渋沢栄一ゆかりの地へ!
そんなわけで王子駅に到着だ。
まずはここから音無親水公園に行ってみよう。
「『東京散歩地図』によると、江戸時代には浮世絵にも描かれた景勝地みたいね」
「なんか久々。こういうの」
「いいね〜。なかなかしないもんね」
「すぐ近くに王子神社があるから行ってみる?」
「あ、私の好きな立派な木のある場所だ!」
さあ、今日のメインの場所、飛鳥山公園に行ってみよう。
「飛鳥山っていえば私の中では『花見の仇討ち』のイメージ。」
落語好きの彼女は、話の内容を教えてくれた。
「花見で盛り上がっている飛鳥山でフラッシュモブ的に仇討ちごっこやろうってなったんだけど、いろいろあって大騒ぎになる話(笑)」
なにそれ面白そう。
「たくさん人物が出てくるんだけど、柳亭市馬師匠の話は人物描写がはっきりしていてわかりやすくて感動したな。実は王子って『王子の狐』って落語にも出てくるんだ」
ちなみに新一万円札の顔、今回の散歩のメイン人物・渋沢栄一は日本の資本主義の父とされている。約500もの企業の設立等に関わったらしい。
ちなみに聖徳太子がお札に描かれた人ランキングトップらしいよ。7回登場。
そして一万円札の製造原価は20円とか30円とかいわれます。
なので、日銀が紙幣を発行すると、通貨発行益という利益が発生しまして、お札の原価が30円だったとすると9970円が“日銀の利益”となるんだってね。
ま、それはそれとして、その紙をめぐっての悲喜劇が、われわれ人間社会では枚挙にいとまがないのだが。
で、その悲喜劇という範疇に入るのかもしれないのが、不動産取引だと住宅ローンというやつですね。
銀行からお金を借りてマンションを買う。貸してもらえると買えるけど、貸してもらえないと買えない。
お金と不動産取引。「37条書面」とは?
ここで宅建ワンポイント。
上に書いたみたいなローンに関する悲喜劇があるため、契約書(37条書面という)にはちゃんと“取り決め”を書いておかなければならない。
以下、宅建業法を条文のまま記しておきます。
(書面の交付)
第三十七条 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
(中略)
九 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあっせんに関する定めがある場合においては、当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置。
むずかしく書いてあるけど、要は「『住宅ローンが下りなかったら買主は解除できる』という取り決めがあるならば、ちゃんと契約書に書いておけ」ということ。
一般的に、お金を借りてから不動産を買うという流れじゃなくて「不動産の売買契約をしてからお金を借りる」わけだもんね。
だから「買ったはいいけどローンが下りなかったぁ〜」という、ほらね、悲劇が発生だ。
もちろん契約する前には金融機関と住宅ローンについての下審査(簡単に言うと事前打ち合わせ)みたいなことはやるんだけど、いざ蓋を開けてみたら「できませんでした~」みたいなことも実際にありまして、そうなったときは仲介業者のわれわれもかなり焦ります(笑)。
そうなった場合に「お金を発生させずに契約解除できるよ」という取り決めをしておくならば、ちゃんと契約書に書いておきなさいねということだ。
この飛鳥山公園なんだけど、じつは由緒正しい公園でして、飛鳥山公園のHPによりますと「明治6年、太政官布達によって、上野・芝・浅草・深川とともに日本最初の公園に指定されました」とある。 江戸時代中期、徳川吉宗が享保の改革の一環として整備を行い、行楽の地として江戸庶民に開放したのがこの公園の始まりだそうだ。
そんな飛鳥山公園には、なんと3つの博物館もある。
紙専門のユニークな博物館の『紙の博物館』、北区のことがなんでもわかる『北区飛鳥山博物館』、渋沢栄一の志を伝え続ける『渋沢史料館』だ。
この辺りを歩くなら博物館めぐりもいいかもね。
博物館と宅建試験
ところでみなさん、博物館とはなんでしょうか。
……っていうとなにやらむずかしく感じますけど、じつは博物館法という法律があって、こんなふうに定義されています。
(定義)
第二条 この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、併せてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(社会教育法による公民館及び図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)による図書館を除く。)のうち、次章の規定による登録を受けたものをいう。
で、この博物館法なんだけど、たまに宅建試験でも出題されます。
【令和4年(2022)問16】
都市計画法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(略)
4.区域区分が定められていない都市計画区域内において、博物館法に規定する博物館の建築を目的とした8,000㎡の開発行為を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなくてよい。
ここでは正解の選択肢のみを書いておきますね。というわけで答えは「受けなくてよい」のです。
ざっくり言うと、「開発行為」とは建築物を建築するための土地の造成工事をいいます。
そんで、都市計画区域内で「開発行為」をするには都道府県知事の許可(開発許可)が必要なんだけど、博物館だったら許可はいらないよ、となります。
ついでにもう1問。
【平成17年(2005)問18】
次に掲げる開発行為のうち、開発行為の規模によっては、実施に当たりあらかじめ都市計画法の開発許可を受けなければならない場合があるものはどれか。
(略)
4.博物館の建築の用に供する目的で行う開発行為
「開発許可は不要」でこの選択肢が正解。おなじパターンでした。
そうこうしているうちに、例によって夕方になる。
「きょうはなんだか不思議な気分も味わえたわ」
「なにが?」
「こうして渋沢栄一さんゆかりの地で、1万円札の原価が30円だったって知るなんてね」
「そうだね」
それでもいいのだ。みんなが価値あるものと認識しているなら、それでいい。
実態なんてなくてもいいのだ。
そしてオレはエルボーにこういった。
「これって、愛といっしょだね」
「ちがうんじゃない?」
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人