席、靴を脱いでリラックスできる座敷席とさまざまなタイプの座席が用意されている。
2024年6月には店内をリニューアルし、店舗のスペースを拡大。テーブル席の数が増えたことで、ますます居心地のよい空間へと進化した。
3代目の八木康秀さんは「うちは大衆居酒屋なので、みなさんに来店していただきやすい店として、その姿勢を初代から受け継いできました。お客さんの層もさまざまです。最近はコロナを経てようやく居酒屋らしいにぎやかさを取り戻してきましたね。常連の方からは、ここに来ればおいしいものが一通り揃っているからいつでも来やすいんだよね、とよく言っていただけます」と朗らかに話す。
一品料理は100種類以上!迷うほどの多さ
店内の壁には、見渡す限り手書きのお品書きがびっしり!
初めての来店なら、その数の多さに圧倒されてしまうだろう。
「創業初期は煮込みや刺し身など簡単な料理から始まったみたいですが、歴史を重ねるにつれて中華も加わるなど、メニューの種類がどんどん増えていきました。どちらかというと肉料理よりも魚料理の割合が多いですね。手作りにこだわって、季節の食材を生かした料理をお作りしています」と八木さん。
たとえ何度通っていても「こんなメニューがあったのか!」と、知らなかったメニューを発見することもあるから面白い。
いろいろな料理がある分、誰と来ても好みに合う一品が見つかるほか、大人数の宴会から一人飲みまで多種多様なシーンに対応してくれる。長年にわたり大衆に愛される理由はここだろう。
昼時には、刺身定食930円や豚生姜焼き定食830円など、定食メニューもよく出るという。
そこで八木さんが定食のツウな楽しみ方を教えてくれた。
「常連さんだと、定食のメイン料理をおつまみにしてお酒を飲む方もいますよ。ほとんどの定食に生卵がついているので、卵かけご飯にして締めていますね。あと、実はメニュー表に載っていない季節の一品料理も定食にすることができるんです」
定食で昼飲みを楽しめたら、この店の上級者の仲間入りだ。
赤星、白鶴など昔から変わらぬ“いつもの”酒
アルコールメニューは、ビールや焼酎、日本酒、ウイスキー、サワーなど酒好きが喜ぶ定番をしっかりとおさえつつ、大衆居酒屋ならではの幅広い品揃え。もちろん夜だけでなく昼にも楽しめる。
この店のビールといえば、昔から変わらずサッポロビールが主役だ。なかでも“赤星”の愛称で親しまれるサッポロラガービールが、ここ数年、店でも再注目されていると八木さん。
「赤星は、昔は旅館などで見かける程度で、あまり広く知られていなかったんです。そんな中、うちでは中瓶ではなく大瓶で提供していたので、珍しかったと思いますよ。
ところが、今は若い方から人気なので驚いています。ラガーといえばキリンビールを思い浮かべる人も多いですが、うちでラガーといえばサッポロビール。それを説明しなくてよくなったのも、本当にここ最近ですね」
日本酒は「白鶴」を中心に、青梅の「澤乃井」や福生の「嘉泉」など東京の地酒も揃う。
昭和や平成には、立川競輪を楽しんだあとに一杯飲む人、仕事帰りのサラリーマンなど、日本酒は主に年齢層が高めの人に好まれていたが、その光景にも変化が。
「ここ数年で大衆居酒屋が若い方に流行るようになってから、若い女性が一人でカウンターに座って熱燗を飲んでいる光景も普通になりましたね」
時代は変わっていくが、ここには変わらずあるお酒を飲む人たちの笑顔がある。
取材・文・撮影=稲垣恵美