大正時代の蔵をカフェ空間にリニューアル
立川駅の北口から、JR中央線の線路沿いの道を歩くこと約15分。閑静な住宅地に現れる白壁の建物が『ヤマス蔵カフェ』だ。大正時代からこの地を見守ってきた歴史ある蔵を改装したカフェは、こぢんまりとした空間ながら、レトロな雰囲気を求めて他の街からわざわざ足を運ぶ人も多い。
木造の引き戸をカラカラと開ければ、タイムスリップしたかのような昔懐かしい空間が広がっている。
「いらっしゃいませ」と朗らかな笑顔で出迎えてくれたのは、店主の鈴木志生子(しおこ)さん。飲食店に勤務していた鈴木さんは、純喫茶店や趣のあるカフェをめぐるのが好きで、自分のカフェを開くことに憧れを抱いていた。そして2014年、一念発起して夢を実現させたのが『ヤマス蔵カフェ』だ。
「当時は子育て真っ最中だったので、新しい街に住むよりも、自分が生まれ育ったなじみのある立川で店を開こうと思い、実家の蔵をリニューアルすることにしました。蔵の雰囲気を生かしながら、この空間に合う家具を買いそろえたり、自分の家にあった道具をちょっとずつ持ってきたりして、空間を作っていきました」
壁や床などに蔵の面影を残した温かみのある空間は、リラックスして会話ができるのか、自然とお客さん同士の交流も生まれるのだとか。
ちなみに店名の「ヤマス」は、鈴木さんの実家が営んでいた商店の屋号からつけたそう。
「気がついたら毎日のようにオークションサイトやフリマサイトを見てしまいます」というほど大のインテリア・雑貨好きな鈴木さん。そんな彼女の真骨頂を見られるのが、階段を上がった先にある2階席だ。
子どもも大人も好奇心をくすぐられる屋根裏部屋のような空間には、アメリカンヴィンテージや昭和レトロなど、鈴木さんの好みで選んだアイテムが所狭しと並んでいる。座り心地のいいソファに腰かけながら、一つ一つのアイテムを眺めるひとときも楽しい。
ランチはパイ生地から手作りしたキッシュプレートが人気
コーヒーを飲んでのんびり過ごすのもいいが、この店にはランチを目当てに訪れる人も多い。鈴木さんが厨房で手作りする料理は「できるだけ体に優しい食材を使うように心がけています。性格的に、メニューを固定しちゃうと窮屈に感じてしまうので、その日の気分で一品増えることがあったり、同じメニューでも材料が変わったりと、ゆるくやらせてもらっています」とのこと。
気ままに変化するメニューの中でも人気なのが、パイ生地から手作りしたキッシュプレート。素朴な味わいが好評なのだそう。
玉ねぎやきのこなどの定番の食材を使ってシンプルに作られたキッシュ。生地はやわらかめにこだわり、ぷるぷるとした卵の食感が楽しい。パイ生地もソフトな食感なので食べやすく、まろやかな味わいに香ばしさをプラスしてくれる。手作りならではの愛情を感じられるキッシュだ。
「実は、メニュー表にない“隠れメニュー”を用意しているときもあるんです」と教えてくれたのが、隠れメニューのいちごみるく。提供可能な日とそうでない日があるため、飲みたい人は注文時に確認してみよう。
大きなグラスの中では、いちごを潰して鍋でコトコト煮た自家製シロップと、牛乳、ふわふわのフォームミルクがきれいな層になっている。いちごの粒々の食感と甘酸っぱさを存分に感じられる一杯は、もはやデザート級の満足度だ。
ケーキの種類は来店してからのお楽しみ!
デザートメニューのケーキは日によって種類が変わるため、訪れるたびに楽しみがある。常時2、3種類の用意があるので、その日のケーキは鈴木さんに尋ねてみよう。
取材時に提供していたのはチーズケーキ。「レアチーズとベイクドチーズのちょうど中間くらい」という生地は、クリームチーズをふんだんに使ったなめらかな食感だ。まろやかな甘さが口いっぱいに広がり、酸味も抑えられた親しみやすいチーズケーキだ。甘酸っぱいミックスベリーのソースにつければ、さっぱり感が増してさらに美味!
また、毎年夏には恒例のデザートとしてかき氷も登場する。レトロな製氷機で作る、自家製シロップをたっぷりとかけたかき氷も夏に欠かせないこの店の名物だ。
「常連さんは30代から50代くらいの方が中心ですが、最近はSNSを見て20代の方も来てくれるようになりました。おしゃべりが好きな方、静かに過ごしたい方……いろんな方が来ます。いつも顔を合わせているお客さんは、もう親戚のような感覚になっていますね」
立川で愛されている“蔵カフェ”は、一度足を運べばきっとお気に入りの一軒になるはずだ。
取材・文・撮影=稲垣恵美